「好きだ。付き合ってほしい」
 やべ。間違えた。
 うっかり口から滑り出た言葉は、まだ言うつもりのなかった一言だった。というかタイミングもフレーズも、なにもかもが全部違う。二人きりの屋上で、ウグイスが鳴いてて、日差しがポカポカあったかいなぁって思ってたら、ついウッカリ。なんで?
 さすがの俺も焦ってる。すぐ真横にいるソイツの顔は見たくないけれど、さっきから続いてる無言が怖すぎる。俺は顔だけ前を向いて、無理やり目玉を横に動かしてチラ見してみた。
 そしたら、真横にいる、俺のお友達兼好きな人こと、九条友矢くん、まさかの顔面蒼白。清々しいくらいの真っ青。目で見えるタイプの青。
 思わず溜息が出た。そりゃ、今までずっと友達だと思ってた男から告白されたら、そうなるか。そうだよな。……ならば、次に俺が続ける言葉はひとつだけ。
「……わ、分かった。付き合う!」
「なんてな、は?」
 なんてなは? なんだそれ? いや俺が言ったんだけど。驚いてコケそうになった。俺は体勢を崩しながらも反射的にソイツの顔を見たら、相変わらず青白い顔の怯えた目で俺を見つめている。何ならワナワナ震えてたりもしていて、俺は思わず睨んでしまった。
「なんなのお前? それ同情?」
 思ったよりも冷たい声が出た。そんなに青い顔してたら、思っていることぜーんぶ分かるっつーの。いくら友矢がバカとはいえ、言っていいことと悪いことの区別くらいはついてて欲しかったな。
 すると、俺の怒気に当てられたのか何なのか、友矢はちょっと涙目になって。
「おっ、お前こそ何なんだよ! そんなに俺と縁切りたいのかよ!」
 と、叫んで来た。
「……は?」
 目が点になるって、多分、今の俺みたいなヤツの事だろうな。
「入学したばっかなのになんで知ってんだよ! ここで! 告白を断ると! 縁が切れてもう二度と会えなくなるって噂ぁ!!」
「……」
 知らねーよ!! って心の中で叫んでるけど、もちろん口には出さない。
「兄ちゃんが言ってたんだよ……この学校の、この屋上で、飛び降り自殺した生徒の呪いとかなんとかだって……」
「……」
「ま、まさかお前がそんなヤベエ禁じ手使ってくるとは思わなかったよ……クソ、俺は冗談でもお前と縁切りとかイヤだからな!!」
 怒涛の情報に俺の脳内が一瞬だけ宇宙に飛んだ。どうやら俺の口から滑り出たボテボテのゴロ球がヒットになったらしい。マジで?
 普通だったら、お前バカだなぁンな訳あるかよって笑い飛ばすのかもしれない。実際そんな噂、信じる方がバカだ。そんな理由で告白を受け入れるなんて、バカ以外の何者でもない。
 しかし俺は浅はかにも、10年以上、このバカに片思いをしているのだ。
 こんなチャンス、乗っかるしかないだろう。
「……そう、お前もよく知ってたなー、そのウワサー」
「クッソ、お前、他にもなんか知ってそうだな!? 後でビビらせてやろうと思ったのにぃー!!」
「まぁなー。で、確認なんだけどさ、友矢」
「なんだよ!」
「俺とお前って、今から恋人でいいわけ?」
「……そうじゃねーと、お前との縁が切れちまうだろ」
「だよな。じゃ、改めてよろしく」
「おう! ……ん?」
 なんて言いながら、俺たちは握手をした。友矢はちょっと首を傾げてるけど、もちろん見ないフリ。俺は自然な流れで、話は終わりだとばかりにくるりと背中を向けてその場から立ち去った。途中で後ろから「待てよ! 一緒に帰ろーぜ!」なんて聞こえてくるから、とりあえず足は止めたけど。この流れで普通に一緒に帰るのかよコイツ。
 ……なんか、うまいこと丸めこめてしまったというか、友矢が筋金入りのバカというか。いや、友矢がバカで本当に良かったんだけど。ちなみに俺はそういうところが、好きなんだけど。
 こんなウルトラミラクルな事があっていいのか分からないけど、俺の高校生活はいきなり好きなヤツと恋人になる所から始まった。砂糖一粒の甘さすらない、よく分からないノリだが、事実は事実だ。言質も取ったし。
 明日には別れを切り出されそうだけど、とりあえず神棚には毎日祈っておこうと思う。友矢のガバ理論が、1日でも長く続きますように……
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