「なぜ直接行かねばならんのか、理解に苦しむ」
「そう言わずに。加茂先輩もお忙しい方ですし、どうしても必要…とのことですから」
そう言って、高専の寮を出たのは夜が明けきらぬ午前五時。
秋を唐突に通り越して冬近い気温が肌をさす中、市街地へ向かって公共交通機関を乗り継いでいく。
さすがにまだ人の往来は少なく、あっても数人とすれ違うのみで、この寒さの為か一様に人々の表情は強張っていた。
俺の隣りを歩く彼女もまた例外ではないはずなのに、理不尽なお遣いをお願いされた割にはその口の端を笑みに形作り、機嫌よく歩を進めている。
「ならば補助監督に送迎を手配するなり、加茂家の者を遣わすなりすれば良かっただろう!それをわざわざ自力移動の条件をつけて、貴船くんだりまでお前を向かわせようとするなど…」
どうかしている!
思わず叫んでしまった俺の口元を慌てて抑えようとする彼女だったが、いかんせんこの身長差では無理だろう。だが、つま先立ちで懸命に手を伸ばしてくる姿は愛らしい。
「葵さん、声抑えてください!周りにご迷惑ですよ…!」
「ハニーは皆に優しすぎる。時にはイヤなものはイヤだという強い姿勢を取ることも大切だ」
間近に迫ってきた手を取れば、ここまでの移動でかなり冷えていたのだろう、氷のようにひやりとした感覚に一瞬驚きつつ、即座に両手で小さな手を包んだ。
「手袋は持ってこなかったのか?」
「それはさすがにまだ早いかな、と思って…」
読みが甘かったですかね、と苦笑いする彼女に笑みを返しながら、ここには居ないあの男に対しての殺意がふつふつと湧き上がるのを必死に堪える。
きっと心根優しい女神のような女性であるから、そのような所業、露ほどにも望んでいないのだろうが、受けた理不尽に対してはそれなりの報復をすべきだ。
高専に戻ったら、愛しい彼女が受けた苦痛を倍にして返してくれる。
「あ、次の電車が来ましたよ」
「そうか」
この路線でも始発の時間帯ですから人は少ないですね、と
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