いつかこの日が来ることは分かっていたはずだった。
 それから目を逸らしていただけなのだ。始まった時からずっと、私は目を逸らしていた。
 でも、いざその時がくると、どうしようもなく悲しくなってくる。
 あぁ――
「またかぁ……」
 新選組ムック本、打ち切りの報に、私はただ静かに項垂れるばかりだった。
「どったの?」
 自室からリビングにひょっこりと顔を出してきた愛果がそう声をかけてきたので、手元に置いてた雑誌をひらひらと見せる。
「これ」
「あー、新選組のちゃんばらって奴」
「生産終了だって」
「へー」
 愛果のボケはいつもの如くスルーしとく。
 これなる歴史ムック本、あんまりにも続きが来ないなーと思ってたけど、今し方打ち切りの葉書きが届いた。結局、七冊しか続かなかったか。いや、最近だと持った方だろう。
 愛果は落ち込む私を慰めるでもなく、冷蔵庫を開けて牛乳をだっぽだっぽと注いでいる。いつもなら文句を付けるところだけれど、その気力もない。
「今度こそって思ったのに……」
「いつものことじゃん。で、今回の付録はなんだったっけ?」
「戦場のペーパージオラマ……」
 そう言ってリビングの一角を指差す。
 そこには中途半端な形に終わった五稜郭が、物悲しげに鎮座していた。
「へー。この海星の刺し身みたいなの?」
「これだけ張り切ってるなら今度こそ続くと思ってたのに……」
「張り切り過ぎたんじゃない? きっと従業員みんな筋肉痛だよ。知らんけど」
 確かに一冊ごとの付録パーツが分割だったから不安だったけど。信じてたのに。
「大体、なに目的で買ってるの? そーゆーの。本の内容? 付録?」
「どっちもだよ」
「でもさー、みどりの知ってることばっかでしょ、本に書いてあるの」
「そうだよ。でも私の知らない情報もあるかもしれないし……」
「そーゆーのは論文とか探した方が早くない?」
 身も蓋もない。時々愛果は鋭く無慈悲な一言を突き付けてくる。愛果のくせに。いや愛果の方が成績よかったけども。なんか理不尽だ。
「分かってるよ」
「そもそもさ、こーゆー系って何回か出して打ち切りばっかじゃん。なんでわざわざ買うの?」
 そして止めの一撃とばかりの追撃。こうかはばつぐんだ。
 ……実際、中途半端に終わるって半ば確信してるのにわざわざ買うのは、自分でもどうかと思う時もある。私の部屋、こういう類の本とか付録とかで溢れ返ってるし。
「そりゃあ、需要があるって示しとかないと。こういう本すら出なくなるし」
 でもまぁ、消費者としてはささやかでも主張しときたいのだ。それが私の好きな物だと。そう。
「需要は重要って?」
「そう」
 愛果のボケに頷く。もう五年の付き合いだからすっかり慣れてしまった。
 ……とはいえ、いくら私が買い支えたとしても、一人じゃ報われることがないっていうのは分かってるけど。私の好きなコンビニスイーツもすぐに陳列棚から消えるし。
 それでも……。
「……なにしてんの?」
 ぼんやりとしていたら、ふと愛果が変なポーズをしているのに気が付いた。
 ちょっと前のめりになって、手を膝に置いてばちんと両目を閉じている。いやまばたきしてるのか、これは?
「え? 需要?」
「いや訳分かんないし」
「そかー」
 そう言うと愛果は特に惜しんだ様子もなく、残っていた牛乳を一息に飲み干す。
 なんだったんだ。
「……え、なに、もしかして慰めようとしてたの、それ?」
 わずかに思考を巡らせてみたら、まさかの可能性が思い浮かんだので訊ねてみると、愛果は小首を傾げた。
「違うけど?」
「えー……」
 いやじゃあほんとなんだったんだ、あの奇行は。
「じゃあお肉食べて元気出そうよ、お肉」
 困惑――というには呆れがかなり強いのだけれど――していると、愛果が名案とばかりに手を挙げた。
 あまりに唐突な提案だったけど、その狙いは私には丸見えだ。
「あんたが食べたいだけでしょ」
「今日のおゆはんはー、びーふぽーくまとんちきんー」
 図星だったのか、歌って誤魔化される。ご飯作るの私なんだけど?
 ……はぁ。まぁそろそろいい時間だしね。
 この類で落ち込むのもいつものことではあるけれど、だからこそすぱっと気分転換するのも大事だ。
「……買い物行こうか」
 いかにも仕方なさそうに、私も立ち上がった。愛果は狭いリビングでくるりと回る。
「私松坂牛がいいー」
「沙弥香に頼みな」
「じゃあサラミー」
「なんでそう極端なの」
 愛果の放言にツッコミを入れながら、財布を手に私たちは部屋を出る。
 ――そうして返ってきた手に持っていたのは、半額引きのシールが貼られたパックのお寿司だった。
 ……あれ?
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