「わっ!わっ!今日のホテル、豪華っすね〜!!」
「本当ですね……窓からの夜景が綺麗です」
ビジネスマンホテルで一泊なんていうのも珍しくないのに、今回の主催者は懐に余裕があるらしい。
地方公演で泊まることになった部屋は、高層階の洒落た部屋だった。
ニキとマヨイは同じ部屋に泊まることになっており、部屋に入るなり年相応にはしゃいだ。
あたりを一望できる大きな窓から外を二人で覗くと、思い思いに光を放つ眩しい夜の街がそこにあった。
普段はその中を歩いているということが信じられないくらい綺麗で、そして小さく見え、宝石箱の中身を広げたみたいだった。
道路にそって並ぶ光のライン、ランドマークになるような大きな建物は光に形取られ分かる。
あれは行く道すがら読んだガイドブックに載っていた建物なのかもしれないと想像するだけで楽しかった。
実際のところスケジュールはタイトで、観光にあたる時間はないのだが、窓からの夜景が十分旅行気分にさせてくれた。
じっと眺めていたマヨイはふと横にいるニキを見た。
目を輝かせて窓の外を見るニキは、本当に楽しそうでその瞬間を閉じ込めたくなった。
(……写真に……あっ、スマホはカバンの中に……)
きっと不意打ちで写さなければ、消えてしまう。
そんな儚い輝きだとわかっているからこそ、手元にカメラがないことが惜しかった。
「……どうしたっすか?」
「……い、いえっ、別に!!」
まさか見張れてましたなんて言うわけにはいかず、マヨイが慌てて首を振った。
しかし、そんなやりとりで現実に戻されたのも本当でニキはベッドサイドにある時計を見て、立ち上がった。
「もうすぐ日付変わりそう……っ!
とりあえず、お風呂入んなきゃっすね!
どっちから入るっすか?」
「……わ、私は後からでも構いません。
椎名さんからどうぞ……」
「ここで遠慮しあっても仕方ないっすね。
んじゃ、お言葉に甘えてお先に失礼するっす」
ニキは自分の荷物の中から必要なものだけを漁るとバスルームの方に向かった。
「……マヨちゃん!!
なんかいい感じの寝巻きまであるっす!!
そして、風呂もでかいっす!!」
引っ込んだニキが慌てて備え付けの部屋着を持って戻ってくる。
その姿が面白くてマヨイはくすくすっと笑うと、今日はそれを着てお揃いで寝ましょうかと言った。
長い髪はお互いにまだ乾かず、このままじゃ寝癖が付くかなぁなんていいながら、束の間のホテルライフを満喫していた。
白いワッフル地に金のラインが入った部屋着は、少しだけ大人っぽく何より非日常的だった。
寝るには惜しくて、窓際に並んで座って取り止めのない話をした。
「……ここで、ワインとか飲んだらすごくっぽい感じしないっすか?」
「しますね。
ふふふ、でも、椎名さんらしくないと思います」
「そうっすか?
あーでも、なんかマヨちゃんの方が似合いそう……」
「私もそう思います」
わかりやすく肩を落とすニキに、マヨイは小さく笑った。
「わかんないっすよ。
こっからすごく渋い感じになるかもしれないじゃないっすか」
ニキは悔し紛れにそう言ったが、マヨイの笑いを誘うことしかできなかった。
ひとしきり想像して笑った後、ふと先ほどの感情を思い出した。
「……写真」
「ん?」
「せっかくだから、写真を撮っておきませんか?
出来るだけ大人っぽく……この雰囲気に合った感じで……」
マヨイの提案をニキは快諾すると自分のスマホを持ってきた。
「いいっすよ!
せっかくだから、マヨちゃんもお酒飲めるようになったら一緒にここに来て、もう一回同じ写真を撮ろ!
そしたら、さっきの答え合わせもできると思うんで」
「……そう、ですね」
数年後まで、こうした交流がなくなるわけないと思っているニキが嬉しくて、胸の奥が暖かくなった。
「それがいいと思います!
きっとその時も今日と同じくらい楽しんでしょうね」
「うんうん。
その時はお互いに休みとって、この下に見える街、ちゃんと観光もするっすよ」
既に未来を想像してうきうきしているニキにつられる。
きっと楽しいはずだ。
「じゃ、お互い、誰にも見せないって約束で、最大限に大人っぽくいくっすよ!
はい、チーズ!」