バタン! と大きな音がしたのでドラルクはあっけなく塵になった。
隣にいたジョンは突然主人が塵になってしまったことに動揺し、『ヌ~!』と悲しみの雄たけびを上げる。
『ちょ、な、なんだっていうんだ一体』
するすると元に戻ったドラルクは、音の元凶であるシャワー室へずんずんと進んでいった。
人形の調査を請け負い、屋敷に来た後、ただでさえ神経質になっているのにあのゴリラは何をしているのだ。やれやれと、吸血鬼は首を振る。まったく、わたしがついていないと調査もまともにできないんだから! その時、ドラルクの頭から人形と戦闘した際に足元で砂になっていたことはきれいさっぱり消えていた。
どうせシャンプーの影とかにビビったんだろ、青二才め。急に開けてびっくりさせてやるわ。ヒヒヒと、凶悪的な笑みを浮かべつつ扉を勢いよく開き、その奥にあるシャワーカーテンも開け放つ。ドラルクの予想では、裸のロナルドが「ギャー‼ バカ‼ この変態吸血鬼‼」とかなんとか言って、石鹸を投げてくる予定だった。しかし、扉をあけ放ってすぐ、ドラルクの目は点になった。
シャワー室はユニットバスになっており、カーテンを開くと大きなバスタブがあった。白いバスタブには、不釣り合いなたくましい足がにょきりと引っかかっている。
『ロ、ロナルドくん?』
いやな予感がしつつ、そっと覗き込んだ。
バスタブの中には白目を剥き、泡を吹いたゴリラもといロナルドがいた。
『ギャァァァァァァァァァァァァ‼‼‼‼‼』
予想していたとはいえ、衝撃的なものを目の当たりにすると人は――いや、この場合吸血鬼だが――は、おかしな行動に出るものである。瞬時に塵になっていればよかったのだが、その時は上半身だけが塵になり腕や足はまだ原型を残していた。一時的に塵となり、周りが見えていなかったドラルクはふらりとよろけてしまいうっかりシャワーのレバーを押してしまう。
そこからは悲劇のはじまりである。
塵の姿で水を被ってしまったため、粘土のように塵が固まる。そのため上手く再生が出来ず、シャワー室の床でうごうごと蠢くことになってしまった。
そこへ第六感を駆使して主人の危機を察したマジロが駆け付け、主人と同居人の無残な姿を見て混乱し丸まってごろごろと転がり始める。
数分間混乱した後、やっと吸血鬼たちは事態を把握した。
『つまり、ロナルドくんは気絶してしまったわけだな』
『ヌヌヌ』
『見たところ怪我はしていないみたいだけどね。人の子って、頭打つとまずいんだっけ? でもロナルドくんなら問題ないか』
『ヌヌ!』
『お、そういえばチャー〇ーとチョ〇レート〇場』で、リスが胡桃の中身を検品するために叩いて音を聞いていたシーンがあったな。脳みそでも同じことができるかもしれない。ジョン、やってみてくれたまえ』
『ヌ、ヌヌ~?』
ジョンはいぶかしげな顔をしながらも、大好きなご主人のいうことなので素直に従う。コンコンと叩いて音を聞いてみる。
『……うむ、他の音を聞いたことがないからわからんな』
『ヌヌ~』
ロナルドが起きていれば「そんなのやる前からわかるだろ、急にファンタジーだしてくんじゃねぇ。このメルヘン砂おじさん!」と煽ったところだが、気絶していたので何もなかった。
『とこかくここから運び出そう。さすがのゴリラでもこのままでは風邪をひいてしまいかねん』
『ヌヌ! ヌヌ、ヌヌヌッヌ?』
『あぁそれが問題だ。いまはわたしとジョンしかいない。二人でこの筋肉ダルマを運ぶのは至難の業だろう』
『ヌ~』
『とりあえず方法が思いつくまでバスタオルでもかけておくか』
ドラルクはばさり、とロナルドにバスタオルをかける。そして落ち着くために一旦、居間の方へ戻った。
『問題は浴槽からここまでそうやって運ぶか、だな。距離はそうでもないが、成人男性を一人抱えていくのはなかなかキツイ』
『ヌンヌ!』
『お、なにかいい案があるかね? 発言を許そう』
ドラルクはさきほど煎れたお茶を啜りながらいった。ロナルドがいれば「いつの間にお茶淹れてんだよ! そんなことしてないで早く助けろ!」と言うのだが当の本人が気絶しているのでやりたい放題である。
『ヌンヌ! ヌヌヌンヌ、ヌヌヌヌヌヌ――』
主人に発言を許されたジョンは、懸命に自分の案を発表した。ドラルクは深くうなずいて立ち上がる。