炬燵
朝、冷たい風を切って事務所に向かう。立てた襟で顔を隠して、なんとか寒さをしのぐが、この時期は飛ぶのが辛い。いや、暑い時も辛いけど。
「うー、寒い寒い……みなさん、おはよー」
先に出勤してる社員に声をかけながら事務所に入る。中はもう暖房がきいていてほっこりと暖かい。いやあ、それだけでも助かる。
そんなこんなで朝の仕事の支度をしていると、少しして常闇くんも出勤してきた。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
すっかり寒いなあ、なんてサイドキック達に声をかけられながら常闇くんは自分のデスクに向かう。その姿ももう見慣れたものとなっていた。
「ど? 仕事には慣れた?」
常闇くんと二人連れ立ってパトロールに向かう。こうして誰かと飛ぶのは未だに新鮮だ。飛ぶ俺と並び立てるのは常闇くんくらいなので。
「少しは……でもまだ未熟です。貴方についていくのもやっとだ」
やっと、なんて言ってるけど、それは謙遜だと俺は思う。彼はもう充分に速い。確かに最初はいっぱいいっぱいって感じだったけど、今では俺と会話する余裕もある。
「そ。頑張ってついてきてね」
「いつか追い越して見せます」
「ふふ、それはどうかな」
自然と漏れた笑いと、後を追ってくる常闇くんの何とも言えない存在感が心地いい。
自分でもびっくりなんだけど、彼のことを気に入ってしまっていた。インターンが終わったらもう来ないのかな、勧誘しようかな、なんて思っているくらいである。
対した事件もなく午前のパトロールを終えて、昼休み。事務所で昼食を摂っていると周りの会話が耳に入ってきた。
「俺もうこたつ出したよ」
「冬はやっぱこたつだよなあ」
「そのまま寝落ちるのとか幸せでな」
なんとなしに聞きながら常闇くんに会話を振る。
「常闇くんちはこたつあるの?」
「いえ。ホークスは?」
「ないなー。でもいいかもって思った。買っちゃおうかな」
物の少ない自宅を思い浮かべる。置く場所には困らないだろう。
そんな会話をして午後の仕事に向かう。
それから、その日の帰り道。そういえば昼にこたつを買おうか、なんて話をしたんだったと思いだす。丁度帰り道にある電気屋が開いていたので、どんなもんだろ、と思って店に入った。
一般的な四角いテーブルの物以外にも、丸いテーブルの物や、天板がひっくり返せて麻雀のできる物など、少し種類がある。俺は見た中でも一番オーソドックスなこたつを選んで、それを購入した。
明日には届けられるとのことで、手ぶらで店から出る。俺は少しわくわくした気持ちで帰路についた。
次の日。事務所で「そういえばこたつ、買ったよ」と報告をすると、「流石ホークス」「速すぎる男」なんて軽くからかわれた。
「こたつで鍋とか美味しいんですよねー」
「あー、わかるわかる」
「そうなんだ? でも一人で鍋はなあ」
一人じゃわざわざ用意する気にもならないな、と腕を組む。
「それじゃあ今日ホークスんちでみんなで鍋しましょうよ!」
「ん、仕事が押さなければいいよ」
「やったー!」
喜ぶサイドキックの二人を尻目に、俺は常闇くんに声をかける。
「常闇くんも来る?」
「え、あ、いいのですか?」
「折角だし鍋ってみんなでつついた方が楽しいでしょ」
「では、行かせていただきます」
そんなこんなで仕事を終え、途中のスーパーで具材を買いつつ、みんなでうちへと向かう。
鍋の用意をしている間にこたつも届き、無事にリビングにセッティングされた。
四人で四方に座り、真ん中に準備した鍋を置く。
「いただきます」
声をそろえて手を合わせ、各々好きなように鍋をつつく。外でみんなで食事をする事はあっても、うちがこんなに賑やかなのは初めてで、なんだか新鮮だ。
楽しい時間はあっという間で、夕飯を終えて、そろそろお開きか、という空気になる。
「片付けはしておくから、帰っていいよ。キッチンも狭いしね」
「そうですか?」
「ならお言葉に甘えて……」
「自分は残って手伝います。ここからホテルも近いですし」
「そう? じゃあ常闇くんだけ手伝ってもらおうかな」
サイドキック達は「いやあ、悪いなあ」なんて言いながら帰っていった。
残った常闇くんと二人鍋の片づけをしていると、結構いい時間となっていた。
「もう遅いし、なんなら泊まってく?」
「え、いや、流石にそれは悪いです」
正直なところ、先程の賑やかさを引きずってか、少しさびしさがあったのだ。
「俺が……その、泊まっていってほしいって言ったら、迷惑かな」
常闇くんは少し驚いたような顔をして、それから首を横に振った。
「そういうことなら」
片付けを終えて、再びこたつへ二人で入る。テレビをつけてバラエティーを見ながらなんでもない会話をして、それが妙に心地よくて。
こんな平和な時間が続けばいいな、なんて、柄にもなくそんなことを思った。