7サテツマリアパート
◇◆◇
 
「ったくよ、どこもかしこもしけてんなぁ」
 マリアのため息混じりの声に、サテツは苦笑いをした。
 調査する、とロナルドたちに協力を申し出たまではよかったが、目ぼしい成果も上げられず空振り気味だ。船員の何人かに声をかけたが、ロナルドが聞いた噂以上のものは得られなかった。
「リニューアルで元々のスタッフがだいぶ減ってるみたいだし、仕方ないよ」
「楽じゃねぇな。シンヨコみたいに殴れたら一発解決なんだけどよ」
 そうしてパンっ! と拳を叩く。ドレスですると違う迫力がある。それにもハハ、と、苦笑いを返す。
「向こうはうまくやってっかな」
「喧嘩してないといいけど」
 あの後、くじ引きで決まったペアは、神様が悪戯したとしか思えなかった。サテツとマリア、ロナルドとドラルク、そして見事にショットと一緒になったターちゃんはまさに苦虫を噛み潰したような顔をして「ゲ」と言っていた。
「どうだろ。あぁ見えていいコンビだと俺は思うぜ」
「そ、そうかな」
「まぁ変なとこで息が合う二人だからさ」
 マリアは本当に気にしていないようで、からからと笑っている。大丈夫だろうか、サテツからするとなぜか噛み合わない二人なのだが……。
考え込んでいると、急に背中を強く叩かれた。
「しゃーねぇ、一回諦めてパーっと飲んじまおうぜ。普段は酒飲めないしよぉ」
「えぇ、それはちょっと」
「力入れ過ぎてもよくねぇって、な?」
 こてん、と首を傾げた様子が普段より少し幼く見えてかわいい。
「あんまり飲みすぎるなよ」
「わかってるわかってる」
 二人がいるのはバーラウンジ、酒場であれば情報が集まるかと思ったが拍子抜けだった。
 バーでは、ジャズが絶えずかかっており人々は思い思いの会話を楽しんでいる。マリアも早速カウンターのバーテンダーに話しかけ、今日のおすすめを聞き始めた。
 それにしても、とサテツはちらりとマリアの方を見る。今日のマリアは、なんというか綺麗すぎる。
 元々から顔立ちが整っているとは思っていたが、シスター服に隠れてじっくり見たことはなかった。ぴったりとした黒のドレスが、すらりと背の高く、モデルのように引き締まった身体つきを強調している。時折男性から熱い視線を送られているが、みな気後れしているのか声をかけられることはない。
 愛らしさ、よりも美しさが際立つ彼女は高嶺の花で、その花を摘み取ろうという男は相当自信があるか、ただ無鉄砲なだけだ。それでも諦めがつかないようで、ギラギラとした視線がなくなることはない。本人はどこ吹く風といった具合で笑っているが、内心サテツはヒヤヒヤしていた。
 それに比べて自分はどうだ。一応見てくれは整えてはいるが、野犬が毛並みを整えた程度だ。熱い視線をマリアに送った後であからさまに(なんでこんな奴が)と怪訝そうな顔をしていた男を何人も見た。
 せめてくじ引きがターちゃんとだったら、兄妹くらいには見えたかもしれない。今日のショットはなかなか似合っていたし、マリアの隣に立っても様になっていたに違いない。自分はなんてくじ引き運がないんだ、俺なんか……。
「もらってきたぜ! え、なんか暗くね?」
 どんよりした空気をかもしだすサテツに微妙に引きながらも「ん」とドリンクを差し出す。
「なにこれ」
「ワカンねぇ、しょっぱくてうめぇやつ」
 びっくりするほど何もわからん。それでもとりあえずグラスは受け取っておいた。
 背の低いグラスにレモネードのような液体が満ちている。グラスの縁には白い粉。飲もうと口をつけると、自然と粉と一緒に飲むことになる。口に含むとたしかにしょっぱい。これは……塩だ。その後に爽やかな柑橘系の酸っぱさが口一杯に広がった。これは美味しい。
「ソルティドッグですよ」
 バーテンダーがくすりと笑って答える。
「あーそれそれ。聞いたのに忘れてた」
「割と覚えやすい名前だろ……」
「お嬢さんから頂いたリクエストが『船にちなんだカクテル』でしたので」
「……どこらへんが」
 目の前のグラスを見ても船要素は見られない。しいていえば、縁についている塩が海を連想させるぐらいだろうか。
「ソルティドッグは、元々イギリスの英語スラングで『甲板員』のことです。汗と潮まみれになりながら、犬のように働く=ソルティドッグだそうで」
「へぇ……」
「こいつを甲板でひっかけたら旨いだろうなぁ」
「当時の船乗りもそうしていたのかもしれませんね」
