衣更真緒/お題「風に磯匂いが混じっていた曇りの日、離着陸が遅延する飛行場で食べてみたいものの話」
 広々とした空間にインフォメーションの音が響く。スーツケースやボストンバックを手にした人、ときおり航空会社の制服に身を包んだスタッフも行き交うターミナルで、真緒は真とともに電光掲示板を見上げていた。
「あったか?」
「んー、ちょっと待ってね……、あっ、あった!」手にした携帯端末と電光掲示板を見比べた真は、表示された情報に眉を寄せた。「……遅延?」
「遅延?」鸚鵡返しをして真緒も眉を寄せた。「ってことは、北斗とスバルが乗った飛行機はまだ到着してない?」
「そういうことだね」
 顔を見合わせた二人は、どっと溢れ出した安堵感に胸を撫でおろした。
「なーんだ、まだ着いてなかったのかー」
「遅刻したーって焦って探し回ってた僕らの方が先に着いちゃってたんだね。そりゃ探し回っても二人とも見つかるわけがないよ」
 込み上げてきた笑いをしばし共有して、さてと真は携帯端末の画面を切った。
「どうやら一時間くらい時間ができたみたいだけど、どうしようか? ちょうどお昼の時間帯だけど」
「だな。午前中の仕事が思ってたよりハードだったし、安心したら急に腹が減ってきたな」
「そうだね、僕もお腹空いた。……でも、氷鷹くんたちは到着が遅れる分、お昼もお預けになるんでしょ? 先に食べちゃうのも悪い気がする」
「それもそうだな。何か軽く食べるくらいにしとくか。空港っていろんな店が入ってるから、この機会にいろいろ見て回りたいし」
「あっ、じゃあ衣更くん、ゲームしよう!」
「ゲーム?」目を輝かせた真に、真緒は目を瞬かせた。「いやお前がゲーム好きなのは百も承知だけど、空腹をごまかすためにまでするのは身体に良くないっつーか……」
 真は困惑顔の真緒に、そうじゃなくて、と笑った。
「空港っていろんなお店も入っているし、お土産もいろんなものが売ってるじゃない? 空港限定とか、この地域以外のものとか。こういう選択肢がたくさんあるところでお買い物ゲームをやったら面白いんじゃないかなって」
 概要はこんな感じ、と真は眼鏡を押し上げた。
「今から二十分間、まずは二人でぐるっとターミナル内を見て回って、今これが食べたいなぁと思うものをそれぞれひとつ決める。決まったところで『はい/いいえ』で答えられる質問を三つして、相手の決めたものが何かヒントを探る。ヒントを得たら、僕は衣更くんの、衣更くんは僕の、今食べたいなぁと思うものを探しに行って買ってくる。見事当てられた方が勝ち」
 こんな感じでどう?と訊ねた真に、真緒も目を輝かせた。
「面白そうだな! 何なら設定金額も決めようぜ。千円……、いや八百円以下でどうだ?」
「絶妙なラインを行くね。オッケー! じゃあさっそく、まずはお店を見て回ろうか」
 連れ立って歩きながら、真緒は右へ左へ視線を巡らせた。旅行以外でターミナル内を歩き回ることがなかったため、店舗をじっくり見て回るのは新鮮だった。真もあちらこちらと目線を泳がせていて、何にしようか考えているらしい。
 ひとつ決めるまでの間は一緒に行動する、ということは、その間の動きもヒントになるということだ。逆に言えば、あえて選択外の店に入ったり、違うものを手に取ってみたりと、ブラフを立てることもできる。その点はゲーム慣れしている真の方も承知しているだろう、と真緒はひとまず一店舗目に入ることにした。
「ここ入っていいか?」
「うん、いいね」
 全国各地のお土産を集めたショップには、それこそ有名どころの銘菓から見たこともなければ何処のものかもわからない菓子も並んでいる。ある程度地域ごとにまとめられている中で、真緒は北海道のコーナーに足を運んだ。
「ほら見ろよ真、SS予選会のときにスバルが買ってたのと同じ菓子があるぞ」
「あっ、ホントだ。これ見た目の派手さにびっくりするけど、意外というかちゃんと美味しかったよね〜」
 笑顔で真が頷いている。その表情からは言葉以上のことは読み取れない。
「こっちはALKALOIDの子が買ってたやつだね。へぇ、結構お手頃価格……」
