「零お前ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!!!!」
閉ざされていた扉が、ガンッと大きな音を立てて勢いよく開かれる。警視庁内、しかも何かと恐れられ距離を置かれている公安部にそんなことがあるのは史上初と言ってもいいのではないかと、部屋の中にいた公安部の一人、駆け込んできた男とその呼ぶ名前に嫌と言うほど覚えがある風見は思わず資料をかざして天を仰いだ。
さて怒鳴り込んできたのは、警視庁警備局機動隊に所属する松田陣平だった。とりあえず落ち着かせようと、風見は部下に部屋を用意させそこに半ば無理やり案内した……というのも、彼の探し人、零こと降谷零はここにはいないからである。警察庁に所属する降谷が滅多に警視庁には来ないことなど目の前の松田は百も承知のはずで、それなのにここへ来たということは、よほど腹に据えかねることがあったのだろう。国の機密が集まる警察庁には、同じ警察官とはいえ、都道府県警察に所属するノンキャリアは基本的には足を踏み入れることはできない。特に降谷はその中枢、機密中の機密を扱う部署の所属なのだ。直接訪ねるよりも警視庁の公安部からとりつがせた方が早いと判断したのだろう、何せ松田が降谷の仲のいい同期だということは周知の事実なのである――潜入捜査を終えた降谷が職務に復活したとき、降谷を心配してかそれとも怒りによってか、公安部に押し入ってきた面々の一人がこの男なのだから。普段休もうとしない上司が彼らと相対したときに浮かべた笑顔が心からの笑みであったと優秀な公安部ゼロ班はすぐに判断し、以来彼らの誰かが公安部にやってきたときは必ず誰かが降谷に連絡することとなっている。公安部には、そんな暗黙の了解が存在する。
閑話休題。
まあそういうことだから、当然今回も当然部下の一人が降谷に電話をかけたわけで。なんだかんだと言いながら結局友人たちが好きな降谷は、今回もまた、やれ自分は暇じゃないだの、やれ仕事はどうしただの、そんな風にぶつくさ文句を垂れながら、けれど心なしか楽しそうに、風見と松田のいる応接室へやってきた。かと思うと、足を踏み入れた途端、くるりを踵を返してそこを後にしようとした。さも何かやましいことがありますよ、といった降谷の様子に、松田が勝手に公安部の備品を借りて淹れ飲んでいたインスタントのコーヒーをぐいっとあおり強く机に叩きつける。音がして、紙コップの底がひしゃげたのが目視できた。なるほどゴリラの同期はゴリラなのか。そっと退出しようとするも、唯一の出口は降谷が今出ようとしているところだし、それはつまり松田が迫り行く方向である。ゴリラ同士の喧嘩に割って入る度胸は風見にはない。それを口にする勇気ももちろんないから、ただその場に留まって、インスタントのコーヒーを淹れて飲む。安っぽい味がなんとも落ち着いた。
一方その頃、同期二人の攻防戦は壮絶だった。じりじりと後ずさる降谷、大股で逃がさないとばかりに詰め寄る松田。距離が、一メートル、さらに一メートルとだんだん接近し、降谷が走り出そうとしたその瞬間のことだった。
「お前、俺らにくだらねぇことで迷惑かけんじゃねぇよ!あと結婚するなら連絡くらいしろ!」
「……は?」
「朝から通知がとまんねぇんだよ!俺ですらこれだ、萩の惨状は想像できるな!?班長と諸伏はどうなってるか知らねぇけど大方同じようなもんだろ、天下の公安様が根回しすらできねぇとは言わせねぇぞ」
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初公開日: 2021年10月31日
最終更新日: 2021年10月31日
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名探偵コナン、警察学校組の原稿作業。単行本未収録ネタバレの可能性あり。