 カクテルをもう一度口に含む。たしかに仕事終わりにこの酸っぱさとしょっぱさは癖になるかもしれない。アルコールを抜いて作れるなら、ギルドのマスターに頼みたいぐらいだ。
「中のウォッカとグレープフルーツの酸味が特徴的なカクテルですが、縁の塩がアクセントになっているでしょう。美しくも刺激的なお嬢さんにはお好みのカクテルかと。お連れの方もどこか犬に似ていますし」
「大型犬みたいだろ! サテツっていうんだぜ」
 くしゃくしゃと抱かれるようにして頭を撫でられ、思わず「ワン!」と答えそうになるサテツ。
「それにまぁ、これを選んだのにはもう一つ理由があるんですが」
 バーテンダーがなぜかサテツに近づいて声をひそめる。少し不思議だったが顔を近づける。
「実はもう一つリクエストがありまして」
「もう一つ?」
「なんだか隣のやつが疲れてるみたいだから元気を出してやってくれと」
「……はぁ」
「気にかけられているようですね」
「そう、かな」
 マリアは他の客と談笑し「ガハハ」と笑っている。そんな殊勝なことを考えるような人間には見えない。それよりも、このバーテンダー、一体何を期待しているのだろうか。心なしかこちらを見る目が輝いている。
「勤続30年、このわたくしバーテンダーとして様々なお客さまを見てまいりました」
「あの」
「あなた方を見ていると若い頃の甘酸っぱい気持ちを思い出します。だから、あのカクテルを選んだんです」
「何か勘違いしてません?」
「わたくしはあなたの事を応援してますよ! あなたが隣で睨みを効かせて彼女を守ってるのはわかってるんですから! この審美眼には自信があるんです」
「その審美眼間違ってますよ」
「あのカクテルはあなたをイメージしたものでもあるんです。カクテル言葉ってご存知ですか? ソルティドッグのカクテル言葉はですね──」
「マ、マリアと俺はただの仕事仲間です!」
 思わず立ち上がるも「分かってます! 大丈夫です!」と肩をつかまれるサテツ。このバーテンダー意外に力が強い。
「ちょ、まっ、マリアたすけ──」
「いかねぇっていってんだろ!」
 ジャズの響き渡る店内で確かに聞こえた。少し小声だが嗜める声。マリアだ。
 素早く視線を走らせると離れた場所にマリアが居た。バーテンダーと話しているうちに、ずいぶんと距離が空いてしまったらしい。
 マリアはあからさまに顔をしかめて目の前の男を見ていた。
 なんと勇敢な男もいたものだ。サテツが離れた隙にマリアへ話しかけに行ったらしい。背が高く甘いマスクの男で、おそらく数々の女性たちをものにしてきたであろう見た目をしている。その証拠に、硬派なスーツで着飾っていてもどこか軽薄な雰囲気が漂っていた。なにもこんな相手を選ぶことないのに、とサテツは思った。今夜はとてつもなく相手が悪い。
 先ほどから睨みつけているマリアは絶対零度の邪眼を放っており、視線だけでかき氷ができそうだ。それでも話しかけられる男はある意味、賞賛に値する。
「手ェ、離せよ」
「ごめんごめん、強く握りすぎちゃったかな」
 先ほどから唇を噛み締めているのが見えないのだろうか。そんなに顔を近づけていたら、鼻先に噛みつかれても文句は言えまい。
「ちょっと相手してくれるだけでいいんだよ。そんなに難しいことじゃないだろ」
「嫌だって言ってんだろ。聞こえねぇのか」
「まぁまぁそんな怖がらずに」
 なんというか、怖いもの知らずだ。
 サテツはため息をつく。
 寄ってきたのは勇敢というより、相当な馬鹿だったらしい。
「大丈夫かなぁ」
「行かなくてよろしいんですか」
「その妙にキラキラした目をやめてください。俺が出る幕ではないとは思いますが……」
 小競り合いはますますヒートアップしていた。振り払った手を男がもう一度掴む。思ったより強かったようでマリアの声が上がった。
「痛っ!」
 そこでサテツは立ち上がる。
「この辺にしませんか」
 サテツはマリアを背にし、割って入るように立った。バーテンダーが無言で頷いていたが無視する。自分の柄ではないが仕方がない。
「脈がないの分かりきってるでしょ。声をかけて、引っ込みがつかなくなってるんだと思うんですけど、一度帰ってください」
「お前急になんなんだよ」
「俺は」
 ちらりとマリアを見る。マリアは怪訝そうにこちらを見ていた。くじとはいえ、今日マリアの隣にいるのは自分である。
「この子は俺のツレです」
「はぁ?」
