今日の退治人ギルドは盛況であった。ギルドはいつも退治人で混んでいて、閑古鳥が鳴くことはないのだが、本日はとりわけ人が集まっていた。いつものように飲み物を持ち、談笑しているがちらちらと誰もが扉の方を気にしている。
「ごめん、遅くなっちまって」
 ギィと音を立てて、誰かが入ってきた。特徴的な帽子にケープ、そして全身は印象的な赤。彼は苦笑いを浮かべながら、周囲の退治人たちに詫びる。
「おっ、やっと来たかロナルド」
「別に誰も気にしてねぇよ。あれ、服汚れてねぇか?」
「あぁ途中で下等吸血鬼に会ったんだ。でも大丈夫。ばっちし退治しておいた」
「流石ロナルドだぜ」
 仲のいいショットが拳を上げると、ロナルドも同じように返す。彼の周りにはいつの間にか、わらわらと人が集まってきた。
「で、ロナルド。例のものは持ってきたのか」
 ショットの言葉にびくり、と震えるロナルド。
「あぁ持ってきたぜ」
 小さな歓声が上がるギルド、喜ぶ彼らとは反対にロナルドはどこか複雑な表情をしている。
「今日はなんだ?」
「楽しみだなぁ」
「おいショーカ! サテツおさえろ、あいつロナルドのバスケット狙ってる!」
「抜け駆け、ダメ」
 理性をなくしたサテツに、おおい! とロナルドは持っていたバスケットを上へにあげた。
「おーけー、わかったよ。もう早く渡すから」
 ため息とともにバスケットをテーブルに置く。篭あみの茶色のバスケットで、上には赤いギンガムチェックのスカーフが置かれている。ロナルドが持つには、いささか浮いているデザインだ。
 ロナルドはバスケットの上にかかっていたスカーフを取った。
「おぉ! かわいいじゃねぇか」
「これは旨そうアル」
 主に女性陣からの歓声があがる。
「……今日はカップケーキ、だってさ。みんな食べてくれ」
 そういった瞬間、奪い合うようにしてバスケットに人が殺到した。一仕事終えたロナルドは、帽子を取って椅子に座る。
「おいしいおやつをありがと、大変だったでしょ。ほらこれ飲みなさい」
「シーニャ、ありがとう。丁度のどがカラカラだったんだ」
 氷の入れられたアイスティーは、動いた後の火照った体に染みわたる。一気に半分くらい飲み干してしまった。
「今日も大盛況ね。でも本当にいいの、わたしたちもらってばっかで」
「いいんだよ。大量に作るから持て余しちゃうし。ジョンも食べ過ぎで太ってもいけないしな」
 ふぅ、とまた息を吐いてカップケーキを取り合う仲間たちを眺めた。
 そうロナルドが持ってきたバスケットは、ドラルク作のカップケーキの詰め合わせだ。最近、作りすぎてしまうとこうしてギルドに持ってきて配っているのだ。
「ドラルクあいかわらず上手いなぁ。どうやって作ってんのか、全然わかんねぇ」
「この時間に甘いものはダメだとわかっていても、あらがえないアル」
「あ、なんか今日のはカロリーが低めって聞いたぜ。米粉? を使ってるから」
「さっすが、ドラ美ちゃんだわぁ! わかってるぅ~」
「ド、ドラ美ちゃん?」
「お礼いっといてくれよな。俺はこの青いやつが好きだった」
「ワタシはピンクの奴がすきヨ」
「わかった。いっとく」
 いつの間にか、女子(?)たちに囲まれていた。ここにヒナイチも呼べればよかったのだが、一応メッセージは送ったのだが今日は業務があったので難しかったらしい。食べられないのを残念に思っていた。
「んで、今日はなんで喧嘩したんだ?」
「はぁ⁉ 急になんだよ」
「ちょっと、マリア。あんたは聞きにくいことすぐいうんだから! これからゆっくり聞き出そうとしてたのに!」
「でもこいつ、たぶんぐちぐち言ってらちが明かないネ。これくらいはっきり言ってやった方がいいよ」
「ターちゃん!」
「ま、待てよ。俺はドラ公と喧嘩したなんてはっきり言ってねぇだろ」
「いやバレバレだろ」
「女の勘ネ」
「というか、バレてないと思ってたのー? やだぁ、この子。本当に鈍感なのねぇ」
 三人の目が憐れむものに変わる。ロナルドはぐぬぬと押し黙った。
 
「だいたいこのカップケーキもストレス発散なんだろ?」
「逆に慰めて欲しくて配ってると思ってたアル」
「ギルドに来るのも事務所にいるのがいたたまれないからでしょ。あの子も頑固だもんねー」
「ま、ほんと! そんな一気にいわないでくれろください」
 ロナルドは少しいじいじした後、女子三人の方へ向く。
「え、じゃあみんな俺たちが喧嘩してるってわかった上でお菓子食べてくれてたのか?」
「みんな割と心配してるぜ。最近は頻度が高いしよ」
「お前が帰った後のイソギンチャクが、絶妙にうざいからなんとかしろ」
「サテツは気が付いてないと思うわ。あの子は普通に食べ物がくるからきてるだけよ」
「oh……」
 なんだか頭がくらくらしてきた。まさかすべてバレていただなんて。なんというか、恥ずかしすぎる。もう顔から火が出そうだ。
