※ 大幅に変更する可能性があります。
 レグルスと山羊の神が飛び立った後、山羊の神の移動の反響であたりの水が舞った。
 しかも、同時に丘が爆発して水が噴き出したのだ。確実の山羊の神の”おっちょこちょい”が発動してしまったようだ。
 勢いよくふきかかってくる水に呑まれ、俺の意識は途絶えた――。
 目を覚ませば、マルフィクが隣に座って焚火にあたっていた。
「起きたか」
「うーん……耳の中が変……」
「水が入ッたンじゃねェの」
 マルフィクがふんっと鼻をならし、焚火で乾かしたであろう布を放ってくる。
 服が濡れて気持ち悪いけど、とりあえず顔と頭をふいた。服は絞れるだけ絞る。
「何がどうなったわけ?」
「山羊の神のせいで丘から水が大量に噴き出て全員バラバラに流されたンだ」
「やっぱりそっかー。俺とマルフィクは同じ場所に流れ着いたんだね」
「いンや。俺がお前を運ンだ」
「う、うん?」
「泳いで運ンだ」
 聞きなれない言葉に、俺はマルフィクを見た。あっちも同じように目を見開いて不思議そうに俺を見ていた。
「泳いでって、なに?」
「はっ?」
「……いや、うん。マルフィクってもしかして水がたくさんあるところの出身だったりする?」
「あ? 関係あンのか?」
「いや、俺のところは山ばっかでさ、あんまり水がなかったから……もしかして魚が泳ぐとかの泳ぐたったりする?」
「……ああ、お前の星ンとこの女も泳げてなかッたな。そうか、泳ぐ文化がねェのか」
 マルフィクは納得したように頷いてからはぁっと息を吐く。態度悪いな……。
「なんだよ、俺が泳げないのがそんなにいけないのかよ?」
「ㇵッ。そのとおりだよ。体力つけさせるのに長時間泳がせようと思ッてたが……無理そうだな」
「無理だなー」
 俺は乾いたのとは逆側を焚火に当てるため移動した。マルフィクも同じように背中を焚火に向ける。
「で、お前……どのくらい知ったンだ?」
 マルフィクが話を切り出してきた。
 彼と別れた時、俺は本当に何もしらない状態だったから気になってるんだろう。俺もマルフィクの近状を聞きたかったし、ちょうどいい。
「人間が神になれること、昔はもっと行き来出る星があって神もたくさんいたこと――加護の成長段階、かな」
「へぇ、ずいぶん知ッたンだな」
「お前は、神殺しについて何かわかったのか?」
「……まあ、そこそこ。な」
 内容を濁された。俺は答えたのに……と不満を持ってマルフィクを見ながら目を眇めれば、マルフィクはふんっと鼻を鳴らして笑った。煽らなくてもいいだろ……。
 どう聞けばマルフィクは答えてくれるんだろうか?
 双子の神殺しについて、マルフィクは理由を知りたがっていた。そこそこわかったなら、その理由もわかったんだろうか?
「じゃあ、双子の神殺しの理由は、人間が神になろうとしてたからだと思う?」
「ㇵッ。お前はその結論に至ッたのか?」
「俺はちがうよ」
「じゃあ、誰がその結論を出したンだよ」
「みんなそう言ってた……」
 蠍の神も、スピカも、ヘレも……アリエス様も。
「でも、俺はまだ見えてないことがあるんじゃないか。って思ったんだ。だから、お前が何か知ったんだったら教えてほしい」
「……ずいぶん知ることに積極的になッたな。ンでも、残念だがあれから新しい情報は何もねェ」
 マルフィクは人差し指を動かして俺を呼ぶ。俺が近づくと、耳打ちしてきた。
「けど、この競争に勝った褒美でわかるかもしンねェ」
「褒美って、未来か過去を一度見れるっていうアレ?」
 マルフィクの小声に、俺も小声になる。
「そうだ。アレで神殺しの過去をみれば、事実がわかる」
「なるほど!」
「ンでも、きッと師匠もあの乙女の星の女に同じようなことを吹き込ンでるはずだ」
「スピカに……?」
「乙女の神を殺した事実を知ることができるッてな」
 そうか、過去なら見れるわけだしスピカはすごく知りたがりそうだ。
 マルフィクは俺が頷くと離れてふぅっと息を吐く。
「あの力は相当欲しがるヤツが多い。全力でいかねェと勝てねェ、ッてことだ」
「そっか……でもみんなすごいからなぁ」
 勝てる気がしないんだけど。
「ㇵッ。どれもお前とどッこいどッこいじゃねェか。昔よりも加護持ちの質が落ちたンじゃねェの?」
「めちゃくちゃ失礼だなっ。昔っていつの話だよ」
 俺はくってかかった。
 いくら口が悪いっていっても、さすがにみんなを侮辱されるのは気に入らない。
