あまあまサン武 みっち視点 試し書き
俺と三途春千夜こと春千夜君は友人同士である。いや、実際の所、幼馴染という表現の方が正しいのかもしれないけれど、どちらかと言えば春千夜君は俺の兄のような存在であり、意識の上では華族枠に入るのだろう。
春千夜君は俺のお隣に住む三途家の長男である。春千夜君は一人っ子で、他に兄弟は居ないから実質嫡子という扱いになるのだろうけど、実は春千夜君はお隣夫婦の元に遅くに生まれた子どもらしく、実業家として活躍する三途君の父親の後継者として春千夜君が生まれる前に養子として家に迎えられた十歳以上年上の義兄が居る。だから春千夜君はご両親の戸籍上、次男という扱いらしいのだけど、まあそういう複雑な事情は全て放り投げていて、後継者として早くから英才教育を受けている義兄に両親が掛かりきりになる中で、お隣に住んでいた俺の両親は、春千夜君のお世話を買って出たらしい。
というのも実の所、春千夜君はお隣さんであり、武道と同じ産院で生まれた『お友達』でもあるのだ。故に親同士が顔見知りで、尚且つ同じ産院で生まれたという事もあって、母親同士が二人を生む前から家族ぐるみで親しくしていたという経緯がある。武道が気が付いた時には既にそこに春千夜君が居たから、実質春千夜君は武道の『家族』である。
とはいえ、血の繋がった両親や義兄が多忙という事もあって中々家で顔を合わせる事が無いらしく、広い家に一人で居るよりはと、何だかんだで武道の母が春千夜君を家に招いて、夜は共に晩御飯を食べ、武道の部屋で共に眠っている。
一度家族と離れて寂しくは無いのかと聞いた所、春千夜君は「親兄弟なんて煩わしいだけ。居ない方が良いくらいだ」なんて言っていたから、家族が離れ離れになっていても寂しいと思った事は一度も無いらしい。
俺は…物心付いた頃から春千夜君が傍に居たし、専業主婦の母とそれなりに忙しく働いて居る会社役員の父の元ですくすくと成長してきたから、寂しいと感じた事は一度も無い。
春千夜君は幼い頃から俺にとても優しかったし、何なら同い年だというのに子守唄を教えてくれたのも春千夜君だ。だから春千夜君はもう俺にとっての家族であり、血の繋がらない兄弟であり、半身なのだと思う。
―――だって春千夜君が傍に居ないといつも寂しくて、隣が空いて居る事が涙が出る程辛く、苦しくなる。
ああ、なんて傲慢な考えをしているんだって、自分でもそう理解しているのに、それでも辛くて堪らない。春千夜君が珍しく実家に帰って自分の部屋で寝ている時なんて、一人でベッドの中に入ると寒々しくて、いつも壁に身を寄せて、背中に当たる温かな温度を誤魔化している。
どうか居なくならないで、なんて。そんな我儘な事言えやしない。そんなんじゃ、いつまで経っても自立出来ないし、春千夜君の負担になる事だっていう事もよく分かってる。
「でも寂しい。寂しいよ、春千夜君」
大好き。だからここに居て。俺の隣に帰って来て。お願い、お願いだから側に居て。
そう縋っているのは俺の方だ。
「大好きだよ、春千夜君」
冷たいシーツを撫で、重さの感じられない膨らんだ枕を押し潰し、ぎゅっと固く目を閉じた。
早く眠ってしまえば、この寂しさも遠退いていくだろう。いや、そうでなければならない。
そうしないと、春千夜君を安心させられないから。
「側に居て。ずっと、俺と一緒に居て」
そう呟いた言葉は暗い寝室の中、虚空に消えて行った。