「ぅわっ」
「ひぃっ」
 照明の落とされたリビングでテレビの液晶だけが明るく室内を照らしている。その画面には明るさとは程遠い内容のホラー映画が流れていて、ありきたりな展開にご丁寧に反応を示しているのはディノとジュニアだった。定番となった映画鑑賞で、今日のディスクを選んできたのはフェイス。いつの日だったかと同じ言葉でジュニアを乗せたと思えば、ムードが大事だとか言って部屋も暗くして再生を始めた。
 口では怖くはないと言っていたけどディノの服をぎゅっと掴んでいるジュニアの反応を見ては面白そうに口元を緩ませていることに気が付いていた。予想通りの反応は確かに映画よりも見ていると面白いが、それにジュニアが気が付いたら怒られるぞ~という言葉はビールと一緒に飲み込んだ。それにオレも人のことは言えねぇんだろうけど。ソファの中心でジュニアと一緒になってビビっているディノを見ては本当に同い年だろうかなんて何度目になるかも分からない疑問が浮かぶ。
 ディノは感受性というものが人よりも強い。動物のドキュメンタリーだったり、切ないラブストーリーだったり。視聴者を泣かせることを目的とした映像を目にすると簡単に涙が落ちていく。驚かせる、怖がらせるといったものにも同様で、更に隠しながらも怯えているジュニアの存在も相まってご覧の有様だ。小動物と例えるには大きすぎるが寄り添って小さく震えている二人を見るのは面白いと思ってはそっちの方にばかり視線が向いてしまう。
「お、終わったのか……?」
 恐る恐る口を開いたであろうディノの言葉にハッとなり、画面を見ればエンドロールが流れていた。ホントに内容の記憶が残ってねぇ。
「おー終わったみたいだな」
「……た、大したことなかったな! そんなに面白いわけでもなかったし。クソDJの映画を選ぶセンス最悪なんじゃねぇの?」
「おチビちゃん」
「ん? っぴぎゃあああっ!?」
 強がった発言をしたジュニアにフェイスが指をさしてテレビへと視線を誘導すると、死んで血まみれになっていた人物が突然起き上がって驚かせて終わった。製作者側の狙い通りの反応をしたジュニアに堪えきれない様子で腹を抱えてフェイスは笑う。子供だましみたいなのに引っかかるなんてほんとお子ちゃまだなぁ、なんて言葉は口に出さずにディノへと視線を向けるとテレビを見たまま固まっていた。こっちもお子様のようだ。
「じゃ、映画も終わったことだし片付けてさっさと寝るぞ~」
「は~い」
 動かなくなった二人を余所に立ち上がってテーブルに広げたつまみを片付け始める。最初の方は手を伸ばされていたが、途中からは手付かずだった。明日の内ならまだ食べれるだろうとキッチンからラップを飛ばして持ってくる。フェイスの方はディスクを取り出したりしているのを固い動きのディノがケースを渡す。
「うぇっ!? ちょ、まだ寝るには早くねぇか?」
「いつもなら寝てる時間だろ。もしかしてジュニアちゃんは怖くて眠れねぇか?」
「そっ! そんなわけねぇだろ!! 怖くなんかねぇし!」
「先にシャワーは済ませててよかったな」
「っ、るっせー!」
 きゃんきゃん噛みついてくるジュニアをあしらいながら片付け終えると、部屋の中へ入った。良い感じに酔っているから眠りやすそうだ。大きな欠伸をしては頭を掻く。
「き、キース。一緒に寝てもいいか……?」
 やけに静かなままでいたディノが不意に声をかけてきてはぽすん、と音を立てるように肩に頭を乗せらて腹に腕が回される。ぐっと力が籠る腕は離れないでと言っているようで。本当に同い年なのだろうかと思いつつ、ディノがそれほどまでに真っ白な心を持っているのだと突きつけられては愛おしさにも似た何かが沸き上がってくる。
「ディノも怖がりすぎだろ」
「いや、だってあんなの怖がるなっていう方が難しくないかっ!? キースとフェイスが普通なのがおかしい!」
「へいへい。分かったから、さっさと寝ようぜ」
 強く服を掴んでいる手を上から触れて、指を絡めるようにして手を繋ぐ。背中にくっついたままの状態でベッドへと移動すると、ディノと一緒に倒れこんだ。小さく唸っているディノに一体何歳児だよと脳内で突っ込んでは恐怖を和らげるように軽くキスを落とす。ぴくりと体を跳ね上げさせるが、オレの意図を汲んだかのようにディノの方からもっと、と強請ってくる。荒く息を吐きながら絡む視線はまったくお子様なんかじゃない。ふと、さっきまで流れていた映画の一部に似ているような気がしてなんだか変な気分になっていく。
「よくあるよな」
「何が?」
「ホラー映画でカップルがイチャついてる時に、こう」
「キース!!」
 思わず口にした言葉の続きが分かったのか被せるように声を荒げたディノの瞳は薄っすらと水の膜がはっている。睨むように鋭くなっていく視線に劣情に似た何かが全身の血液を沸かせてくるがディノにとってはきっとそれ所では無い。いじめすぎたことに反省をして頭を撫でる。
「ま。そんなことにはならねぇから安心しろ」
 何があっても守りたい存在を映画のように簡単になくすことは絶対にさせない。ディノの腰へと回していた腕に力を入れて引き寄せてはシャンプーの香りに混ざったディノの匂いを探す。安心する匂いで満たすように深く息を吸い込むと「キースのばか」と小さく呟いたディノから噛みつかれるようなキスをされた。
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20210814キスディノドロライ
初公開日: 2021年08月14日
最終更新日: 2021年08月14日
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第22回【お題:映画/肝試し】