「星がまだいッぱいあッた頃だよ。お前の星の女レベルが普通だッたンだとよ」
「師匠とかに聞いたのか?」
「…………」
 さっきまで小ばかにしたように笑っていたのに、急に口を捻じ曲げて黙り込むマルフィク。
 なんだ? いきなり仏頂面して……怒りたいのはこっちなんだが。
 唐突な変わりように戸惑う。
「なんだよ……?」
「……別に。お前のこと馬鹿にできねェな。ッておもッただけだ」
「意味わかんないんだけど」
「わからなくていい。話がズレた、お前の修行について話し合おう」
「……わかった」
 それ以上話はしないと切られては、俺も話を蒸し返すことができない。
 仕方なく俺は頷いた。
「まず、体力づくりをする」
「最初に? 加護の使い方とか増幅の仕方とか教えてくれるんじゃないの?」
「お前、オフィウクスの加護封印されてンだろ?」
「え、うん。ここに来る前にまた暴走させちゃって、アリエス様が牡羊の加護で抑えてくれてるけど……」
「ンじゃあ、それを外すのが先決だ」
「なんで? コントロールできるようになれば自然と制御は外れるって言われたけど?」
「ㇵㇵッ。牡羊の神が親切心からオフィウクスの加護を封印したとでも思ッてンのか?」
「どういう意味?」
「牡羊の神は典型的な利己主義じゃねェか。牡羊の神は他の星と関りを拒否して。ンで、住人にも姿も見せず、本当の事をいッさい教えず、そうやッて自分の都合のいい星を作ッてンだからな」
「――っ」
 思い当たる節があって、言い返す言葉を探すのに時間がかかる。
「保身が強くッて、自分の平穏を守るならどんな手段も問わないヤツが、お前のためにオフィウクスの加護を制御したわけがねェ。お前はその独特な力を恐がられたンだよ、牡羊の神に」
「………」
 畳みかけられて、どれが本当なのか、頭の中でマルフィクの言葉とアリエス様のいままでの言葉がぐるぐると回る。
 たしかにアリエス様がオフィクスの加護に向ける感情は尋常じゃない。
「で、でも。俺は加護の適性はあまりないんだろ? お前そう言ったじゃん。加護を具現化もできないんだ。って。そんな加護もうまく使えない俺が恐れられる理由なんてないじゃないかっ」
 どこかで否定したくて、必死に言葉を紡いだ。
 俺が? なんでアリエス様に恐がられなきゃいけないんだ?
「加護の適性……神の力の適性がないのは今も変わんねぇ。お前程度の力なら、普通は加護の力に喰われてるンだ。それなのに加護を4つも同時に持ち得てるお前は、俺だッて怖ェよ」
「はぁ?」
「山羊の神が珍しいッつたろ。逆に言うとお前の状況はあり得ねェンだよ。師匠ですら前例がないッつッてた。保身の強い牡羊の神がそのあり得ない状態のお前を野放しにするわけがねェ」
 はっきりと言いきられて、のどの奥がくっと詰まった。
「ンで、結論を言うと、お前が再び加護を使えるようになるには、神と同等の力を得て内側からぶッ壊さないとダメなンだよ」
 浮かんだアリエス様に対する疑問は無理やり頭の片隅に追いやった。今悩んでも、加護を取り戻すことが遅くなるだけだし、それに悩んだところできっと答えはでない。アリエス様とマルフィクの話のどちらが正しいのか、今の俺にはわからないから。
 だから、加護を取り戻すことに集中する。
「……わかったけど、体力をつけるのに意味はあるのか?」
「加護の力を期待できねェお前は、神の力に耐えうる体になる必要がある。じゃねェと、制御をぶっ壊す時に体がもッてかれちまうかンな」
「……お、おう」
「わかッたら、まずは体力づくりだ」
 マルフィクの切り替えに俺も気持ちを切り替えた。
 もやもやする気持ちはおいて、気合を入れなおす。
 よし、頑張るぞっ! 俺の目的は加護を取り戻すこと、それから一番力をつけてカプリコルヌス様の力を使って双子の星で起こった神殺しの過去を見ることだ。
 それだけを考えよう。
「よしっ! じゃあ、まずは何すればいい?」
「それを悩ンでる」
 あ、そっか。マルフィクのプランは俺を泳がせることだったんだもんな。それができないわけだし、他を考えるよな。そりゃ。
「そっか……」
「ああ……」
 しばらく無言でいれば、静かな中で何やら言い合いをしている声が聞こえた。
「――やざっ!」
「――さいなっ!」
 声的に、たぶんサダルとダルフのようだが、サダルはこんな大声で言い合いするんだろうか?