「だから帰ってもらえませんかね」
「今まで出てこなかったのになんだよ。明らかに釣り合ってないだろ」
「や、やっぱりそう見えるんだ……。いや、あの! 関係ないんで、手を離してあげてくれません?」
「今まで出てきてない奴が調子のいいことを……」
 男が拳を振り上げた。止めることもできるが、ここで応戦すれば騒ぎになるし向こうは一般人。怪我をさせては元も子もない。仕方ない、いつもこんな役回りだ。ため息をつきながら、サテツは衝撃に備えて目を閉じる。
「──聞こえなかったのか。[[rb:俺のツレ > ・・・・]]だぜ」
 耐えようと思った衝撃がいつまでもやってこない。代わりにガシャン!と大きな音とグラスの割れる音がした。おそるおそる目を開けると、右脚を振り上げたマリアと床に伸びる男がいる。カッ! と鳴り響くヒールを床につけ、腰に手を当てる。
「ふん、ざまぁねぇぜ」
 男を覗き込むようにして見ると、ニヤリと吐き捨てた。
「マリアさん!」
「レディ、ブラボー! ブラボーです!」
「バーテンダーさんは興奮しないで!」
「まって? あの人退治人の『マリア』じゃない」
「ウェルカムパーティーの時に見た人?」
『すごいカッコよかった』
「ファンになりそう」
『むしろ倒されたい』
 思わず頭を抱える。どーもどーもと声援に答えているマリアの腕をひいた。
「目立ちすぎだよ! 逃げよう」
「えーなんで」
「一般人張り倒したのわかったらまずいだろ」
 床に伸びる男をちらりと見て、マリアは肩をすくめた。
「たしかにな」
「わたくしが見た中で最高の救出劇でした! マリアさんと、えーと」
 バーテンダーはもはやカウンターを飛び越えている。あんなに会話したのに名前を覚えられていないことに衝撃を受けるサテツ。
「カクテル美味かったぜ」
 マリアは一気に飲み干し、金と共にカウンターにグラスを置いた。その姿があまりにかっこよかったので男性だけではなく、女性の目線も熱くなる。
「ありがとうございました! 楽しかったです」
 サテツも早口で言った後、カクテルを飲み干した。また来るぜー! と叫ぶマリアの背を押して、サテツはバーから脱出した。
 バーからだいぶ離れた客室の並んだ廊下にきたところで、やっと落ち着く。随分遠くに人の喧騒が聞こえた。
 汗でだらだらだ。肩で息をしているサテツとは反対に、マリアは「おもしろかったなー」とケラケラ笑っている。
「もう駄目だよ、なんであんなことしたの」
「だってよ」
 マリアは唇を尖らせる。
「お前、わざと殴られようとしただろ」
 
 そんなこと、サテツはため息をついた。
「俺が殴っちゃうと絶対怪我させちゃうし、危ないからだよ。だったら我慢した方が、あの場が収まるだろ」
「サテツは優しすぎるよなー」
 マリアはふらり、と歩き出した。歩みがどこか危なっかしい。残りの酒を一気に飲んだので、急に酔いが回ってきたのかもしれない。
 ふらふらとしたマリアはそのまま楽しそうに言葉を紡ぐ。
「優しくていいやつだし」
「気が弱いだけだよ」
「力も強いし」
「図体がでかいから」
「よく見ると犬みたいだしな」
「……それっていいところ?」
 マリアは振り向いて「バレたか」と笑う。
「俺が言いたいのは、まぁお前は思ったよりいい男だってことだよ」
「はぁ……マリアにいわれてもあんま自信ないけど。ありがとう」
「今日もそれ、似合ってるしな」
 それ、の部分で胸の辺りを人差し指でとんとんと叩かれる。なんとなく顔が熱い。
「……マスターに選んでもらったんだ。俺はよくわからないから」
「へぇ通りで」
 ディナーにはドレスコードがあると聞いて、サテツは正直頭を抱えた。昔は地元のゴロツキ、今はシンヨコの吸血鬼退治人、スーツを持っていないどころか袖を通したこともない。散々迷った挙句、身近でスーツを着用しているマスターに泣きついたのだ。最もマスターが着用していたのは、バーの制服で全く違うものだと後で知ったのだが。
「マスターはサテツのこと気にかけてるしな」
「弟子みたいなもんだからでしょ」
「ハハ、あの人って一人娘だろ」
 急になんの話だろう。たしかにマスターの子供はコユキ一人だ。
「マスターにとったら一人息子みたいなもんじゃねぇのかな。娘にしてやれることと、息子にしてやれることは違うだろ」
「そう、かな。もしマスターがそう思ってくれてるなら、すごく嬉しいけど……」
