その日の任務は随分あっさりと終わった。突如覚醒した変電型ヘイザーの起こした自動車衝突事故による怪我人の救助、そしてヘイザー本人の保護。当人が錯乱していたせいで時折二人が吹き飛ばされるということもあったが、そこは国際警察。道路ごと封鎖していたのが功を奏してなんとか任務遂行に至った。捜査官の蓬莱と避雷の豊後は護送車の中で道路の封鎖が終わるまで待っていた。
「……外の空気吸いに行っていいか」
「オレも行く。煙草吸いてえからな」
運転手に許可を得て二人とも外に出る。外ではレッカー車に大破した車が何台も乗せられ、救急車も出勤している。ここからだと少し多いが、エレキに協力している医療機関もある。おそらくそこに運ばれるのだろうな、と蓬莱はそれをぼんやり見ていた。『国際警察機構』がこの道路から去って修復が終わり次第、この日本のどこかである道路も通常通りまた車が飛んでいくのだろう。
そう思っている蓬莱の視界に、ふわりと溶けかけている煙が混ざる。豊後の吸う煙草の煙だった。先ほどまで見た、ボンネットからの白煙と違うそれが豊後の口から吐き出されるのを彼はつい目で追いかける。豊後はやがてその視線に耐えきれなくなったか言いたいことでもあったのかで煙草を吸う手を止めた。
「そんなに見られたら気にならないもんも気になるだろうが。なんだよ」
「……いや、吸ったことがなかったなと」
煙草を吸ったことがなかった。吸っている人間は周りに多くいたが、しかし自身がそれを実際に口にした機会がなかった。もう成人と少しが経っているのだ、別に吸ったところで自己責任なのだし、一度は経験して見たいものだ。
蓬莱がそう思っていると、豊後は小さな箱を差し出した。そこにはまだ三本入っている煙草。フィルターの断面が見える。一本摘み取るように抜き取ると、すぐにスリムなフォルムのライターが投げつけられる。
「吸いながら点けろよ」
「……おう」
どうにも、変な気持ちだ。いつか吸うものなのかと思ってはいたのだが、いざ目の前にしてみると本当に吸っていいものなのかなどと考えてしまう。
とりあえず咥えてみて。何もない。当たり前だ。そこから、吸い込みながら、ガスライターで火を点けて。
突如口の中に割り込む煙、苦味。口蓋に喉になにかべたついたものがまとわりつく感覚は全く未知というか、はっきり言うと不快感が伴う。思わず蓬莱が咳き込むのを豊後が呆れたように見ていた。
「いや、そりゃそうなるだろうな」
「がほ、ごほっ、い、えよ!あー、うん、でも、んんっ、なるほどな。こんなんか」
何回か吸うと、慣れてきたのか咳き込まず煙を吐き出せるようになっていた。二つの細い煙がたなびいて、青い空に溶けていく。
「あまり吸いすぎるなよ」
「なんでだよ」
「これ一本百円くらいはするからな」
「……マジかよ」
いつだって喫煙者の肩身は狭いんだ、などとぼやいた豊後はまた煙を吸い込む。
職員が護送車に戻るように声をかけてきた。その声に気付いて豊後が右下のポケットから携帯灰皿を取り出す。黒に白いボタンのシンプルなもの。
「吸い殻はここに入れとけ」
「あー、どうも」
押しつぶすように煙草を携帯灰皿の中に突っ込む。
やがて二人が護送車に乗ったことで道路からエレキがいた証拠は無くなる。あるとするならば、煙草の煙のほんのわずかな苦さである。
マイナスドライバーを男の手から奪うことに成功した。そこまではいい。そこまでは。だがそこから先が問題だったわけで。
踏み込んだ先、この男を捕縛する方法を絵里香は知らない。幸船に教わったものはあくまで護身術の範囲を出ないものであり、相手を捕縛するような――いわゆる『逮捕術』の側面は持ち合わせていない。そのおかげで絵里香はいざ突っ込んだはいいものの、そこから先をどうすればいいのかわからない状態にあった。
(ここから、捕まえる、どうやって?ヘイザーじゃないなら、電気ぶつけたら死んじゃうじゃん!)
殺すなんて判断は彼女の中にはなく、むしろ『最悪の結果』なまである。捕縛を逃がしてでも避けなくてはいけない。だから現在の彼女の方針としては、助けが来るまで猛攻を避け続けるという、一般人に毛の生えた程度の体力しかない彼女にはどう足掻いても無理があるものにならざるをえなかった。
「どうしたんですか、もしかして見逃してくれるんですか?」
「そんなっ、わけないじゃん!」
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手取川
ついでに電荷も書いてしまう
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手取川
行き詰った ここまで
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