 二つの声はだんだん近づいてくる。
 ヘレは目の前の光景に困惑していた。
 スピカとフードの男がにらみ合って、会話を一切しようとしないのだ。
 丘から噴き出した水に流されて気がつけばこの状態だった。そんなヘレは、どういうことか理解ができず、傍観を決め込んでいるアルディに助けを求めるように視線を向けた。
「どうやらあの男の方が助けてくださったみたいですわ~」
「え、そうなんですか?」
「わたくしたちは水には不慣れですもの~。あの水の勢いでは~、慣れているサダルさんとダルフさんでさえ対応できたのかどうかわかりかねますし~」
「そうすると、消去法で彼ということですか?」
「ええ~。ですが~、スピカさんが珍しく敵意をむき出しにして困っているんですの~」
 アルディはわざと息を吐く。ヘレは改めてスピカとフードの男が対峙しているのを見て、ほほをかいた。
「えぇっと……スピカさん、オフィウクスの加護のことで敏感で……アスクの時も最初はあんな感じでした」
「ですからあんなに威嚇しているのですね~、納得ですわ~。乙女の星でもオフィウクスについてはそれはもう~、悪く伝えられてますものね~」
 仕方ないですわね~ともう一度息をつくアルディに、ヘレは目を瞬かせた。
 不思議そうに自分を見るヘレに、アルディはにっこりと笑って説明をしてくれた。
「同盟星ではオフィウクスは悪であるとするのが定説ですの~。と、いうのも天秤の星でオフィウクスは悪として伝えられてまして~、正義を重んじる星ですので~、同盟星は天秤の星が言うのであれば間違いないと同調してますの~」
「でも、アルディさんに、サダルさんとダルフさんはそこまで気にしてないですよね?」
「星ではそう言われておりますけど~、昔話ですから~、信じる信じないは個人の自由ですわ~」
「そっか。スピカさんは真面目なんですね」
「ええ~、とても信仰深いんですの~」
 アルディとヘレが会話をしている間も二人は微動だにしない。
「……えぇっと。話しかけた方がいいのかな?」
 ヘレが困ったようにスピカとフードの男を交互に見る。
 すると、フードの男はスピカから視線を外してヘレに笑いかけた。スピカがヘレを隠すように移動する。
「スピカさん……」
 名前を呼ぶヘレの方を見ずに、スピカはフードの男に低くうなるように言葉を発した。
「……私は貴様を信じていない」
「おっと、やっと会話をする気になったんだね。よかったよ。」
「…………」
「おや、まただんまりかい?」
「私は、貴様に乞うつもりはもうとない」
「ふーん? 君は乙女の神殺しの真相を知る機会をみすみす逃すというわけだね」
 フードの男は意味深な言葉をスピカに投げかける。スピカは彼を睨みつけながらすぐさま反応を返した。
「どういう意味だ?」
 スピカの反応にフードの男は満足げに笑う。
「そのままの意味だよ。山羊の神はこの競争で一番強くなった人間に自分の力――未来か過去を見せてくれると言ったんだ。ということは、過去である乙女の神殺しを直接確認できると、そう思わないかい?」
「――っ!!」
「もしかしたら、神殺しじゃないかもしれないし、扶養の騎士が殺したんじゃないかもしれない。君の悩みが解決するってわけさ」
「……だが、しかし……」
 スピカはこぶしを握り込む。力を込めすぎて震えている。そこにフードの男は手を差し伸べた。
「ほら、早く私の手を取りなよ。私が君に加護の指導をするんだからね」
 瞠目しているスピカにヘレが駆け寄る。
「スピカさん。それだったら私とアルディさん、レグルスさんやアスクだって見ることができます。嫌だったら無理はしないでください……」
 心配げに見上げるヘレに、スピカは喉を鳴らした。
 そこへアルディも近寄ってきた。
「わたくしは~、彼に見てもらったほうがいいと思いますわ~」
「アルディさん!」
 アルディはヘレとは別の意見をスピカにぶつける。ヘレが抗議するように名前を呼んだ。
