自然と意識が浮上する。心地好い眠りを妨げる音が一切無く眠りから目覚めるというのはいつ振りだろうか。体を起こして大きな欠伸をしながら伸びをすると、シェルフの向こう側へと視線を向けた。物や段ボールで溢れ返ったスペースの中にあるベッドは空っぽで、思わずドキリと跳ねた心臓を落ち着かせるように開いたままの口から長く息を吐き出す。
 ディノが実家へと帰省した。ごく当たり前の言葉は今までなかったことが不思議なレベルの物だと気が付いていたはずなのに、目を逸らしていたのは不安な気持ちになりたくなかったのが原因だろう。戻ってきたはずのディノの姿が消えている、もう帰ってくることは無い日々が続いてしまう、そんな出来事はもう二度と味わいたくはないという我儘とも言えたのだけど。結局はディノが自ら遠ざけていたのが原因ではあったが、曇った表情を目にしてしまうのだから帰省させて正解だった。その後押しをしたのはジュニアだったようだけど。少しずつ、ゆっくりと、前向きに変わっていくのは悪いことではないかもしれないと認識を改めさせられる。
 引っ張ってくる手が今日はない。急遽ディノが休みを取ったとはいえ、今日はパトロールはあるからジュニアが前みたいに起こしに来るものだと思っていたから予想も外れてしまったらしい。この歳で起こしてもらえないからといって胸の中が物足りなさで満ちていくのはどうなのだろうかと感じながらベッドへと抜けだした。ウィン、と音を立てて扉が開くと突き刺さる視線に顔を上げる。
「キース、おまえって本当ディノがいないとぐーたらしてるよな」
「……おいおい、開口一番それかよジュニア」
「事実だろーが」
 時計とオレとを交互に見ながら呆れたように肩を落とす。アルコールが体に残っているわけではなく、アンプに繋がっていないとはいえジュニアの声は目覚めたばかりの頭によく響く。ぐらりと揺れそうになる頭を押さえながらミネラルウォーターへとを伸ばした。
「つーか早く起きてほしいんだったら前みたいにジュニアが起こしにくればいいんじゃねーの?」
「なんだよ気色わりぃ……別に早く起きてほしいわけじゃねーし、ディノに悪いからな」
「はあ?」
「なんでもねぇ。明日はウエスト全員オフにしたって通達が来てたから、今日ぐらいは真面目にやれ」
「へいへい」
 ラッキーなこともあるもんだ。一日休みになるのであれば楽しみに取っておいた酒を開けても良いだろう。折角だしピザではないつまみも用意してジェイは勿論リリーやブラッドにも声をかければディノも楽しめるだろう、とまで考えては動きをピタリと止めた。昨日貰った連絡では明日帰ってくると言っていたから、ディノは今晩居ないことを知っているというのに。
「…………なんだかなぁ」
 深い溜息をつく。朝から晩までディノと一緒に居てばかりだったからか、姿が見えなくても自然と浮かべる予定にカウントをしてしまう。ディノがいない四年間はどう生きていたのだっけ。辛くて寂しく、酒と煙草と暴力の記憶が蘇ってくるからあまり思い出したくもない事だったが、ついあの時のことを考えてしまう。それでも分かることは四六時中とまでいかなくても、ディノのことを考えている時間が多かったという事で、我ながら恥ずかしい奴だと思い知ったような気分だ。
「……早く帰ってこねぇかな」
 やっぱり、朝一番に目にするのはディノの姿が良い。隣に居ることが当たり前の日々をもう手放したくはなくてぽつりと呟いては顔が熱くなっていくような気がした。
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20220116キスディノドロライ
初公開日: 2022年01月16日
最終更新日: 2022年01月16日
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第40回【お題:血/おはようからおやすみまで】