1.
 夢を見た。学生時代の同室と二人、なぜか僕の故郷で暮らす夢だった。
 特に何の連絡もせずに連れて帰ったので少し緊張していたのだけれど、家族はみんな留三郎のことを存外暖かく迎え入れてくれた。
 特に母さんは僕と同じでついつい張り切ってしまう悪癖がある。だから親不孝な息子が突然連れて帰ってきた好青年にとてつもなく相好を崩して、たくさん、たくさん料理を用意してくれた。三日間分はあったのではないかと思うほどの山盛りの料理を前に、なお「こんなのでは足りないかしら」と上ずった声で恥じる。そんな母に留三郎もちょっと緊張したような顔をして、「大丈夫です、私は大食漢ですし、美味しそうなのでいくらでも食べられてしまいます」なんて、胸を張って言った。
 無理する必要なんて全くないのになあ、なんて思いながらぎこちない会話を隣で見つめていると、留三郎はそんな僕に気が付いて、口をちょっと尖らせて脇腹を小突いてきた。思わず吹き出してしまって、その声に気付いて母さんも怒りだす。
 胸いっぱいに暖かな空気が膨らんでいくような心地がして、そこでようやく、夢なのだな、と気が付いた。
 夢を見た。学生時代の同室と二人、なぜか俺の故郷で暮らす夢だった。
 事前に手紙をしておいただけあって、家族は帰ったらすぐのところに手拭いやら着替えやらを用意してくれていた。ありがたいことだと思う。
 父上は全身ボロボロな癖して幸せそのものという笑顔を浮かべた伊作を見て逆に警戒していたようだった。だが、伊作が腰を揉んでよく効く湿布を貼ってやったらイチコロだった。親子共々たわいもないなとちょっと口惜しく思っていたら、伊作はそれはそれはほっとした顔をして、「薬をたくさん持ってきてよかった、留三郎のお陰なんです」とのたもうた。そりゃ部分的には俺が助けた部分もあるかもしれないが、そんなのはほんの一部だ。作ったのも、手当したのも、あの偏屈な父上の懐にするっと入り込んでみせたのもお前の手柄だろうに。
 謙遜なんてする必要がない。そう口惜しく思っていると、父上はふと俺を頭のてっぺんからつま先までじいっと見つめて、「伊作君が同室でよかったな」としみじみ言ってみせた。きっと俺が子供のころ無茶ばかりしていたのを指しているのだろう。伊作も心得たような顔をして「確かに大変でした」と頷いてみせる。おい、お前な。「でも、そんな留三郎君だから僕はここまでやってこられたのです」……そう言われてはもう何も言えない。茶を淹れようと立った背に父上と伊作の笑い声が重なって聞こえた。
 恥ずかしくて、だがどこか胸の内が引き絞られるようで、そこでようやく、これは夢だったのだと気が付いた。
 心底、夢でよかった、と思った。その夢を見られた自分の運に感謝した。
 かなう筈のない物事を経験するには夢を見るしかないのだから。
2.
 田舎の村の朝は早い。鶏が鳴く前から動き出すさまは学園にいた時と大して変わらない。今日も外で荷車が石を割らんばかりに音を鳴らすので、うっかり目が開いた。布団からはみ出た足先が霜でも降りるのではないかと思うくらい冷たい。煎餅布団の中でぎゅうっと身を丸めてくるまった。
 昨晩は随分遅かった。今日は別に市も行かなくていい日だし、畑も朝くらい、大丈夫だろう。二度寝を決め込もうといそいそと体勢を整えていると、不意に、戸が激しく打ち鳴らされた。
けまが何かしらの理由で山を歩く
子供でも庇って怪我する?大変だ 先生連れてこなきゃ いやいいって
名前や顔が覚えられたら面倒だ 良く分からん治療もされたくない
「よく教えてくれたね、ありがとう」「見せて下さい」
笠からさらりと茶色の髪が流れる 目がバチンと合う 伊作 へらりと笑う
「大丈夫ですよ 怖くないです よかったら僕に手当させてください」
ショックを受ける食満
腕を貸して歩きながら あとでね、と矢羽根 昔のままのをする
食満がちょっと鼻すする ぎょっとする伊作 どうしたんですか そんなに痛い? ああ いや 違う、これはなんでもなくて すまない
あ゛ーって声漏らして俯いたら肩を支える伊作が少し笑う 
治療して 心配してきた人たちを帰して さて、と向き合う
久しぶりだね まさかこんなところで会うなんて
本当に お前向こうに行ったんじゃなかったのか?
うーん まあね いろいろあって、ここ半年くらいはこっちに
へえ
ひとが来る おわあって慌てて取り繕う
ずいぶん仲良くなったんだねえ
ええ、まあ……
じゃああの人いなくなった後に丁度よかったね
えっあっええ
あのひと?
伊作を見る へらりと笑う
そんな立て続けに?美人さんだったのに 伊作先生逃がしちゃうんだから
〇〇さん、そういうんじゃないって言ったでしょう
……ふーん へえ
あ、あのさ、今のは
色男も大変だな
だから違うんだって
分かってるよ
お前 穴丑なんだろ
目をぱちぱちさせて 顎を摘まんでうつむいて
バレちゃった?
笑う伊作
探ろうとすると上手く躱される マナー違反だよ、留三郎
へえ 桃
うん、〇〇さんの地元らしくて
………
留三郎はどこか帰るところあるの
いや、こっちに越してこようと思って
じゃあ家が決まるまでここに暫くいたら?
布団もあるし 怪我もあるんだから "丁度いい"だろう?僕にとっても、お前にとっても
ごくりと唾を呑む
邪魔じゃないのか
自分の仕事に。
留三郎も分かってるだろ 僕、元保健委員だからね
何年経ったと思ってんだよ
そう言いつつほっとする 懐かしくて 変わりがない
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向き
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20220201_5月原稿用_卒業後ネタ
初公開日: 2022年02月01日
最終更新日: 2022年02月01日
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コメント
緊張感が欲しかったので 伊食満 卒業後設定 考えながら書くので遅いです