学校が休みの日は時間が経つのが遅く感じる。キースやブラッドの予定が空いていれば一緒に映画を見たりゲームをするから時間なんてものは一瞬で溶けてしまうが、アルバイトに生徒会や実家の用事にとそれぞれ忙しくしていて一緒に過ごさない休日は少なくはなかった。かく言う俺も今日はサッカーサークルの助っ人に呼ばれていたから朝から外に出ていた。試合も無事に終わったのだが、次の試合に向けての反省会があるからと抜け出してはのんびりと街の中を歩いていた。
「お腹空いたなぁ」
沢山動いたから当然ではあるが、空腹を知らせる音が小さく響く。最初はまだ可愛いものだったが次第に地獄の底から響くような音になっていき、気にしないにしても見知らぬ人達にまで聞かれるとなれば羞恥心も働く。熱くなる耳を誤魔化す余裕も無く安くて沢山食べることが出来て、できればピザがあるお店はないだろうか。きょろきょろと辺りを見渡しながら鼻を働かせる。あまり来ない場所だとお店の在処すら分からないけれどピザの匂いを辿れば大抵解決する。導かれるまま辿り着いたのはひっそりと佇む小さなお店。初めての場所だけど美味しいピザがある。そんな確信を持って扉を押して中へと入った。
「らっしゃいま……」
「キースっ!?」
カラン、という音に釣られて聞こえてきた声、カウンター内にいる人物が視界に入って目を見開いた。声の主はあからさまに顔を顰めるとふいっとそっぽを向く。
「ヒトチガイじゃねーっすかー」
「いやいや、キースだろっ!? 今ここでアルバイトしてたのかっ!?」
「あー……めんどくせー……」
あまりお客さんがいないのをいいことに、カウンターへと駆け寄って声をかける。顔を逸らしているけれど絶対にキースだ。毎日顔を会わせている友だちを見間違えることなんてしない。アルバイト先の話は迷惑がられると思って尋ねたことは無かったから飲食店で働いてるなんて知らなかった。一つ新たな姿を知れたことが嬉しくて体温が上昇していくような気がする。対照的に大きな溜息をついたキースはキッチンの方へ行くとお冷とおしぼりを持って来てくれた。
「なんでこんな所にいるんだよディノ」
「サッカーの助っ人があるって言っただろ? それが終わってランチ食べたいなって探してたんだ。とりあえずおすすめのピザ頼んでもいいか?」
「へいへい……」
再び肩を落としてキッチンに戻っていったキースの背中を眺める。今日はずっと一人かと思っていたからなんだか嬉しくて、ピザが楽しみで、足が自然と動いてしまう。ランチタイムが過ぎているとはいえ小さな店内に見えるスタッフはキース以外にはいない。学内では極力人と関わることを避けようとしているのを知っているから、お客さんと最低限でも会話をしているキースの姿になんだか新鮮な光景だと思う。そんな俺からの視線が煩わしいのか居心地が悪そうに何度も溜息をついては頭を小突いてくる。
「他の店員はいないのか?」
「いたけどホールの奴が来ねぇから駆り出されてる」
「あはは、お疲れ様」
出してもらったピザを頬張りながら一息ついたらしいキースを労わってあげることにする。ずっとお腹が空いていたこともあってかいつもより美味しく感じるのはきっと気のせいでは無くて、まるで魔法みたいだなんて思ってしまう。
「偶然とはいえ、キースと会えて嬉しいな」
「……お前、よくそんなこっぱずかしいこと言えるな」
「え? 本心だぞ?」
「流石ラブアンドピース星人」
「むむ……言葉の繋がりがよく分からない」
最後の一欠けらをごくりとのみこんで手を合わせる。美味しかった。胸の内から湧いてくる満足感になんだか幸せな気分になっていく。
「なあっ、またここに来てもいいか?」
「えぇ……勘弁してくれよ……」
恨めしそうな声に拒むものは感じ取れない。たまの一人も、こうした偶然が巡ってきたりするのなら悪くないかも。にひっと笑って見せると呆れるような声と共に「食べかすついてんぞ」なんて聞こえてきた。