ヒーローだからと10年以上非公開だったそれを明かして初めての誕生日を迎えたあなたは、半年前からカウントダウンのために前日含めてびっしりと押さえられた当日のスケジュールに暫く不満を口にしながら事務作業をこなしていた。
確かに今までは文字通り家族以外に秘密の一日だったのだから、楓ちゃんからの電話も翌日まで難しそうだというのは彼女を溺愛している彼には辛いだろう。ただ楓ちゃん自身からそういうのをしっかりやり遂げるのもヒーローじゃない?と言われその姿を見せてほしいと鼓舞されてからは当日へのやる気も出てきたようだ。
そのおかげでHERO TV特別編のカウントダウン番組は盛り上がり、翌日各種イベントや取材に追われる中事業部に臨時で来ていたベンさんからの連絡で「バースデーカードやプレゼントが山のように来ているぞ、もうちょい早く公開しといてもよかったな」と伝えられ「そうっすかね」と返す彼の目には少し涙が浮かんでいた。
僕らがTVスターなら忙しくもつつがなく一日を終えられるのだが、そうはいかず今日も本業である出動要請が入った。ここは本日の主役に花を持たせて…なんて甘い事は言っていられないので本日のMVPは最近上手くいき始めた連携を見せて強盗犯を確保したMr.トーマスの二人だった。「獲られちまったな」と口にするあなたのマスクの下はきっと優しい笑顔なのだろう。
出動要請を加味したスケジューリングもロイズさんが提案していたようで、AMに戻ってからも日付が変わるまではなかなかに忙しくあの人の敏腕ぶりには舌を巻く。本当に驚いたのは全てのスケジュールが終わったのが日付が変わる1時間前だったことが分かってからだったけれど。そういえば移動中も普段以上にせかしていたのはこういう意味だったのか、と二人で顔を見合わせて笑った。
ベンさんから受け取ったファン、そして仲間達からのプレゼントを抱えた虎徹さんを助手席に乗せて彼の車を走らせる。カードを読んでニヤニヤしている彼と共に視界に入る街の明かりが今日だけは彼が何度も吹き消した蝋燭の光に見えて、消えてほしくないとふと思った。
虎徹さんの家に着いたのは8月14日23時45分。プレゼント達をそっと綺麗にしたテーブルに置いて、手を洗いジャケットを脱いだら自然と口付けながらソファへと彼を押し倒した。深くて長いキスは、車の中で食べたキッドさんからのプレゼントの甘い味がした。
明日は二人とも休みを取っていて、ディナーを楓ちゃんと一緒に食べるまでは二人きりで過ごせる。だから日付が変わろうとしていても自然と焦りは無かった。ただ、ひとつだけ伝えたかったことがあった。だから口を離して。
「改めてお誕生日おめでとうございます。プレゼントはプライベートタイムの僕です、とりあえず来年まで有効ですからあなたの好きな所も沢山行って好きな事も沢山しましょうね。」
キスだけのせいでなく顔が赤くなっていくあなたを見つめながら健康面の口出しはしますのでお忘れなくと付け加えると、「そんな綺麗な顔でご無体なこと言うなよ!」といつもの困り顔になる。
二人きりの時の顔も好きだけどやっぱりこの顔が大好きだ。そう思い微笑んで僕は「ファイヤーさんから聞いたんです、最初の僕の誕生日に同じことしようとしてたって。当時のあなたはめんどくさくてそう言っただけでしょうけど、あなたを好きになってからそれを聞いた僕の気持ちを味わってくださいね。」と言って肩に手を回して抱き寄せる。
それに応えるようにあなたも僕を抱き寄せて、「じゃあ来年の俺の誕生日前後、有給取ってオリエンタルに行こう。うちの家族みんなと過ごしたい、駄目か?」そう囁いた。
返事を口に出す必要は無く、僕はより強くあなたを抱きしめて。そしてまた口付けた。
きっとあなたの誕生日はもう終わっている、けれどまだまだ幸せだ。
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兎視点文章書く枠
初公開日: 2022年08月13日
最終更新日: 2022年08月13日
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