「た、大したことじゃねぇんだけど。あいつ、この前俺が怪我したのが気に入らなかったみたいで。そっからずっと機嫌が悪いんだよ。ジョンも困っててさ」
「あの頭打ったやつアルか?」
「ま、出血量が酷かったしな」
 つい先日、吸血鬼と戦闘した時に誤って高所から落下してしまい頭に擦り傷を負ったのだ。幸い、脳になんの異常もなくすぐに帰れたのだが、その日からドラルクの機嫌は何となく悪いのだ。
「でも別に怒られることはしてないだろ! 怪我だって大したことじゃなかったし」
「うーん、ドラ美ちゃんが怒ってるのはそういうことじゃないんじゃない」
「え、う……わけわかんねぇ」
「あのさ、お前知らないだろうけど。あの時、ドラルクが一緒に救急車に乗ったんだぜ」
「え?」
 初耳だった。
「そ、そうなのか」
「だって一緒に住んでいるのはドラ美ちゃんでしょ? 緊急連絡先はそこかと思って」
「あいつ、いつも以上に驚いてたネ。まぁ前の頭、血だるまだったから無理もない」
「血だるまって」
 ターちゃんは、そんな話をしながらもカップケーキを食べるのをやめない。
「だ、だから起きた時ドラ公がいたのか! どうやって知ったんだろうと思ったんだよな」
「その後、ちゃんとドラルクと話したのか」
「は?」
 話したか、といわれると自信がない。あの後も退治の仕事が入っていたので、身体に異常がないとわかると、すぐ飛び出してしまったのだ。思えば、あの時からドラルクの顔が曇っていたような気がする。
「話してない、かも」
「原因はそれネ」
「でもさ、こういう仕事してるんだから危険な目に遭うのは仕方ないだろ。そんなんでへそ曲げてたらキリがねぇぜ」
「うーん、そうね。でもロナルドは、ドラ美ちゃんとコンビを組んで相棒なわけでしょ。もう勝手に自分の身を危険にさらすのは、あまりよくないんじゃないかしら」
「お前、一人の身体じゃないってことだな!」
「それはちげぇだろ!」
 マリアは豪快に笑う。
「でもさ、でもそれだと」
「なんネ、さっきからくねくねして気持ち悪いヨ。はっきり言うアル」
「なんていうか、それだとドラ公が俺の事すごい大切、みたいに聞こえねぇ……か」
 言いながら恥ずかしくなったらしい。最後の方の声はしぼんでほとんど聞こえなかった。
「……あんたって子は本当に難儀ねぇ」
「流石の俺もびっくりしたぜ」
「なよなよすんな、しゃっきとしろアル!」
 急にバン! とターちゃんに背中を叩かれ、飛び上がるロナルド。
「もうお前らの痴話げんかに付き合う義理はないネ。どうでもいいから、頭でも下げてさっさと仲直りしろアル」
「なんだよそれ乱暴すぎねぇか⁉」
「いやターちゃんの言うとおりだな。早く帰ってドラルクに謝ってこいよ。今日は特に大変な依頼も入ってないしさ」
「そうよ。きちんと話し合えばわかるはずだわ、二人とも大人なんだしね」
 でも、と戸惑うロナルドにシーニャはため息をついた。
「あー、もう。じれったいわね。これ以上長居するなら、私の新衣装モデルになってもらうけど――」
「遠慮します大丈夫です! ありがとうございました!」
 ロナルドは帽子をひっつかんで去っていた。残された三人は豪快なため息をつく。
「本当、世話が焼けるアル」
「あれでやっていけんのか」
「残念だわぁ、ロナルドに似合うと思ったのに」
「いや、本気だったんかい!」
 ターちゃんの鋭い突っ込みに「いやん!」とウインクを送るシーニャ。
「ともかくこれでしばらく夜食はお預けアルな」
「いいんじゃね? カロリー少なめとはいっても、これ以上は太るだろ」
「あら、女の子はちょっとぽっちゃり目の方がかわいいのよ?」
「まったく、正直これ以上はうんざりだったアル。どっちかっていうと、のろけに来てただろ。あいいつ」
「まぁまぁ、それだけ一生懸命で気が付いてなかったてことよ。かわいいじゃない」
「世話の焼けるやつらアル」
「しかし本当に旨いよなぁ」
 マリアはロナルドの持ってきたお菓子を口に放り込んだ。
「このバナナケーキ、ロナルドの好物だろ?」
これでおしまい!!!!!!!!!!!
カット
Latest / 72:20
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
0813ワンライ
初公開日: 2022年08月13日
最終更新日: 2022年08月13日
ブックマーク
スキ!
コメント
ドラロナワンライ。お題は「ドラロナ版ワンドロワンライ一本勝負」@DR_60min さま、『バナナケーキ』『喧嘩ップル』
2.吸血鬼退治人は鬼姫を攫え
監視してください!!!!気まぐれに始まり気まぐれに終わる
未定
現パロchi夢バデ山とキス部屋(完!)
全てを変える───。(もしよかったら、チャット欄で話しかけてみてね!)
ぱな