「蒼の魔法士」を執筆してます。
誤字脱字
変な文字や文章多々出現するかと思いますが
ご容赦ください。
あと、考えつつなので遅いです。
ここで綴る文章は、ワタクシめのオリジナル小説「蒼の魔法士」にて掲載予定となっております(加筆修正あり)。
どうぞよろしくお願いいたします。
小説は下記サイトより。
http://keita.obunko.com/
◆ ◆ ◆
「はぁ~い♪
ではでは、お勉強の時間はじまりはじまり~♪」
カミノヨ作戦が発令されてから数日。
どこか中性的な顔立ちの青年が教壇に立ち、講義の開始を宣言した。
常に寝不足だという、クマを湛えた茶色い眼。短い赤銅色の髪は、散髪を失敗したかのか、ところどころに長い毛が残っている。
口には子供が好きそうな小さいポップキャンディを咥え、声変わりもしていない高い声。
須奈媛アスカは、講義の先生としてユウに特別講座を設けた。
「今回はお話だけでなく、実践・実益・研究・研修を兼ねたアヤカシ特別講座! わーい、やったね! お得だよ~♪ 場所は、ミサギ君の屋敷、特別学習室からお届けしま~す」
自身の研究の記録も兼ねて、ドローンで様子を録画している。
個人の部屋とは思えないだだっ広い空間に、大学の講義に使われる椅子と机がずらりと並ぶ。後方までしっかり声が届くようスピーカーも備えられ、電子黒板がでかでかと教壇とともに鎮座する。
最前列の机に、タブレットが二つ置かれていて、生徒が二人だけだと示している。
子供が一人、学ぶ場所としては無駄に豪華で立派である。
おまけに、学ランに着替えさせられたユウ。付き添いで同席するみっちゃんも学生服——なぜかセーラ服姿になっていた。
当然、全て木戸が用意したものだ。
「ここまでする必要あるの?」
「ユウ様がお学びになるのであれば、これくらいは当然です」
彼は至極真面目に答えた。
「ああ、申し訳ありません。大切なものを忘れておりました」
そう言って、二人の胸元に『ユウ』『ミシェ子』と書かれた名札を付けた。
一方、その様子を遠くから見ていたミサギは不貞腐れていた。
ようやく仕事が落ち着き、ユウに魔法士としての指導を始めようとした矢先のこの講義。
アスカに役割をとられてしまったのだ。
「あのねミサギ君。僕ができるのは知識面を教えることだけだから。戦闘技術は最初から君にお願いするつもりだから。ほら、適材適所、な!」
アスカが周りをチョロチョロしながら宥めているものの、彼の機嫌がなおることはなく、
「知らないよ。仕事入ったし、行ってくる」
ぷいっと出かけてしまった。
「あの、ミサギさ――」
ユウは慌てて追いかけたが、閉められた扉を開くと、そこにはもう誰もいなかった。
残り散った花びらを見て、木戸の能力で扉の向こうへ行ってしまったのだと知る。
アスカがポンと肩に手を置く。
「君が気にすることないよ。あれはいつものことなんだから」
「だけど……」
「せやせや。なんだったら、帰ってきたときに『やっぱりミサギどん教えて~』言うたらええねん」
ユウは、モヤモヤした不安を拭いきれないまま、廊下の窓を見る。
今日も屋敷のある空間は晴天、あたたかな日和である。
◆ ◆ ◆
「そいじゃあ気を取り直して!
アヤカシについて、基本的なことから国軍しか知らないあんな事こんな事を特別公開~!」
アスカは、学校の授業さながらの出で立ちで仕切り直す。
『よろしくお願いします!』
生徒のユウとみっちゃんが揃って礼をする。
「うむ♪ 良い返事!」
アスカは、電子黒板に『アヤカシといえば?』と項目を表示する。
「では早速。アヤカシといえば、どんなものかな? イメージでいいので、知ってる事を言ってみてくださーい」
「目が赤い」
「機械が壊れてまう」
「うんうん、いいよいいよ♪ どんどん言って!」
アスカは楽しそうに催促する。
「人に見えへん」
「とにかく襲ってくる」
「うんうん♪」
「特殊武器でないと倒せへん」
「人を食おうとする」
「うん……?」
「集団で襲ってきて影の中に引きずり込もうとする。赤い眼がいっぱいでキモい! 口でかすぎ! ときどき臭い!! よだれが汚いっ!! とにかく大っ嫌い!!」
「……」
「うん……率直な意見、ありがとうね、ユウ君」
みっちゃんが、少し涙ぐんでいるユウを優しく撫でた。
「……気を取り直して、基本中の基本からいこうか。
まず、アヤカシとは、漢字で書くとこのよーになりまーす」
