この日に贈られるカーネーションは、三本から四本、そしていつの頃からか、四本から五本へと変わった。
 もらう度に年を取ったなぁと実感してたけど、気付けば「還暦」という言葉が頭をよぎるくらいの年齢だ。そりゃあ年を取ったはずだ。
 今年もやはり、五本。一緒に贈られた手紙には、すっかり馴染んでしまった名前が記されている。その名前にしばらく目を落としたあと、私はカーネーションを花瓶に飾っていった。
 最後の一本。桃色をしたカーネーションの贈り主からは、母と呼ばれたことはない。あのお転婆娘をもらっていったヒロくんと違って、いつも「涼子さん」と人懐こい笑顔で呼びかけてくる。
 だけどそれも当然だった。私とあの子は他人なのだから。
 ……なんとも難しい関係だ。私にとっては。
 ――娘との関係を知った当初のことは、実のところあまり記憶に残っていない。自己防衛的な心理作用かは知らないけれど、いずれにせよ相当にショックを受けていたのだと思う。
 以前、それとなく父さんや怜に訊いてみたこともあったけれど、曖昧な苦笑と共に首を振られてしまった。二人の様子から察するに、よっぽど荒れてたのだろう。
 結局は当事者二人と怜を中心に、押し切られるようにして二人の関係を認めることになった。
 それからはある程度落ち着きを取り戻したのだけど、今度は接し方が分からなくなってしまった。ひょっとしたら納得していなかったのかもしれないけれど、それだけじゃなくて。
 そういう価値観があるのは知っていた。本屋の娘なのだから、時事の本で目にしたこともあった。だけど、こうも身近にそんな人がいるとは思いもしなかった。
 ……知らない内に娘を傷付けていたんじゃないか。
 あるいはもしかしたら、娘が急に遠い存在に感じられて、怖かったのかも。
 困惑や罪悪感。それだけじゃない色んな感情が綯い交ぜになってて、本屋の娘だというのに上手く自分の心を言葉にできないでいた。
 だけど。私の接し方はそれまでから一変してぎこちなかったろうに、それでもあの子は変わらず接してくれた。
 「涼子さん」は、きっとあの子なりに私を配慮してくれたんだろう。
 おかげで今では昔のように話せていると思う。あの子と時間が、ゆっくりと私の心を解したことで事実を受け入れられたのかもしれない。
 ……娘と同じくらいの年頃の子に気を遣われるなんて、恥ずかしいにもほどがあるけど。
 だから……もういい加減、認めていいのかもしれない。
 溜め息を一つ吐いて、私は席を立つ。立ち上がるのにも掛け声がいるようになってしまった体に鞭を打ち、白紙の手紙とボールペンを手に戻ってくる。
 このまとまらない頭で書いてもうだうだとしたものになるだろう。だけどそれこそが今必要だった。
 今更――そう、本当に今更になるのだけど。私はようやく向き合うのだから。
 三人目の娘へと。
 ……別に、あの子のことを悪く思ってたわけじゃない。
 娘がお世話になったのは確かで、なによりあの子はいい子だった。交際を明かされるまでは間違いなく好印象を抱いていた。
 近況報告はあまりされないものの、元気であることはテレビを点ければ分かる。テレビの中の人が親し気に話しかけてくるというのは、なんとも面映ゆいものがあった。
 
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