「ホント、これならちょっと小腹に入れるのに良さそうだなぁ……」
 言いながら真を見れば、あっちはなんだろう、とパッと身を翻して行ってしまった。
 徐々にこれが結構な難易度のゲームであることを真緒は実感し始めていた。相手を観察し、何を選ぶのかヒントを探りながら、同時に自分もバレないように食べたいものを決めなければならない。顔に出やすい自分と違って、真は演技力がある。ゲームの戦略にも長けている。
「って、やべっ、食べたいものが決まる前に時間切れになりそうだ」
 慌てて真の姿を探しながら店の外にも目を配ると、人の列が目についた。
「寿司屋かぁ」
 空港が海に面しているためか、日本食の定番だからか、美味しい店だからか、店の外まで人の列ができている。真緒も暖簾の横のショーウィンドウに目が吸い寄せられた。海鮮丼……と小さく呟けば、ちょうど空腹を抱えた胃が今こそ主張するときといわんばかりに声を上げた。
「いやいや、完全に予算オーバーだし、がっつり昼飯になっちゃうし、そもそも真は海老とか魚とか苦手だし……」
 正直者の腹に顔が熱くなる。誘惑に抗おうと首を振っていると、「衣更くん」と声をかけられて飛び上がった。
「はぐれちゃったかと思った。お土産物屋はもういいの?」
「お、おう、ごめん。大丈夫だ」
 次の店に行こうぜ、と慌てて歩き出した真緒の後ろを、真は眼鏡の向こうで目を瞬かせて見ていた。
「……ということで、二十分が経ったけど、衣更くんは決まった?」
「おう、ばっちり決めたぜ! 真は?」
「僕も決めたよ」
 ターミナルをぐるっと回って電光掲示板の前に戻ってきた二人は、近くのベンチに腰掛けて向き合った。
 先行後攻をじゃんけんで決めた結果、真緒が先に真に質問する側になった。
「んじゃひとつ目の質問。……それは真が好きなものですか?」
「わぁ、それ、初手からがっつり絞りめるよね? でも、えっと、答えは『はい』」
「ふふん、そうだろうな。じゃあえーっと次は、……それは冷たいものですか?」
「うん、そうだね、『はい』」
「ラスト。それは重いものですか?」
「えっ、重い? 手にしたときの重さがってこと? 食べ応えがってこと?」
「あー、重さ?」
「そっちか。なら『いいえ』」真はふっと笑った。「衣更くん、最初から見当がついてたんじゃないの?」
「いや、俺まだちょっと悩んでるぞ。ま、ひとまず次は真、お前が聞く番だ」
 促された真が頷くのを見て、真緒は心の中で選んだものを思い浮かべる。選んだのはよくあるスナック菓子の地域限定味のものだった。正直なところをいうと、海鮮丼を見かけて以降すっかり頭の中をそちらに支配されてしまい、
「じゃあ僕からの質問は、……それはナマモノですか?」
「へっ?」
 思わず変な声を出してしまった。頭に描いていたスナック菓子が一瞬、頭上から降ってきた瀬戸物の丼のせいで吹き飛んだ。あくまで真緒の頭の中の出来事であるが、そのインパクトで真緒の目線がわずかに泳いだ。
「……イイエ」
「……真緒くん、嘘ついちゃだめだよ?」
「嘘じゃないって! 突飛な質問をされて一瞬混乱しただけだって! とにかく答えは『いいえ』だ」
「はいはい。じゃあ二つ目の質問は、……それは洋菓子ですか?」
「お前も随分絞り込もうとするじゃん。でも、うーん、……答えはたぶん『いいえ』だ」
「たぶん、ね。ふむふむ。えーっとラストは、それはしょっぱいものですか?」
「あー、『はい』」
 これでお互いに質問と応答をしたことになる。この情報をもとに、今後はそれぞれバラバラに答えと思しきものを買いに行く。
「じゃあ、十分後に、今度はラウンジに集合で」
「おう、じゃあまたあとでな!」
 真と別れた真緒は、真っ直ぐに土産物屋に向かった。真が好きなもの、といえば真っ先に思い浮かぶのはスナック菓子だ。だが真緒には、真がそんなわかりやすいものを選ぶわけがないという予測があった。だから「温度」と「重さ」を聞いた。
「これ、かな?」
 カップのアイスクリームをケースから取り出して、レジに持って行く。自分も食べたくなったから二つだ。ゲームの主旨とはずれてしまうが、構わないだろう。