アスカが電子黒板をコンコンと軽くタップすると、二人のタブレットに、「妖」「怪」「魅」の文字が表示される。
「昔は、妖怪、魑魅魍魎、魔物、怪物……と呼び名が分かれていました。ですが今は、これらすべて『ヒトならざるモノ』として、ひっくるめてアヤカシと言っています」
「はーい、せんせぇ」
低い声を無理やり裏返して、みっちゃんが手を挙げる。
「はいそこの……キモいよミシェ子」
「アヤカシはぁ、なぁんで人に見えないんですかぁ~?」
喋り方まで女子になりきっている。
アスカは、心底気持ち悪いものを見てしまったと顔を背けた。
「単純な事だよ。見るための魔力が足りないんだ」
アスカは、黒板に表示した人体に、電子ペンで赤くバツを記す。
「人の身体は、魔力を生み出すのも貯めるのにも適していない造りになっている。残念な事に、そのからくりはまだ解明できていない。
魔法士たちは、何らかの変異があって魔力を生み出す、もしくは貯められる身体になっているんだと憶測はできているんだけどねー」
「ほなら、妖魅呼は?」
「うん、それなんだけど、妖魅呼って、僕の知る限りじゃミサギ君とユウ君だけなんだよ。そんでもって、ミサギ君はあんな性格だから研究には非協力的で、実を言うとなにもわかんないってのが実情」
ああ、とみっちゃんは納得する。
「ユウ君が協力できたらいいんだけど、さすがにお上から強く止められちゃってね~」
言いながら、チラとユウを見る。
ユウは、俯いてジッとタブレットを見つめていた。何か思うところがある様子だ。
溜息をつき、それから、とアスカは黒板をタップした。
映し出されたのは、真っ赤な宝玉。
手のひら大と説明されたそれは、一見すると粗く削られた丸い宝石だ。
「魔法士での常識。アヤカシの弱点は『目』と呼ばれる真っ赤な核。これが、アヤカシの命ともいえるもので、壊せばアヤカシも消える」
アスカがタップするごとに、核が破壊され、アヤカシが消える様が紙芝居のように映し出される。
だが、そのイラストがあまりに拙く、みっちゃんにはミミズがのたうち回っているようにしか見えなかった。
「『目』のある場所って決まっとるん?」
「個体差によるけれど、大体が身体の中央部分、特に背部に隠している。これは、今までの情報統計で確認済みだよ」
「ほうほう」
「アヤカシは『目』を破壊すれば消える。これは間違いない。けど――」
アスカは黒板を強く小突く。
「アヤカシ退治の方法としては間違いです!」
「ええっ!?」
今までの退治方法をひっくり返され、みっちゃんは驚愕の声を上げる。
「『目』の破壊によるアヤカシの消失は、増殖の為の一時的なものにすぎないんだ。時間が経つと、増殖して復活する事が確認されている」
「え、じゃあ、今まで倒してきたアヤカシが――」
「うん、まとめて復活して押し寄せるかもね」
衝撃の事実に言葉を詰まらせていると、アスカがズバッと言い切った。
「いやマズイやろそれ!」
「そう、だから永続的にアヤカシを滅するなら、封印するか、ミサギ君のように言霊で二度と復活できないくらいの力で完全消滅させないといけない」
「完全消滅……そんなん、ミサギどんにしかできへん芸当ちゃうんか?」
魔力の大量被ばく、粉砕方法、熱量破壊、思いつく限りの方法で『目』の消滅を試みたが、時間差はあれどアヤカシは復活した。
アスカの実験は、全て失敗に終わっている。
逆を言えば、それだけミサギがずば抜けた才能と力を持つ逸材だと証明しているのだ。
認めざるを得ない。
研究者として、これほど不満の残る研究結果はない。
アスカは不満気に頷いた。
「僕もいろいろ試したけど、今のところ『目』を完全消滅できるのは、ミサギ君だけだ」
「封印は? 封印やったらできるヤツおるんやないん?」
「そーだなー……でも、報告を見る限り、できそうな人は一人か二人だよ。僕も封印は実際に見た事がないからよくわかんない♪」
てへぺろっと舌を出すアスカ。
「あ、あとアヤカシについてわかっていることと言えば、鳴き声! 小さくて弱いアヤカシは、見た目通りの鳴き声なんだけど、アラミタマのように大きく強い存在は、見た目の鳴き声の他に、囃子詞のような音を出すことが確認できたんだ!」
アスカは興奮気味に話す。
「これはミサギ君が戦った、あのサルやイヌのアラミタマからわかった事だよ。波長を調べてはみたけど、囃子詞から感情や意思を読み取ることはできなかったんだ。けど、もしかしたら別の意味があるのかもしれない!
