あれから三日ほどが経った、ある日。
その日もお姉ちゃん達と楽しく遊んで、日が暮れたから帰ろうと僕は山道を歩いていた。
そうして山道の入り口まで来た時、ブーン、というよく聞いた音がすると思ったらバイクに乗ったホイルジャックおじさんが僕の目の前で止まった。
「こんなところに居った!駄目だよ、ここはそう近づいちゃならん山やからね」
たしなめるように言うホイルジャックおじさんに、僕はごめんなさい、と頭を下げる。
ホイルジャックおじさんはそんな僕にええよええよ今度から気をつけてね、と言ってヘルメットを渡してくれて、ぽんぽんと自分が座っているところの後ろを叩く。
送っていってくれるみたいだ。
僕はヘルメットを被ると、よいしょ、と言いながらホイルジャックおじさんの後ろに座る。
と、その時だった。
──チリン、チリン。
シャン、シャン。
ガラン、ガランガラガラガラチリチリシャンシャンシャンヂリヂリヂリガンガンガンガラン!!
まるで夜に鳴く虫のような、あるいは夏の昼真っ盛りに鳴く蝉のような。
そんな勢いで、辺りの林の中から一斉に鈴の音が聞こえ始めた。
いきなり鳴り始めたそんな騒がしい音に、僕はひっと息を呑んでホイルジャックおじさんの背中にしがみつく。
でもそれからすぐに僕は気づいた。
よくよく見れば、辺りの木の幹には大きいのから小さいのまで、様々な大きさの鈴がぐるぐるとくくり付けてあるのだ。
(何だ、あれが鳴っただけか)
ほっと息を吐く。
怖がって損した、とほんの少し自分の臆病さに腹を立てる。
そんな僕が事のおかしさに気づくのは、そのままふと目の前のホイルジャックおじさんの顔に目をやった時だった。
「…………嘘やろ」
ホイルジャックおじさんは真ん丸に目を見開いて、山道の奥をじっと見つめている。
それと同時に、過ぎていったはずの恐怖がまたぞわ!と背中を走り抜けた。
だって、何故なら──。
(……鈴、風もないのに何であんなに鳴ったの?)
全てを紐で結び合わされているわけでもない、そもそもよく目を凝らさないと分からないくらいに錆びて括り付けてある紐も真っ黒になるくらい古びてそう簡単には動かないだろうに、どうして鈴が一斉に鳴り始めたのか。
そのことに気がついてざあっと顔が青ざめそうになった時、ホイルジャックおじさんが鋭く叫ぶ。
「掴まっとってなぁ!!」
言うが早いか、ホイルジャックおじさんは一気にバイクを急発進させた。
ぐんっと体が後ろに倒れそうになり、慌ててホイルジャックおじさんの服を掴む。
そうして周りの風景があっという間に流れていく中、僕の視界を一瞬何かが掠める。
僕はそれを見た瞬間、あ、と小さな声を上げていた。
「お兄ちゃんだ」
山道の奥、遠くに小さくあった人影を見てそう言えば、ホイルジャックおじさんから「見ちゃならん!!」と声が飛ぶ。
その剣幕に僕は黙り込み、ただ猛スピードで家に連れ帰られることしかできなかった。
家の近くについた僕は、そのままホイルジャックおじさんに抱き抱えられるようにして三軒隣のアイアンハイドおじさんのところに連れてこられた。
「おいどうしたホイルジャック、そんな慌てて」
「慌てても何も、この子が魅入られたんよ!!」
言うとる場合か、ともはや怒鳴りつけるような勢いでアイアンハイドおじさんに言葉を返せば、アイアンハイドおじさんもざあっと顔色を変えてズボンのポケットから携帯を引っ張り出す。
「ラチェット!!違う飯の話じゃない!!魅入られた奴が出た!!そうだ、声掛けられる奴全員声掛けて集めてくれ!!」
普段とはまるで違う剣幕のアイアンハイドおじさん、そして僕をアイアンハイドおじさんの家の仏間の真ん中に座らせて扉や窓を片っ端から閉めているホイルジャックおじさんを見て、どうしようもない不安がぐるぐると胸の中に湧いてくる。
そんな僕を置き去りにするように、アイアンハイドおじさんの家には続々と集落の皆が集まってきた。
ラチェットおじさんも、ハウンドお兄ちゃんも、プロールおじさんも、ジャズお兄さんも、クリフジャンパーくんも。
皆が集まってきて、僕に大丈夫だからなと声を掛けながら仏間に集まり、ある人は廊下に出てずっと怖い顔をしている。
僕は遂に怖くなって、そっと隣に座っていたクリフジャンパーくんに耳打ちをした。
「ね、何でこれこんなことになってるの……?」
何も分からない、どうしてこうなっているんだろうと隣りにいたクリフジャンパーくんに打ち明ければ、クリフジャンパーくんは僕の頭をくしゃくしゃと撫でてきた。