「そういうことを素直に言える所が、お前は本当にかわいいよな」
「なに!? ちょっとやめてよ!」
 わしゃわしゃと頭を撫でてきたので面食らった。なぜかマリアは上機嫌だ。これでは本当の犬みたいだ。
「おい、酔ってるだろ」
「へへ。あんま飲むことないんだからいいだろ」
 手を離したマリアがよろける。思わず肩を支えた。
「もう駄目だよ。ほら一緒に歩くから──」
 と、言ったところでサテツも急に目眩に襲われた。そういえば自分も酒を一気に飲んでいた。普段口にしていない分、酔いが回るのが随分と早い。少しふらつくと、肩を支えていたはずのマリアも一緒に巻き込んでしまう。そのまま二人ともバランスを崩し、床に倒れ込んでしまった。
 火花が散った。
 サテツの顔をマリアが覗き込むようにして倒れている。状況がすぐ理解できなくて、でも顔だけがすぐ熱くなった。あまりに現実味がなくて上手く頭が回らない。遠くで聞こえる人々の騒めきだけが、現実だと訴えてきてやけに浮いて聞こえる。
 マリアの瞳は深いブラウンだが、照明に光って琥珀のように輝いていた。身体の上に乗った心地よい重さと、筋肉質なはずなのに柔らかい四肢が服の上からでも感ぜられて混乱した。
「マリア、ごめ──」
「黙って」
 唇に人差し指が当てられる。
 突然触れた感触に、体温が急激に上昇する。マリアの瞳が瞬いたのが見えた。長い睫毛がよく見える位置まで顔が近づいている。ふわりと漂う甘い香りが、一緒につるんでいる男友達からは絶対しない香りで頭の中がぐちゃぐちゃになった。
 マリアのことは美人だと思うが、そういう対象で見ていたわけではない。
 いい仕事仲間、いい友達だ。彼女の性格もあって、どちらかというと男友達に近い。でも、こうして近くにいると彼女は確かに女の子だし、自分は確かに男だ。
 でもこんななし崩しでいいのだろうか。二人とも酒に酔っていて、こんなの絶対、あとで後悔するに決まってる。マリアと気まずくなるのは嫌だ。そもそも職場内でこれは許されるのだろうか。いや、別にそういう関係になるって決まった訳ではないけれど。
 かつて陥ったことのない状況に、明後日の方向へ思考が飛んでいく。
 それでもマリアは待ってくれないようで段々顔が近づいてきた。何をされるんだろう、いや大体は予想がつくけれど。心臓がバクバクいいすぎて、口から飛び出てきそうだ。止めた方がいいのだろうか、いやそもそも自分は止めたいのだろうか。
 某Y談吸血鬼に術をかけられた際、自分は「強引な女の子が好き」と暴露したらしい。
 あの時は自覚はなかったが、どうやら本当のことらしい。この状況に、流されてしまいたい自分がいる。本気で抵抗すれば、力自慢の自分はすぐに押し退けることができるのだ。本気でそうしないのは、心のどこかで今後の展開を望んでいる気持ちがあるから。それに気がついた時、さらに心臓が跳ね上がった。もうマリアにも鼓動が聞こえてしまうかもしれない。もうどうしたらいいかわからなくて、サテツは目をぎゅっと閉じた。今の自分にできることは、もうそれしかなかった。
  
  
「なんかおかしくねぇか」
 耳元で囁かれたのは甘い言葉ではなく、鋭い警告。
「……え?」
「さっきからずっと思ってたんだ、足音が聞こえんだろ」
 こっちはそれどころではないのでもちろん気が付いていない。大きく息を吐く。
「走ってる音だと思うんだ。けど」
 マリアはさっと床に耳をつけた。身体の距離がゼロ距離になり、耳に息がかかる。もう、たぶん、心臓が、壊れる。
「ほら、床が振動してねぇ。変だと思わねぇか」
「船の上だからじゃ」
「いや確かに聞こえるんだ」
「あしおと」
 サテツも耳をすましてみる。マリアはずっと怪訝そうな顔で辺りを見渡していた。サテツには足音は聞こえない。だが、マリアが冗談を言ってるようにも聞こえない。
 彼女はすでに退治人の顔になっていた。吸血鬼をショットガンで撃ち抜く[[rb:熊狩りのマリア > シスターマリア]]。本職が猟師だっただけあり、彼女の耳と野生的勘は本物だ。そして、その彼女が警戒しているのだから、よくないことが起こっているに違いなかった。
 足音──もう一度集中する。
 自分も吸血鬼退治人の端くれ、人より感覚は鋭敏なはずだ。
 廊下にはマリアとサテツ以外の人はいない。で、あれば足音などすぐ気がつくはずなのにサテツには何も聞こえない。船という特殊な構造のせいなのか、それとも──?