……と、これが現段階のアヤカシについてわかっている情報。
はい、ここまでで質問のあるひと~」
「は~い、せんせえ」
再びみっちゃんが挙手する。
「ユウ君が居眠りしてま~す」
「……え?」
タブレットに視線を落とし、微動だにせず集中しているのかと思いきや。
よく見ると、寝息も静かなまま、ユウは熟睡していた。
口からはよだれの滝が落ち、タブレットという滝壺に溜まっていく。
「う~わ、見事な爆睡~」
「ユウどん、おーい!」
さすがに見かねたみっちゃんが、苦笑しながら肩を揺する。
と、アスカがそれを止める。
「これはいいかも♪ ちょっとそのままにして――」
アスカは、背後に手をやり何やら機械を取り出す。背中には鞄もポケットもなかったはずだが――。
片手には突起物が二つついたヘアバンド。もう片手には洗濯ばさみの形をしたモニター。
それぞれの機械を素早くユウの頭と指先に取り付けると、ワクワク楽しそうな表情で、
「スイッチ、オン♪」
小さなリモコンのボタンを押した。
「えばばばばばっ!」
電流がユウの身体を駆け巡り、稲光が周囲にまで飛び散って暴れまわる。
「ユウどーん!?」
「だ、だいじょぶだよ! ……たぶん」
予想以上の電流の強さに、さすがのアスカも引いてしまった。
電流は数秒おきに流れ、その度にユウは洗礼に身を強張らせた。
ユウが目覚めたのは、数十分後の事だった。
講義室の椅子を並べた上に横たわり、二人が見守る中目覚めたユウ。
「あれ……? ボク……」
「お、おはようユウ君」
「はい……えっと……?」
寝ぼけた頭に手をやると、二本の角がついたヘアバンドを付けていた。
「ん? なに、コレ?」
「あーっと、君、話の途中で居眠りをしちゃったんだよ」
『居眠り』を強調するアスカ。言われた本人は、まだぼんやりとしている。
アスカはじっとユウを見る。
「ねえ、ユウ君……アヤカシの『目』は破壊するとどうなるか、説明できるかな?」
突然の質問。しかしユウは、ぼうっとしたまま、
「『目』の破壊によるアヤカシの消失は、増殖の為の一時的なものにすぎないんだ。時間が経つと、増殖して――」
先ほどアスカが説明し、ユウが居眠りして聞き逃したであろう内容である。一字一句違わずアスカの発言であった。
ひととおり話し終わると、ユウは「なんでこんなの知ってるんだ?」と寝ぼけた口で突っ込んだ。
「睡眠学習法、導入成功♪」
「マジかいなっ! うっそマジかいな!」
みっちゃんが驚きの声を上げる。
「感受性がけっこう強くないとできないんだけど、ユウ君はバッチリだね♪ よかった、これなら毎日講義しなくても、寝てる間に全部暗記できるよ」
「毎回あんな電気拷問喰らわす気かっ!?」
「そんな無慈悲な事はしないよ♪ そこは改良しておくから大丈夫!」
嬉しそうに改良計画を練る彼に、みっちゃんは呆れた表情をする。
「……なあ、楽しようとしてへんか?」
「そんな事ないよ。ただ、僕だって忙しい身なんだ。情報を全て記録して枕に仕込んでおくからさ、進捗報告を頼むよ」
「うわぁ……めっさ面倒事押し付けられた気分やぁ……」
「そう言わずに♪ ユウ君、すぐにでも実技させないと、ミサギ君も機嫌なおんないじゃん? これなら明日から実技だってできるじゃん?」
アスカは、ユウに向き直り取り付けた機械を回収する。
「そんじゃ、早速ミサギ君に連絡して実技の日程調整を始めよう! 明日また来るよ。じゃね♪」
矢継ぎ早に言うと、みっちゃんとぼんやりユウを置いてさっさと出て行ってしまった。
その数秒後。
ガチャリとドアが開いたと思ったら、スタスタとユウの前に笑顔のまま戻ってくるアスカ。
「これを渡し忘れてた」
ポケットから無造作に取り出されたのは、ブレスレットと腕時計だ。
ブレスレットは、手作りのミサンガだろうか。深いマリンブルーに染められた麻糸に、真珠のような艶のある小さなビーズが編み込まれていた。
一方、腕時計は最新型のスマートウォッチで、こちらも特別製なのだと、メタルブルーのバンド部分に犬を模したトライバル模様の刻印が主張していた。
「普段は市販されてるスマートウォッチと同じように使えるよ。アヤカシと接触すると検知して、その情報をボクに送信するよう仕込んである。おまけに、僕がこれまで集めたアヤカシの情報も確認できるよ。まあ、刻印がかっこ悪いのは我慢して。僕の所属してるトコのマークで消せなかったんだ」
「……発信機?」
「うーん、似てるけど厳密には……まあいっか、そんな感じ」
言って、彼はユウの手首に巻いた。
「ブレスレットの方は、僕が研究して編み出した特製の御守り。ユウ君をイメージして作ってみたんだ」
「ボクを?」
「そう! 海のように深く澄んでいて、穏やかな色。イメージって、結構大事なんだよ。その人の本質や、それに近い性質が備わりやすくなるんだ。だから、大切に感じるようになる。きっと激しい戦いでも耐えて君を守るよ」
自身の髪の事を言われたのを察し、ユウは複雑な表情になる。
「そいじゃ、今度こそバイバーイ♪」
手を振って、アスカは踵を返す。
ユウは巻かれた腕時計を見て、ふと気づく。
「あれ? アヤカシに関係することって、機械じゃ文字化けするんじゃ……?」
そのつぶやきに、アスカは振り返らずに拳を掲げる。
「僕を誰だと思ってんの? そんなの秒で解決するよ!」
アスカの声は、自信に溢れていた。
◆ ◆ ◆
「や~や~♪ 朝メシちゃんと食っちょるか~」