三.
「長次!こっちだこっち」
俺と負けず劣らずデカい男に手を振れば、その隣の奴の方が勢いよくブンブンと振り返してきた。
「悪いな、わざわざ。助かった」
「いや。手元にあっても持ち腐れだから、役に立つならよかった」
手渡された半透明のファイルは、広げやすいよう折りたたまれたプリントで扇のように広がっている。その各所にきっちりと色分けされたコメントは、まるで参考書でも見ているような気分になる。
「割に人が悪いから、恐らくはこの辺りが問われると思う。単語やら文法やらはそこまで気にされなかった、ように思う。……一二年前の記憶だから、役に立つかはわからないが」
「いや、でも見てる限り一緒だから助かるよ。サンキュな」
「なんだお前、教職なんて取ってるのか」
山盛りも山盛りにしてもらったどんぶり飯を早々に空にした小平太はぱらぱらとプリントを捲る。仕方なしという感じでスーツを着てはいるが、胸やら腕やらがパツパツだ。
「ああ。もうちょいで小学校まで取れるから」
「えっ、公務員狙い?仲間だと思ってたのに……。この間ドームの就活いたろ」
「お前もいたのかよ! 声かけてくれりゃよかったのに」
「ええーだってなんか凄い絡まれてたし」
「ああ……。」
まあ確かに、あれは二人して聞きたいものでもなかった。
「そうか、お前らがふたりとも先生か。似合うな!」
「いや、まだなれると決まったわけじゃ……。そもそもまだどの区分で受けるかも決めてないのに」
「へえ。公務員って意外とゆっくりなんだな」
茶を飲みながらの余裕そうな物言いに、なんとなくむかっときた。
「ゆっくりってなんだよ。普通の企業だってこの間解禁されたとこなんだから、まだ決まってなくて当然だろ」
「え、ああ、悪いって。丁度さっき仙蔵の話聞いてきたとこだったから」
「仙蔵?」
「うん、ベンチャーに内内内定?もらったとか言って」
「は⁉ いや嘘だろ、早すぎる」
「本当だって、さっき確かにそう言ってたんだから。文次郎も第一志望のエントリシート締切がどうたらこうたら言ってたな。なあ長次」
こくりと頷く長次に、思わずがくりと項垂れてしまった。確かにここ暫く校内で見なかったが、三年のうちに全部終わってるって、そんなの。
「留三郎、気にする必要はない。小平太、別に早い方が偉いものではないだろう」
「お?おお!なんだ気にさせたか?別にいいだろ、良く分からんが留三郎のとこのはそういうもんなんだろうし、それ言い出したら伊作なんてまだ二年は学生なんだし」
「それは、まあ」
「受かったもの勝ちだろ、細かいことは気にするな! な!」
小平太はいつものように他意なく笑む。何とも言えずに頷くと、長次が面談だ何だと促し、二人は先に戻っていった。
そういうもんなのか。俺がやれ授業がやれ伊作がと勝手に考えている間に、皆もう、自分のしたいことを決めて活動して。
帰り、近所のモールに寄ってキャリア支援課が言っていた四季報?をパラパラ見る ぐったり
きっと目的が明確な奴ならいいんだろうなと思う ところどころで表紙の反り返っている様を見ているとほかにも同じような奴が山ほどいるんだろうなと思う
やめよやめよと戻してフラフラと店内を回る
生活雑誌 新生活特集という見出しにひかれて手を伸ばす
入学とか一人暮らしデビューとかの部屋の写真たちの中にある同棲の文字
『就職を機にプロポーズしちゃいました!』
プ!!???!