新刊の原稿がなんせ書き始めぐらいしか書いてないので、テキストライブで提供することにしました。よかったら読んでってください。
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※普段は具体的なコメントが湧かない、というときは「キャー」と言っていただいています。
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アズールは多分多くの同年代の男よりも、イベントというモノに敏感で、よく知っているほうだと思う。
というのは、それが『飯のタネ』というやつだからだ。
人がどういうときに『外食をしたがるか』を認識していないと、レストラン経営など成り立たない。子供の事からそういうことに触れてきたから、アズールはそういう時には何がふさわしいのかとか、どうするのが良いのかとか、こうすると喜ばれる、とか、そういう知識があると思う。
自分自身のロマンティックと繋がるわけではない。というか、こういうのでデートで立ち振る舞う男の何倍も、提供側のアズールには知識がある。
なのでいくらでも、出来ることはあり、アイディアはある……けれど、
「シンプルなもので構いません」
男ばっかりの学園で、そのロマンティックなアイディアを全力で出す意味はない。
ただ、全く外部の目に触れないとは限らないので、ある程度はやっておかなくてはならない。どんな時でもビジネスチャンスを逃さないために。
「はぁ。フェアリーライトだけでいいって?」
「そうです。コードが見えないようなものを。あなたなら簡単でしょう?」
「まぁそんなに難しくないけど……意外ー……」
アズールの前、チェスのポーンを動かしながらイデアはちらりと上目遣いでアズールを見上げた。相変わらずの行儀の悪い座り方。
本来なら彼の方がはるかに大柄なので見上げられるようなことは無いはずなのだが、いつも椅子の上で小さくまとまったイデアはアズールを上目遣いで見てくる。
「何が意外なんです?」
「ええ、だって陽キャの皆様はパーリーナイにはしゃいでド派手なのをぶち上げるのが好きでしょ?」
「なんですかその偏見は……」
相変わらずの卑屈さには呆れたため息を返し、手ぬるい手はさっさと封じた。どうせ今のポーンは遊びの手でしかないだろう。
しれっと性格の悪い手を打つイデアだが、それがなんとも面白い。
一筋縄ではいかない。勝ったり負けたり、いつもそんな感じだから部活ではおおよそアズールの対戦相手はイデアで、そしてこの、勝てるかどうかわからない勝負を楽しめる……というのは本当に、面白い人間がいたものだ。陸に上がったかいがある。
「そもそもあなたの想像する『ド派手なの』って、モストロラウンジに似合うと思います?」
「拙者がそれを判別できるとでも?」
「……まぁ、あなたが遊びに来たことなんて一度もありませんからね……」
部活以外で『外』でイデアを目撃するのはかなり難しい。
授業すらろくに生身では出ていないのだからアズールはイデアに比較的よく会っている方の生徒だろう。寮内ならアズールより接する生徒もいるかもしれないが。
引きこもりなので。と言われると、それを無理やり引っ張り出す気にもなれない。アズールだってそうだったし、まだ本質はそのあたりだからどうしても『理解』してしまう。無理を言いたくはない。
わざわざ自分の過去を語ったことなどないけれど、イデアもなんとなくわかっているだろう。
人見知りで引きこもりで、陰キャなんで、というのを当たり前のように言うイデアが、アズールには遠慮がないのはそもそもコミュニケーションが下手だからというのもあるが、アズールだからだというのもあるのだろう。
それはちょっと……良い要素だけではなく、こういう『マイナス要素』の一致、同調があると思う。
「とりあえず、映像では見ているでしょう。全く知らないとは言わせませんよ」
「ハイハイ、あんまり派手じゃないやつね。それにしてもフェアリーライトだけって地味じゃないの?」
「魔法がなければ普通は全部コードで繋がってるんですよ。十分です」
「あ、そう?」
フーン。とイデアは興味がなさそうな相槌を打った。
自分が出来ること……普通のこと、それならどうでもいいのだろう。
ラウンジの冬の飾りつけを外部に頼むよりも、イデアに頼んだ方が経済的に良いし、何より質がいい。
間違いない業者かどうか確認しなければならない手間、金額や交渉……いくらナイトレイブンカレッジだと言っても、学生だからと甘くみられることもある。
だがイデア一人で済むなら面倒はない。何より、半端な業者よりイデアの作るものの方が良いに決まっているのだ。
本来、個人に頼むようなことではないのだが、モストロラウンジをムーディに飾り付けるライトを『こんなのでいいの?』とイデアはあっさり引き受けた。謝礼はオルトの調整の手伝いで終了予定だ。既に支払い済となっている。
大したことはしなかったのでこれでラウンジ全体に飾り付けるフェアリーライトと引き換えは渋られるかと思っていたら『こんなのでいいの?』とは。
本当に自分の能力を低く見ているような、と思いながらイデアが受けてくれるならそれでいい。
ラウンジに来ている生徒たちは『どういう店』なのかはわかっているけれど、イデアは写真と動画、あとは図面だけだ。
施工する業者がわかる内容ではある。けれど。
(どうせこれを全部作っても、この人が来るわけじゃない)
と一瞬思い、自分でわずかに眉を寄せる。
なんだか拗ねたような思考回路だったな、と自分で思ったからだ。
自分はイデアにモストロラウンジに来てほしいと思っているのだろうか。……何のために。
おどおどさせるだけだし、嫌な思いをしてまで来てほしいなどというほど酷な気持ちはこの男には持っていないと思うのだけれど。
◆
授業が終わり、教師からの頼まれごとを快く引き受け……たので、ラウンジに顔を出したのがいつもより遅れた。今日はイデアの作ったライトの納品日だったのだが。
(まぁ任せて悪いことにはなっていないだろう)
どうせ飾り付けるために納品に来るのはオルトだろうし、と思いながら到着すると、ラウンジは大変な賑わいを見せていた。
飾りつけは十分ほどスタッフでやれば終了するだろうという量を頼んでいたので、終わっていたのは不思議ではない。が、アズールが想定していたよりも明らかに華やかで、かといって派手ではなく……というのが入り口早々から滲み出ている。中に入っていくと、柔らかな光がアズールの周りをまわるようにしてついてきた。
フェアリーライト、は、確かに妖精が木々に灯っているような明りのことで、市販のモノなら小さな電球がコードに連なっただけのものだ。が、これを一巻きしておくだけでロマンチックなムードが盛り上がる。冬と言えば、と人が良く想像するものだ。
安価だし、費用対効果、で言えばかなりいい仕事をするものなのだが、そのままでは面白くはない。何より、陸のカフェなら外の植え込みにでも絡ませておけばいいものだがモストロラウンジではそうはいかないので、せっかくだからイデアに任せたのだが……。
ライブも殆どできてなくてすみません、このまま置いておきます。(最後までは書きます)