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何かがあるって大真面目に信じているきみが、もしもなにも見つけられなかったらってふとした瞬間考えることがある。
ゆるゆると伸ばした毛先の指の先に巻き付けて弄ばれると、少し髪の付け根を引っ張られるような感覚がする。乾いた涙の痕は顔の筋肉を動かすたびに頬が突っ張って、それを自覚するほど先ほどまでの弱音が頭の中を交差し無性に居た堪れない。人目もはばからずに泣いたのは一体いつぶりだったのだろう。ひとしきりそうしていたせいで瞼はいつになく重たく目を開けているのも億劫だ。微睡みかけた頭の隅で、私は思考の端に追いやっていた見張りの時間が今既に通り過ぎているんじゃないか、なんて考えた。けれど視線を頭上の置時計へと移してみると、ユースタスは時間を気にする私の瞼を手のひらで覆い、無言で私が此処から離れることを禁止したのだ。
「そういえば、いつから起きてた?」
「あ?」
「珍しいと思って。」
「……寝られねェんだよ。テメェが何遍も呼ぶから。」
「っ!……聞こえてたの?」
「あんだけ揺すられりゃ厭でも起きる。」
「……言ってよ。」
「人を死人みたいに見やがって。泣きそうなツラ晒してんじゃねェぞ。」
嘘でしょ。信じらんない。
思いがけない事実に驚愕した私は顔の表面が徐々に熱くなるのを感じて思わず唇を震わせた。言えよ。なんで人が呼んでんのに返事の一つもしないわけ?いや、返事されても、困るんだけど。
ケタケタと肩を揺らして笑ったユースタスは揶揄うように横目で私を見遣ると『傑作だったな。マジで。』と軽口を叩いた。
「もうほんと最悪。あっち行って。次それ言ったら蹴落とすからね。」
「おー上等だ。やってみやがれ。出来るんならな。」
「~~~!!ムカつく…っ。」
苦し紛れに、せせら笑ったユースタスの胸をべちべち叩くとくすぐったそうに目を細めた彼は、尚もニイと唇の端を吊り上げ笑みを深めた。私の何倍も太くてデカい身体を蹴落とせるわけも無いし、残念なことに今は口でも勝てないだろう彼に業を煮やすのは大概無駄なことである。だから私は数秒の間この無為な腹いせに見切りをつけることにした。
「ユースタス。」
「……。」
仕切り直しに、声をかけるとジロリと確かに私を見ている彼は呼びかけに返事をしなかった。何か言いたげな視線に僅かに首の後ろがむずかゆくなる。催促されているような気もしたし、今更?って言われているような気もした。確かに散々名前で呼んどいて、今更シレっと苗字で呼ぶのも可笑しな話だ。
「…キッド。」
「……なんだよ。」
恐る恐る囁きかけてみると、私の予想は的中したのか、ユースタス、いや、キッドは渋々返事を投げかけた。
「私は月桂樹の葉には成れないかもしれない。」
「はあ?なに意味分かんねェこと言ってんだ・」
「でもね、勝たせたいとは思ってるんだよ。」
「……。」
するりと滑り落ちた音はコロコロ床に転がるようにあたりに響く。
できるとかできないとかじゃない。多分そこまで私は自分を信用しきれていないけれど、コイツを勝たせたいって気持ちは別に嘘じゃないんだろう。そう思う分には、自分が弱くとも強くとも関係ないのだ。
キッドは私の言葉をどう受け取ったのかはよくわからない。
彼は数秒口をもごもごと動かすと瞼を閉じた私に『手前ェで勝つさ。』とさらっと言い放っただけだった。
瞼の裏に映る暗闇の中ではまだ懐かしく思えることもないまま鮮やかに記憶に残った映像が再生されている。
『お前は俺の船に乗る・』
『それで、……その先は?』
私はきみの船に乗る。それじゃあ、その先に、私はどこに向かって、どんな景色を目にして、どんな歌を知るのだろうか。先の未来を予言するかのような言葉のまたその先。彼の宣う話の続きが知りたくなった。
あの日から始まった彼の話は未だ途中で、きっと私はこの先も、”その先の話”を知るまで此処から離れることはできないんだ。有るか無いかもわからぬ秘宝。それがもしも無かったとして、彼ならどうせまた次につながる何かを探し始めると私は知っている。そうしてそこに行きつくまでの全てが私の実になっていく。
それがわかると胸が塞がるような寂しさはいつの間にか消えていた。
「次の予定を聞いても良い?」
「知ってどうする?」
温かな暗闇の中で微かに瞼を開くと細い切れ目の中に薄い月の光に照らされた横顔が見える。私は今まで一度も聞きもしなかった明日のことを問いかけてみた。そうすると、キッドは物珍しそうに首を持ち上げた。それでも、少しの間逡巡すると唇を開く。
「゛あ~~、……取り敢えず手始めに四皇のババアんトコのイカレた船団沈めるか。」
「マジで言ってんの?」
「大真面目だっての。」
視界に入るだけでも苛つくぜ。とキッドは忌々しそうに眉を顰めた。あんまり聞かない方が良かったかもしれないこの先のことを知った私が頭の中に思い浮かべたのは、あのメルヘンチック極まりないパステルカラーの装飾で彩られた巨大な艦隊みたいな形の海賊船だ。不思議にも今の私は、確かにキッドは嫌いそう。と思っただけだった。懲りないなコイツ、とも思ったけれど。
「不安かよ?」
「まあね。」
形の良い額に手のひらを当てて、薄い眉を指先でなぞりその凹凸を確かめると、眠たそうな声を上げたキッドは思いのほか軽く頷いてしまった私にニヤ、と微笑みかける。
「知りたいんだろ?”その先”が。だったらやらない手は無ェな。」
「覚えてたんだ。」
「面白いモン見せてやるよ。」
軽やかに言ってのけたキッドは、上目遣いに彼を見つめた私の額に軽く口づけを落とした。頭をずらして胸に耳を当てるとゴロゴロと蠢く筋肉の微細な音が雷鳴のように大きく耳に響いて心地好い。
「楽しみにしてる。」
胸の中心から何かが湧き出るように満ちていくのを感じると、私は柔く微笑み返した。全く人の気も知らないでと、思わないわけでもないけれど、今はただその笑みが腹立たしくて愛おしかった。
おわり
できました♡見に来てくれてありがとうございます♡
えっちな描写入れようと思ったんだけど、忘れてましたね。まあいいや…。
それでは閉じます。ありがとうございました!!
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58:11
ななし@4dbab9
おつかれさまでした♡
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居留守
おつありです♡
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向き
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