「Mork、そのペンどこで買った?」
図書室で課題を行っていると、同じく向かい側の席で課題を片付けている恋人にそんなことを聞かれた。
「どこって…医学部の購買だったかな?」
文房具にそんなこだわりもなく、確か購買かどこかで適当に購入したペン。それを物珍しげな顔をしたPiがマジマジと見つめていた。
更には何か小言のようなことをブツブツと呟いている。何かまたあったんだろうか?と思うが、こういう時に素直にMorkには打ち明けてはくれないのだ。
「なに?これPiが欲しいならあげるけど?」
「いや!それじゃあ意味がな、」
そこまで言い放ちハッと目を見開いたPiは自身の口を手で塞ぎ、なんでもない!と首を振った。
何かおかしいとは思ったが無理矢理聞くのもどうかと思い、その日はそのまま一緒に課題を片付けた。
日も暮れ始めた頃、一緒に夕飯でもどうだ?と誘えば用事があると断られた。仕方なく自身の車が置いてある駐車場まで1人淋しくトボトボと歩いて向かう。
ふと後ろを振り返ると、先ほど別れた恋人が不振な動きをしながら医学部の方へと向かって行くのが見えた。
不思議に思い、その後を着けるとPiが医学部の購買へと入っていく姿を捉える。
さっきの図書室での質問を思い出し、もしやと思った時にはPiはMorkの持っているペンと同じペンを手にしていた。
レジを通し無事に任務をやり遂げ満足そうな顔をしているPiは、振り返った瞬間にMorkと鉢合わせ、あ…っ!と声を上げる。
手に持つペンは驚きのせいかPiの手から滑り落ち、コロコロと転がってMorkの足元に辿り着く。
それをゆっくりと拾い上げると気まずそうな顔をした恋人にそれを返せ!と言わんばかりにじっと見つめられた。
「Pi、欲しかったら言えば俺のあげるって言ったろ?」
「………それじゃあ意味がない……」
図書室でもPiは確かにそんなことを言っていた。だが、いったいどういう意味なのかはMorkもよく分かっていなかった。
「………お前も持っていなきゃ意味がないんだ…」
だから返して?と手を差し出したPiの手にペンを返せば満足そうに微笑む。Morkはそこでふと、気づいたことを口にした。
「俺と同じものが欲しかった……とか?」
そうポロリと溢せばそのMorkの言葉に顔を真っ赤にさせたPiがいた。
「だっ、だって!恋人はお揃いのものを持ってるって昨日テレビでやってたから…!」
Piは昨日何気なく観ていたテレビの情報をまた鵜呑みにしてしまったらしい。
「お、俺たち付き合ってるのにそういうの何にもなかったから……」
実際、恋人同士お揃いのものを身につけたりということは多いだろう。一緒に出掛けてお揃いのものを購入するとか、恋人がプレゼントして、ということもある。
だが、Piが行ったこっそりと恋人とお揃いのものを購入するという行動は斜め上すぎる。Piにとって『Morkとお揃いのものを持つ』が目的となってしまっているせいで、図書室でのあの奇怪な行動を起こしたのだろう。
「Pi、恋人となんでみんなお揃いのものを持ちたいか分かる?」
Morkの質問にPiは首を傾げる。それが一般常識だからじゃないのか?とでも思っていそうだ。
「その過程が大事なんだよ」
モノじゃなくて、大切な人と一緒に過ごした想い出。そういったものが何気ないものから過ることがある。
「だから俺たちはお揃いじゃなくてもたくさんの想い出があるから大丈夫」
そんな風に必死に恋人像を追わなくても大丈夫。そう言ってあげたくてMorkはPiの、ペンを持つ手と反対側の手を取った。
「昨日、Piが実習でケガしたからこの人差し指に絆創膏を貼っただろ?それに、」
そう言ってMorkは自身の鞄からお馴染みのパッケージのチョコレートを取り出す。
「Piが絆創膏のお礼ってさっき俺にチョコをくれた」
そうニッコリ微笑むと、Piは照れ臭いのか気まずそうに目を泳がせる。
「あと、ここ。2日前の跡まだ残ってるし、」
「……っ!」
耳元で囁くようにそう呟き、するりと首筋を撫でるとPiはピクリと肩を震わせた。
こんなにも次々と自分達には恋人としての想い出がたくさん溢れているのに何を焦る必要があるのだろう。
「あとたった今、Piが俺とお揃いが欲しいって可愛いことを言って買ったペンも想い出になったな」
そうからかうとPiは可愛いって言うな…!と文句を言いつつも大事そうにペンは握られていて。
だが、恋人とのお揃いがたった1本のペンじゃ味気ない。
今度出掛けるときにはペアリングでも一緒に選ぼうか?とMorkは次のデートに想いを馳せた。 きっと恥ずかしいから嫌だとPiは駄々を捏ねながらも大事にしてくれるに違いない。
付き合って行けばこれからもっともっと増えていくお揃いのものと、想い出の品。
そのひとつひとつを手に取って、これいつ買ったものだっけ?なんて思い出せないくらいに幸せで埋めつくされる。
そんな未来を君と一緒につくっていきたいんだ。