秋 うたたね 調子が狂う
どうやら北の魔法使いたちが任務から帰還したらしい。
夕飯の仕込みを終えて部屋で微睡んでいたネロは、魔法舎を包む喧騒によって意識を浮上させた。
協調性はともかくとして、各々の強さでいえば他の追随を許さないのが北の魔法使い。厳しい環境の中で長い年月を生きてきた彼らのもとへと舞い込んでくる依頼は、それ相応の難易度を伴っていることが多い。
──まあ、どちらにせよそろそろ仕込んでおいた夕飯を出すために食堂へと向かおうと思っていたところだし。
誰に聞かれるでもなく心の中でそう呟くと、ネロはくあ、と欠伸をひとつこぼす。重い身体をぐっと伸ばし、寝台からおりて身支度を整えると、ネロは未だ騒がしさの残る魔法舎の廊下を歩いていった。
大広間のほうへと向かうと、そこには予想通り賢者と北の魔法使いたちの姿があった。ざっと見たかぎり大きな怪我をしている者は居なさそうだ。しかしネロは本来この場に居るべき一人の男の姿が欠けていることに、猛烈に嫌な予感を抱いていた。
「あ、ネロ……! ちょうどいいところに」
どこか縋るように発された声は、賢者のものだった。なんとなく面倒事の気配がしたが、こちらをじっと見つめたまま駆け寄ってくる賢者を見てみぬふりはできず、ネロは小さく肩を竦めつつもへらりと笑ってみせた。
「賢者さん、お疲れ様。どうかしたのか?」
「えっと、実は……」
賢者から告げられた内容は、ネロが予想していたよりも少々厄介なものだった。
厄災の影響による北の国での討伐任務自体は滞りなく遂行されたらしい。だが、その過程でブラッドリーが討伐の様子を目にしていたとある北の魔女に気に入られてしまったという。
それだけなら、まあ、そういうこともあるだろうと軽く返せた。しかし、その魔女とやらが所謂独占欲の強いタイプで、「ブラッドリーから他の奴の魔力の気配がする」などと言いのこしてそのまま彼を連れ去ってしまったらしい。
「我らとてブラッドリーちゃんのことじゃから、自力で戻ってくるじゃろうと思ってあんまり気にしてなかったんだけどね?」
「あの魔女もなかなかの魔力の持ち主じゃったから、しばらく帰ってこなければ一応探しに行ったほうがいいかなって、ちょうど今賢者と話しておったんじゃ!」
「はあ……」
あの男のことだ。女のあしらい方は心得ているだろうし、そのうち平気な顔をして魔法舎へと帰ってくるんじゃないだろうか。そんな考えがネロの頭の大半を占めていたが、一方で「もし帰ってこなかったら?」という不安がちらつくのも事実だった。
結局、今日は皆して身を休めて、もし丸一日経っても魔法舎へとブラッドリーが戻ってこなかったら様子を見に行こうという話でその場は落ち着いた。
ネロはいつも通りに魔法舎の面々へと夕食を振る舞って、いつも通りに自室のベッドへと身を預ける。しかし、いつもならすぐにやってくるはずの眠気が一向におとずれない。溜息とともに仰向けになっていた身体をごろんと横に倒す。
すると突然、ベッドのスプリングが激しく軋む音がした。
「……っくし、あ〜クソ、今度は何処だ」
「は……?」
一人で横になっていた寝台に、突然一人の男が現れた。それも、ネロからすれば認めたくはないが一番見知った男である。
その男──ブラッドリーは、ワインレッドの双眸をぱちぱちと瞬き、その視界にネロの姿をとらえると、