「それで、何があったか説明してくれるかい?」
「あ、あの、浮竹隊長! お身体の方は……っ!」
十三番隊隊長室。
ルキアは、呼び出された。
自身の所属する隊の隊長に。
それは、なんら珍しいものでは無い。
浮竹十四郎は十三番隊をよく見ている。
それこそ、木っ端の隊員から副隊長まで、全ての隊員の名前を覚えている。
さらに、その趣味嗜好も知っているという少し変態的な知能を持っているが、それが気にならないほどの人柄を有しているため、こうした地位に着いている。
だからこそ、ルキアはこの呼び出しになんら怒りの意味が無いことを理解はしている。
そんなことより気になることがルキアにはある。
「お怪我の方は……」
現在、浮竹十四郎はボロボロである。
体の至る所に擦過傷があり、包帯でぐるぐる巻きである。
これの説明をするのはとても簡単だ。
我妻丈がやった。
それだけだ。
「アハハ……みんなそんなに心配しないで、別に死んでるわけじゃないからさ」
「現在進行形で死にそうに見えますが?!」
だが、そんな大怪我に反して、浮竹の表情は明るい。
いや、包帯でぐるぐる巻きにされていて表情は分からないが。
「うん、でもそれほどまでに僕にとってあの人との再会は嬉しいもので、懐かしい気持ちになれるものだったからね
その言葉にルキアは返す言葉もない。
浮竹十四郎の、隊長ではない表情。
ただの、少年のようなその表情に。
「それで、僕が寝ている間に何が起きたのか、教えて貰っても大丈夫かい?」
「あ、はい。
それでは、隊長も知っての通り、我妻丈の……その、訓練に寄って浮竹隊長、京楽隊長が……その、虐殺? された後、戦いは起きませんでした」
「まぁ、今の隊長副隊長は丈さんのことを知る人は少ないからね、それも当然か」
浮竹はルキアの言葉選びを否定することなく、淡々と手元の紙に記していく。
「その後、1度。
1度だけ、鍔迫り合いが、総隊長と我妻丈の間で行われました」
「ちなみに聞いてみるけど、何か分かったかい?」
「…………申し訳ないですが、一瞬たりとも知覚が出来ませんでした。
あの時は突如起きた衝撃に身を守るので精一杯で、鍔迫り合いが起きたことも、その後に見た光景からの推察です」
「いや、見たことで大丈夫だよ。
隊長に聞いてもはぐらかされるし、副隊長たちも今は忙しいだろうからね」
「あ、あの、私はこんな所でお話をしていて大丈夫なのでしょうか?」
「ん? どういうことだい?」
「いえ、あぁ、そうですね。
今、我妻丈は、一護たち現世のもの達と話しています。
おそらく雰囲気的には訓練だと思います。
そんな訓練をしているのに、私はお話をするだけでいいのかと……」
「あぁ、それなら心配はないよ」
不安そうにするルキアに、浮竹は微笑みながら言葉をかける。
「先程聞いた話だけど、今回丈さんは何かアクションを起こす気は無いらしい」
「……それは、どういう点で」
「それは、そうだね……。
わかりやすく話すと、今回お弟子さんである源氏君の誘拐に関して、関与しないと言っていた」
「なっ! それはっ!」
ルキアは驚愕のあまり、立ち上がろうとする。
しかし、今ここでなにかしても意味は無い、そんな考えも同時に頭によぎった。
すぐに座り直しながら、
「仮にも、孫、なんですよね?
自身の親族を誘拐されている……ましてや藍染惣右介に連れ去られているのに、何も、しないのですか?」
「むしろ、誘拐されたからこそ、だね」
「誘拐されたから……?」
「誘拐、ってのは手間がかかる。
ましてや今回は裏切りだ。
もし、源氏くんが最初から藍染惣右介と繋がっていたならまだしも、あれは彼の意志に関係ない」
「それは、そうですが」
「だからこそ、何故、誘拐したのかが大事になる」
「何故? それは、何か源氏が藍染の欲しいものを持っていた?」
「そう、そうだね」
「でも、それはものじゃなくて源氏そのものを連れていかなければならない……?」
「そうだよ」
「源氏は……源氏に、何かをなさせる為に、連れていった?」
「よく分かったね」
いつの間にか浮竹は娘の成長を願うようにぱちぱちと拍手をしていた。
「ま、待ってください。
ということは、源氏には特別な何かが……」
「あ、それはないね」
「…………ないんですか?」
「あぁ、連れ去られる前、僕がこの目でしっかりと見た。
彼は凡庸だねぇ」
「ひ、酷い言い草というかなんというか」
ルキアは自分の表情が引き攣るのを止められない。
仮に源氏がいたら『喧嘩ですかぁ?!』とでも言って殴りかかりそうだ。
いや、源氏なら殴り掛かる、そうルキアは確信づけた。
「いや何、これは最上級の褒め言葉だよ?
