会議室の一つに通されたユウは、そこで遊ぶようにパイプ椅子に座っている赤い髪の人物を見つけた。
肩にかかる赤い髪は無造作に飛び跳ねてクセが強い髪質のようだ。
白衣を着ているが、その下はまるで軍服である。
椅子にしゃがんで乗っているためか、背丈のほどはわからず、仕草からユウと同い年に見える。
「あの、えーと……春日、ですけど……」
「!」
ユウが声をかけると、赤髪の人物はパイプ椅子を蹴り捨て、ユウの目の前へとジャンプしてきた。
「やあっ!」
ガバッとあげたその顔は、想像通りの幼顔で、口には棒つきの飴を咥えていた。
「僕は|須奈姫アスカ。
国軍のとある研究機関所属、兼イズナ所属研究員だよ」
少女のようにかわいらしい顔立ちをし、声変わりが終わったような少年の声で自己紹介をした。
「初めまして、ボクは――」
「知ってる、僕の開発した魔力測定器を爆破した春日ユウ君だろ?」
「!?」
「軍の少ない研究予算でやっと完成させたのに、見事に大破だもんなぁ……」
「あ、あああの……ごめんなさい!」
「設備の再開発もだけど、施設の修理にだいぶお金と時間をとられちゃったし~」
「!?」
青ざめるユウ。
「人員不足だから同じものを作るのに、どれだけかかるか……その間のライセンス受付も止めておかないと……」
「あの! ボクにできることがあれば、協力するよ!
本当、ごめんなさいっ!」
ユウは勢いよく頭を下げた。
「そうそれ!
あのあと、君を捜したんだけど、影も形もなくなったもんだから苦労したよ~」
アスカは、待ってましたと言わんばかりに指をパチンと鳴らした。
「君の魔力にちょお~っと興味があってね。
記録を調べれば調べるほど謎が増えちゃって。
よかったらさ、研究に協力してくんない?」
「どんな研究なんだ……ですか?」
「あ、タメ口でいーよ。僕たち同年代なんだし」
「え? そうなの?
……えっ!? 同年代で軍人やってるの!?」
「あれ? 今時珍しくもないと思うよ~。
能力さえあれば年齢不問になるし。
軍人もそう悪いもんじゃないよ。
兵役後は学費免除で学校行けるし、健康保険費用も優遇されるから病院にも不安なく行ける。
何より、軍にいれば国家機密級の研究がやりたい放題! 当然結果を出さなきゃだけど、僕って天才だから問題なしっ!」
「……そんなもんなんだ」
アスカは、白衣のポケットからシルバーのチェーンアクセサリーを取り出す。
チェーンの先には、銀貨が取り付けられていて、三つ首の犬を模したトライバル模様が施されていた。
「模様はあんまり気にしないで。他にかっこいいデザインがなくて仕方なくだから。
これ、見た目はアクセサリーだけど、僕お手製の魔力解析システムを組み込んであるんだ。これを肌身離さず持っておいてほしい」
「肌身離さず?」
「そう、それだけでいいんだ。
システムが君の魔力を感知して、常にデータを僕のところに送信してくれる。
僕はそのデータを解析してさらに研究を進める!
魔力とアヤカシの関連性が究明されれば研究費用もウッハウハ――ごほんっ」
アスカは、最後の部分を慌てて咳でごまかす。
「とにかく、データ解析ができれば、君たち魔法士の手助けにもなる」
「そんなことができるのか?」
「できるよ~。僕、天才だし~」
尊敬のまなざしでアスカを見る。
「ちなみに、君が接触したアヤカシの情報も同時にデータを送ってくれるから、その解析もできる! ね、ぜひ協力してよ!」
興奮気味にユウの手を取り懇願するアスカ。
しかし、ユウはというと、申し訳なさそうに、
「えーと……ボク一人の判断じゃ受けられないかも。ミサギさんに相談してみるよ」
すると、アスカは目を真ん丸にして驚く。
「ミサギって……あのミサギ!?」
「?」
「東条ミサギかって聞いてんだよ!?]
「う、うん……」
アスカは少し睨むようにユウを見る。
「君はあの東条の弟子? それとも家族とか?」
「え? まぁ、弟子……みたいなもの?」
「じゃあ、余計に君は受け取らなきゃっ!」
「どーゆーこと?」
「実はさあ、あの人にも君と同じように協力依頼をしたことがあるんだ。
そしたら、何て言ったと思う?」
憤慨するアスカに、ユウはできうる限りの悪態を思い浮かべながら、ボソリと言う。
それは奇しくも、アスカと同時に同じセリフだった。
「そう! まさにそのまんまなんだよ!
しかも受け取っておきながら、あんまり使ってくれてなくてさー!
だから、弟子の君も受け取らなきゃいけないよ。
東条も一応は受け取ってるし、代わりにデータをたくさん集めてよ!」