斎藤が彼女の役者としての在り方を知ったのは、雑誌のインタビュー記事だった。
 インタビュアーの質問は『役を演じる際に気をつけてる事は』という役者なら誰もが通るモノだった。
 雑誌のインタビュー記事だから、当たり前に文字だ。しかし、彼女の返答に彼女の声が聞こえた。
 ――藤丸立香を殺すことです。
 その後の彼女は、役を演じる自分はただの器でありそこに自分が居ると役の邪魔になるので全て役に委ねています。と言った。
 憑依型女優と言われる所以だろう。
 全身全霊で演じる彼女がいつか潰れてしまわないか、斎藤は不安だった。
 オペラ座の怪人。
 その舞台のヒロインであるクリスティーヌに藤丸立香は抜擢された。業界でも歌唱力には定評があり、高校のバンドを題材にした作品で彼女が歌っているのを斎藤も観ていた。
 そして、その舞台で斎藤はラウル子爵役として立香と共演することになった。
 その日はオペラ座の怪人の最後の公演地である大阪での公演最終日、大千秋楽だった。
 公演は無事に終わり、最後に一人一人挨拶をする。大千秋楽ということもあり今まで募った感情で涙を流す役者もいた。
 そんな中でも、立香は凛とした表情で挨拶をして深く長いお辞儀をした。
 一番最後の怪人役の男優が締めくくると幕は下りて会場からは拍手が巻き起こる。
 無事成功だと、誰もが笑顔でいた。
 幕が下りきった瞬間。まるで操り人形の糸が切れたかのように、立香は膝から崩れ落ちた。
「ヒューーーーッヒューーーーッ」
 胸を抑えてまるで呼吸の仕方を忘れたかのようになった立香に、斎藤は一番に駆け寄った。
「立香ちゃん!!」
 荒く苦しそうに呼吸をする立香。過呼吸だと、斎藤はすぐに分かった。
 他の役者がスタッフを呼ぶ声が響く。
「ヒューーーーッヒューーーーッ」
「大丈夫。頑張ったね」
 苦しさからか涙を流す立香を抱き締めて背中を擦る。
「大丈夫。吸って。吐いて。僕の呼吸に合わせて」
 斎藤の衣装を強く握る立香の手は震えている。
「はっ、はっ」
「立香ちゃん長く吸えるかな。そう、ゆっくり吐いて」
「はーー、はーー」
「上手上手」
 だいぶ落ち着いた時に、スタッフの一人が酸素スプレーを持って来た。
「きゅ、救急車を呼びましょうか!?」
「このくらいなら大丈夫」
 酸素スプレーを受け取り斎藤はスタッフを安心させるように微笑む。
 立香の口に酸素スプレーのマスクを宛てる。
「はい吸ってー」
 少し酸素スプレーを押し、
「吐いてー」
 放す。
「はぁ……はぁ……」
「だいぶ落ち着いたね」
 呼吸することで必死な立香は声は出せずコクコクと頷いた。
「どこか寝かせられるとこあったっけ」
「医務室があります!」
 了解と、斎藤は立香を横抱きにして抱き上げてスタッフの後を着いて行った。
 その間も、立香は斎藤の衣装を強く握っていた。
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「大千秋楽」(芸能パロ)
初公開日: 2022年05月17日
最終更新日: 2022年05月17日
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