だって彼は凡庸のみでありながら、隊長と互角に渡り合った」
「まぁ、話は聞いておりますが」
「砕蜂は口を割らないから詳細は分からないが、口を割らないってことは闇討ちとか騙し討ちではなく、純粋な勝負で負けたんだろうよ」
「…………」
ほんとこの人は、人をよく見ているというか。
ルキアは少し怖くなった。
微笑ましくしている下に、何を考えているのやら、と。
「さ、それで鍔迫り合いの後はどうなったんだい?」
「あぁ、そうでした、話の続きですね。
鍔迫り合いの後、我妻丈は総隊長と仲が良さそうに肩を組んで、一番隊隊舎へと向かっていきました」
「そうか、付き添いは許さなかったか」
「雀部副隊長はついて行きましたが、それ以外には……」
「そうだろうね」
浮竹はルキアの話に微笑みながら、
「よし、それじゃあ分かった。
僕はここでもう少し仕事をしてから丈さんに会いに行こうと思うから、好きにしていていいよ」
「そ、そのお体で大丈夫なのですか?!」
「大丈夫大丈夫、丈さんの前でそんなこと言ってられないから」
ルキアは、浮竹隊長の事を全て知っている訳では無いが、こんなことをする人ではないことを十分理解している。
だからこそ、この時のルキアは苦笑いをするしか出来なかった。
☆☆☆☆☆
「我妻源氏について、今後の話じゃ」
勉強部屋。
俺たちは丈さんに呼ばれ、ここに集められていた。
チャド、石田、井上、俺。
現世からやってきたものたちが呼ばれ、ここに集まっている。
「まぁ、そんな堅苦しくなくて良い。
今日は流石にこれは使わんからな」
「……使わなくても更木剣八を圧倒していたように見えたのですが」
「ハッハッハ、手を抜いたあいつにこれを抜くなんてそれこそ無駄ってもんだ」
腰の刀を揺らしながらケタケタと笑う丈さんだが、相手はあの剣八だぞ?
ちょっとよく分からないと思いながらも、
「……なんで、俺らに源氏のことを?」
「いや何、ただの老婆心じゃよ」
「老婆心……?」
思わず疑問符を浮かべてしまった。
そして次の瞬間には、
「老婆心、じゃよな」
「YESSir!」
「うむ」
首元に刀が添えられていた。
いやマジでわからん。
ほんとにこの人の太刀筋は分からない。
よくこんなんかわせるなほんと。
ほら、周りのヤツだっていつの間に刀を抜いたのか気になってというかビックリして状況飲み込めてないって。
「まぁ、まずは、ありがとう」
「えっ?!」
「な、なにを」
「頭あげてください! 源氏くんのお爺さん!」
「何をしているんですか!」
あの我妻丈が、頭を下げた。
死んでも頭を下げないように見えるこの人が下げるのが本当に衝撃的で、思わず止めるとかでもなく固まった。
「あのバカ源氏は、生きる。
尸魂界に侵入なんて馬鹿なことやって生きていけるのは、あのバカだけ。
それを共に行い、そしてあまつさえ生き残ったことに、感謝する」
「そ、そんな、僕らの方こそ力になれなくて……」
「そ、そうです!
結局最後まで戦っていたのは源氏くんだったし……」
「不甲斐ないと思っている」
「それでも、あのバカのせいで死ななくて、有難い」
感謝の方向性が独特だが、なんとなく、源氏への信頼も感じとれるから、俺は何も言わなかった。
訓練している最中にも感じたけど、ほんと仲良いんだよな、この人たち」
「まぁ、感謝は伝えたとして。
今から、我妻源氏という人物に関して、少し教えよう。
流石に全て教えるのはプライベート? 侵害? らしいからあれじゃがの」
多分よく分からないけど源氏が話していたんだろう、少したどたどしいながらも、丈さんは自慢げに話す。
「この話で、理解して欲しいのは、我妻源氏は生きている。
そして近い将来、お主らの目の前に立ふさがる、という事じゃ」
「「「「?!」」」」
いきなりの発言に、俺らは全員息を呑む。
「恐らくじゃが、あやつは藍染惣右介に利用され、こちらを裏切る形を取る。
形はどのようであれ、少し戦ってこちらに戻ることが出来ないと判断した場合、即座に殺す」
「ちょっ! ちょっと待ってくれよ!
連れ去られたのは分かるし、利用されるのもわかるけどよ、あいつが俺らを裏切るなんて有り得るのか?!」
「有り得る、というか確実に裏切る。
……だって、あやつ、絶対裏切る性格してるじゃろ?」
だれも、その言葉に言い返せなかった。
ほんと、なんで誰も言い返せねぇんだよ、源氏さんよ……
「そしてあやつは活かしているとまじで本当にいいことがない。
だから本当に早急に無理だと思ったら、殺してくれ。
と言ってもお主らには出来ないじゃろうから、その時は儂に言うんじゃ」
それじゃあ、先に現世に戻る、とそう言い残して、丈さんは去っていった。
残った俺らは暫く無言だった。