一番大きな木靴型に草をかぶせて、その上に硫化ゴムを塗った。強い日差しは、食事中やちょっとした休憩の間でそれを乾かし、ゴムは固まる。
すっかりゴムに覆われた木靴型に、ナイフで切れ込みを入れ、割って取り出していく。膝上まで防御力抜群のゴム長靴ができた。カーブの形は人体らしさがあり、ブーツと言ってもいいだろう。
完成品を目の前にして、司はなかなか手に取らなかった。
「肩が痛ぇなら、履くの手伝うぞ」
革のブーツと違って伸縮性はそれほどないから、両手で引っぱりながら履く必要がある。
左肩に銃撃を受けている司なので、履く際に痛みを伴う可能性はなくもない。
恋人として、俺は申し出た。
二年近く裸足で過ごしてきた司に久々に靴を履かせる。そんな唆る瞬間を、他人に委ねるほど俺は心が広くないのだ。
「いや……、それは別に」
「巨大ヒル、吸血カメムシ、寄生スナノミ、ピラニア、電気ウナギ……」
「それもわかっている」
司はため息をついた。
「その」
「おう」
「脱いだとき」
うん、
「におい、が」
「今更何を、俺ぁテメーのケツの穴もなめ」
口を平手で塞がれた。わかってるわかってる。この中には、地獄耳の弓遣いも、読唇術ができるメンタリストもいるのだ。ぶっちゃけ、知られても俺は特に気にしないが。
「ゴムの匂い、元々苦手、で」
「あー、それでこないだ初めてセッ」
さっきより強く、鼻ごと塞がれる。数秒後、離されてようやく深呼吸ができた。たかが、簡易コンドーム相手にフェラチオできなかったぐらい、気にするこたぁ無いのに。司は大きなことは気にしないのに、細かいことを結構引きずる。
そもそも、今のアマゾン道中は女子どもでさえ風呂に入れない。匂いなんて全員似たり寄ったりだ。
改めてとっとと、船で療養のため個室があった時に初夜をこなして良かったと、噛みしめた。ゲットしたばかりの天然ゴムをばっちり有効活用し、司を労りながら、俺のMPは全回復した。療養の目的は、ある意味で果たせたのだ。昨夜はおたのしみでしたね。脳内でそう言ってくれるVR『やどのしゅじん』を浮かべながら、次に必要なバイクやタイヤクラフトに移り、その結果、追撃者の包囲網も何とか突破できた。司と氷月が撃たれたが、頭を狙われなかっただけでも御の字だった。
多分、治療のため俺たちの移動速度が落ちると踏まれたのだろう。その通り、死体になっていたら置いていくしかなかった。
「……その初めての、とき」
運よく死体にならなかった恋人が、視線を足元に落とす。
「必要もないのに、足を舐めた、だろ……うん」
「舐めたな……つぅか、しゃぶった?」
「今、その時と同じ顔してる」
「そりゃあ、これ脱いだ時、俺ぁ舐める気満々だからな。中に何か入って傷できても、テメーは隠すだろ。舐めりゃ一発でわかる」
「やっぱり……」
天然ゴムは、合成より匂いが強い。硫黄も加わって、それはさらに。
火薬嫌いといい、本当、硫黄と相性が悪りぃんだな、と司を見ながら俺は腕組みした。
「覚悟決めろよ。おらっ、足出せ」
司は天を仰いだ。両手で顔をはたいた。好悪で判断する人間ではないのはよく知っている。だから、こう言わなくても、あと数秒待ては履いてくれたと思う。
「……入れさせて」
「千空」
「俺が、入れてぇの。んで、履かせてぇの」
おずおずと、白いつま先が向けられる。先に洗ってはおいたらしい。覚悟はちゃんとできるのは、初夜のときで知っている。経験則だ。
ブーツの入口を、司の脚に通していく。時々、ひざ下や踵がひねられるのが、俺がたぐるゴムごしにわかる。生きている動きだ。死体にならなかった動きだ。
「ん……」
「そうそう、そこちょい内股に」
「こう?」
「のばせ」
「……うん」
引っ張って、なでつけて、ひねりを加えて。ジャストサイズに設計したゴムブーツを、そうしてようやく収めた。
緊張からか司は汗をかいていた。熱帯の日差しで狩猟をしても、涼しい顔を保てるのに、今はそうでないことに、俺としてはしてやったりだった。
「もう片方、いけるか」
「たかが、ゴムブーツ履くだけなのに、俺、どうして……」
「そりゃー、俺がエロくやってるから。しばらくはヤレねぇから、その代わり」
「うん、君ってば……」
「しょうがねぇだろ。俺たちゃ、ピッチピチの肉体年齢18歳だぜ?」
「だとしてもマニアックが過ぎる……」
「3700歳超えだからなァ。そもそも、多少マニアックじゃねぇと、テメーのケツにぶっ」
「千空!!」
顔面全体を圧迫されて、それからしばらく痕になったが、強い日差しで焼けたものと見分けがつかず、特に司の仕業とはバレなかった。
命がけの逃避行の中の、息が止められそうな痴話げんか。まあ、殺し合いよりは平和的だ。
FIN