「あ」
「サテツも聞こえたか」
「いや、違う」
 答えた声が少し震えた。情けない、と思ったが、たどり着いた真実に冷や汗を止めることができなかった。
「俺は声が聞こえる」
「声?」
「パーティーの歓声かと思ったんだ。甲板やバーでも、沢山の人が話して楽しんでいたし。だから無視してた、でもよく考えたら、これ」
 嬌声が聞こえる。男、女、様々な人々の声。遠くから聞こえてくる「声」は、かなり興奮していて船旅を楽しんでいるようにも聞こえる。しかし。
「これ──悲鳴だ」
 その時、爆発するように「音」が溢れた。
 マリアのいってきた足音、そしてサテツの聞こえた悲鳴。走っている、助けを求めている、泣き声も聞こえた。
「もしかして、何かから逃げてるのか?」
「サテツ立て! こっちに来る!」
 慌ててマリアの手を掴む。
 「悲鳴」は確かにこちらへ来ていた。避けきれない! 思わずマリアを護るように背にし、壁に押し付ける。どこにも隠れる場所がなかった、こうするしかなかった。マリアの抗議する声が聞こえたが、夢中だったので無視してした。なんだ、何が起こっている。「声」は聞こえるのに誰も廊下を通らない。だが、サテツには、サテツには確かにわかった。
 [[rb:通り過ぎた。> ・・・・・]]
 まるで透明人間がすり抜けていったように、「声」はサテツたちの間を通り、そして遠のいて行く。ぞわり、と毛が逆立ち全身が強張る。
「──あ」
 微かにマリアの声が聞こえる。
 しかし、ただそれだけだった。
 しばらくして、サテツは息をゆっくりと吐いた。廊下を睨みつけていた目を閉じ、頭を軽く振る。
 なんだったんだ一体──しかし、奇妙なことが起きているのは確かだ。
「これはロナルドに、ちゃんと話さなきゃだな」
 
 違和感。
「マリア?」
 返答がない。
 どくん、と心臓が跳ね上がる。
 つい先ほど、マリアの腕を掴んだはずだ。そして廊下から来る襲撃者に備えて、彼女を壁の方に庇った。
 ゆっくり後ろを向く。
 そこにはマリアの姿はなく、ただ壁紙だけがそこにある。
「ねぇ、マリア!」
 辺りは稼働するモーターの音しか聞こえない。廊下には相変わらず誰もいない。サテツ、ただ一人だけ。
「マリア! お願いだ、いるなら返事してくれ!」
 呼びかける声がこだまする。
 やがてサテツはがっくりと膝を落とし、しばらくその場から動けなかった。
 
カット
Latest / 46:36
カットモードOFF
04:54
ななし@da20d4
うぇーい
04:58
未定
いるな
05:02
未定
はやくねろ
06:03
ななし@da20d4
おまえもな~~~
06:29
未定
グヌヌ……
チャットコメント
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
7吸血鬼退治人は幽霊船にて眠れpixiv
初公開日: 2022年08月12日
最終更新日: 2022年08月13日
ブックマーク
スキ!
コメント
pixivに掲載する用の直しをするわよ!
→公開【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18147823】
2.吸血鬼退治人は鬼姫を攫え
監視してください!!!!気まぐれに始まり気まぐれに終わる
未定
ポルナレフのジャケットの秘密
ポルナレフの昔持っていたジャケットをめぐり、一人旅の思い出をジョセフに話します。性的な描写は挿入なし…
PM