 アイスを手にラウンジに向かうと、すでに真は買い物を終えて座っていた。
「じゃあまずは衣更くんの回答から」
「おう。俺の回答は……アイスクリームだ! どうだ、真?」
 自信を持ってテーブルに置いた真緒を、真はしばらく真剣な表情で見つめ、突然パッと破顔すると両手で大きくバツ印を作った。
「ええーっ、違うのかよ!」
「違いまーす。僕が選んだのは、ドーナツでした。残念でした衣更くん」
「あー、最後の質問、食べ応えのほうだって言っときゃよかったな。ドーナツなら、お前多分『はい』だろ?」
「そうだね。だからちょっとあの質問のときはドキッとした」
 でもこれでひとまず僕が一歩リードかな、と笑う真を、じゃあ次はお前の番、と真緒はせっついた。
「はーい。僕の回答はこれです。じゃーん!」
 真がテーブルに置いてあったビニール袋を開けると、中からは小ぶりな弁当が出てきて真緒は目を丸くした。
「お前、これ……海鮮丼じゃん!」
「そうだよ、これが僕の回答。合ってるでしょ?」
「いやいやいや、予算オーバーだったろ!?」
 にこにこと笑っている真は、目を白黒させている真緒に、そうだね、と頷いた。
「そうだね、じゃなくて!」
「わかってるよ。本当の衣更くんの答えは、たぶんスナック菓子でしょ?」
 あっけらかんと言われて、真緒は真のことを手品師のような目で見つめた。真は優しい目で見つめ返した。
「真緒くんが食べたいなぁと思ったものはこれ。でもゲームの縛りがあったから違うのにしたでしょ?」
「いや、金額設定は俺提案だったし。それよりも、これじゃ真は一緒に食べられないじゃないか」
「僕?」
 真緒の言葉に、今度は真が目を瞬かせた。だがすぐにふっと破顔した。
「衣更くん、僕のことまで考えて選んでくれてたんだね。ゲームは相手が今食べたいなぁと思うものを当てるものだから、一緒に食べることは含んでなかったのに、衣更くんはそれが選ぶときの大前提にも入っていたんだね」
 だからそのあと選んだのも僕が好きなスナック菓子だし、アイスだって二つ買ってきたんだね、とテーブルの上を示されれば、無意識下にあった前提にアッと声が出た。
「ありがとうね、衣更くん。そうやって一緒にいるひとのことを当たり前に気にしてくれるところ、とっても素敵だよ」
「いや、あの、俺、食べるっていったらお前らと分け合うことが当たり前になっていたというか、そういう風にしたのはお前らのおかげっつーか」
「照れなくてもいいのに〜」くすくすと笑って、真は耳の赤い真緒に海鮮丼を差し出した。「じゃあ、これは正解にしてもらえますか?」
「大正解だよ! ……と言いたいところだけどな、これだけじゃちょーっと足りない」
「え? 足りない? 衣更くん、どんだけお腹空いているの?」
 そうじゃなくて!と真緒はニヤッと笑みを浮かべた。
「この海鮮丼だけじゃ、お前の昼飯が足りないし、なんなら北斗とスバルの分すらない! あいつらが到着したら、今一番食いたいものを買ってTrickstarみんなで食べようぜ」
 笑った真緒に、真も、それが正解!と満面の笑顔で頷いた。
このあとふたりで真緒くんが買ったアイスを食べて、遅れて到着した北斗くんとスバルのためにもアイスを買ってあげたのだと思います。
ご視聴いただき、ありがとうございました!
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白岸奏亜
いいねありがとうございます(ˊᗜˋ*)
109:14
白岸奏亜
休憩が長くて配信停止してしまってました💦失礼しました、再開します!
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向き
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お題SS:真緒
初公開日: 2022年04月17日
最終更新日: 2022年04月17日
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