「わたくしたちがなぜ山羊の星に来たのかお忘れではなくて~? スピカさんが扶養の騎士を止めたくないのでしたら~、やめればよいかと思いますけど~」
「そ、そんな冷たい言い方しなくてもっ」
「わたくしは~、カプリコルヌス様のご判断を信じますわ~。たとえオフィウクスの星の方であろうと~、敵であろうと~、今はそれも含めて知る方が有意義かと思いますの~」
 ヘレの反論を流して、アルディはスピカへと話し続けた。スピカはアルディをじっと見た後、考え込むように頭を落とした。
 アルディの意見を正しいと感じ、ヘレもそれ以上口を挟まなかった。
「決めるのはスピカさんですけど~」
 最後に主導権をスピカに返してから、アルディは軽く頭を下げて元の場所まで退いた。
「いい感じの考え方をするんだね、牡牛のご令嬢は」
「お褒めいただき光栄ですわ~」
 フードの男はアルディに一言向けたあと、スピカに向き直り再度手を出す。
「さて、乙女の騎士。君はどういう判断をするのかな?」
「……いくつか質問がある」
「君が納得するなら、いくらでも」
 顔を下げたまま口を開くスピカに、一度手を下げてフードの男は話を聞く姿勢をみせる。
「まず指導役を引き受けたことについて不可解だ。なぜ、カプリコルヌス様の提案を受けた?」
「もちろん、加護持ちを減らしたくないからだよ。君たち、このままだと乙女の星の子に消されそうだからね」
「扶養の騎士か……。貴様は、あいつと関りはないのだな?」
「ははっ、気になってるんだね。んー、どうかな。加護持ちを誘ってはいるから、その中にいた可能性がないとは言い切れないね。でも、君みたく他の星でも有名だったり、わざわざ自己紹介をしてくれる子なら覚えてはいるけど、扶養の騎士。と言われてもねぇ?」
「……ザヴィヤヴァという名だ。聞き覚えは?」
「うぅん? ないかな?」
 フードの男の口調は緩やかなもので、とぼけているのか、本当に知らないのか読めない。
「そうか……ならば最後の質問だ。この星で神殺しをするつもりは、ないな?」
「ないよ。だって、山羊の加護を持ってる子がいないんじゃ蛇使いの星に行けないからね。しかも、その加護を得られるのは君たち側の誰かってわけだし、山羊の神を殺すデメリットが大きすぎるでしょ?」
「……わかった。ならば、この星にいる一時の間だけ、貴様の指示に従おう」
「うんうん、前よりずいぶん話がわかるようになったね。アスクの影響かな」
「…………」
 スピカはフードの男の茶化したような言葉に、睨みつけた視線を返す。
「そんな怖い顔しないでよ。これからよろしくするんだしさ」
「アスクのように信用を勝ち得てから言うのだな」
 スピカはフードの男を顔をそらす。言い返した声色の圧は先ほどよりもいくぶん柔らかかった。
「スピカさん……」
「心配をかけてすまなかった」
 スピカはヘレとアルディの方へ顔を向ける。
「二人にお願いしたい。私を律するため、あいつを見張るため、修行を私たちと一緒にしてはくれないだろうか?」
「わかりました!」
「ええ~、かまいませんわ~。わたくしもあの方とお話ししてみたかったところですし~」
 ヘレとアルディは、スピカの言葉に笑顔で頷くのだった。
※ここまでー-
カプリコルヌス様
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オフィウクスの謎―加護を受けたと思ったら存在しない神だった―3章03
初公開日: 2022年04月30日
最終更新日: 2022年05月27日
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蠍の神と和解したが、そこに乙女の加護を得た扶養の騎士が現れ蠍の神を……
FIX稿までは小説家になろうにUPしてあります。
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