「お前はな、魅入られちゃったんだ。それでこのままだとよくないことが起きるから、今こうやって皆を集めて、どうするかを話し合うことにしたんだ」
「魅入、られ……?」
聞き馴染みのない言葉が上げられ、僕は首を傾げる。
「魅入られると何か悪いことがあるの……?そもそも、魅入られるって、誰に……?」
クリフジャンパーくんの目を見ながら、僕はそう口に出す。
分からない、何も分からないことだらけだ。
「大丈夫だ。この家の扉も窓も全部閉めてあるから変なものは入ってこられないし、入ろうとしても基本的に中から誰かが招かないと入ってこれねえから……」
と。
クリフジャンパーくんの声を遮るように、とんとん、と玄関の扉が叩かれる。
「あ?誰だ!オプティマスか!?」
「いやオプティマスはあと三十分くらいかかるって言ってたぞ。プロールんとこの誰かじゃないのか」
アイアンハイドおじさんとラチェットおじさんがそう言う中、近くに立っていたジャズおじさんがからりと戸を開ける。
すると──。
「……お迎えに、上がりまして」
──低く、静かな声がした。
とてもとても、僕にとっては聞き馴染みのある声。
その声に引っ張られるように、僕が仏間から駆け出して玄関の方を覗けば、そこには。
「お兄、ちゃん」
深い深い藍色の、まるで忍者のような格好をしたお兄ちゃんが、玄関の外で胡座をかき、膝のすぐ前に拳をついて深々と頭を下げていた。
「お兄ちゃ、」
「ダメだ入ってろ!!」
クリフジャンパーくんが怒ったように手を引いて仏間に僕を戻そうとする。
でも僕はお兄ちゃんがどうしてそこにいるのか分からなくて、何が起きているのか聞きたくて、お兄ちゃんの元へ駆け寄ろうとした。
しかし。
クリフジャンパーくんに加えてアイアンハイドおじさんやプロールおじさんまでもが「来ちゃいけない」と口々に言いながら僕を仏間へ戻そうとする。
すると。
「坊!!」
かん、と声が響いた。
「聞いているだろう、呼べ!!」
よく響くお兄ちゃんのその声に誘われるように、ふと、僕の頭の中にちょっと前のやり取りが浮かんでくる。
“いいか、坊”
“もしかしたらこの先、何か困ったことが起こって私達の力が必要になるかもしれない”
“そんな時にいつでも私達の力を借りられる、とっておきのおまじないを教えてあげよう”
“なに、難しいことじゃないさ。方法はとても簡単だ──”
“──助けてほしい時、私達の名前を。そして、ただ、「来てくれ」と叫べばいい”
まるで雷が閃くように頭の中に蘇ったその言葉を、僕はほんの少し頭の中で繰り返す。
そして仏間に押し込まれる寸前、僕はぐっとお腹に力を籠めて、喉が痛くなるくらいの声で叫んだ。
「──ドロップキック!!こっちに来て!!」
瞬間。
“……ふ、はは、ふはははははッ!!”
どこからともなく、大きな大きな笑い声が響いた。
それがお姉ちゃんの声だと気づく前に、お兄ちゃん──ドロップキックお兄ちゃんがガッ!!と顔を振り上げた。
真っ赤な目がそれ自体が光っているんじゃないかと思うくらいにギラギラと照り、ジャズお兄さんがまずい、と声を上げる。
でもそう言ったのも束の間、まるでお兄ちゃんが青色の風になったような勢いで閉められかけた玄関の扉を吹き飛ばし、ダン!!と踏み込んで僕の前に躍り出る。
そして、まるで人形を抱くかのように、ひょいと優しく僕をお姫様抱っこの要領で抱え上げた。
「わっ……!」
「よう、坊。迎えに来たぞ」
嬉しそうな嬉しそうな声。
同時にドロップキックお兄ちゃんは軽やかに床を蹴ると、そのまま外へと走り出した。
みるみるうちに遠ざかるアイアンハイドおじさんの家を尻目に、僕はドロップキックお兄ちゃんの横顔を見る。
普通では考えられないような速さで走るお兄ちゃん。
同時にクリフジャンパーくんの言っていた言葉が、ぼんやり頭の中に浮かぶ。
“この家の扉も窓も全部閉めてあるから変なものは入ってこられないし、入ろうとしても基本的に中から誰かが招かないと入ってこれねえから……”
──僕の頭の中に、一つの答えが浮かんだ。
今までよく分からなかったことも、まとめてするりとあぁ、そうだったのかと頷いてしまえるような、答えが。
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アイザリス
一時間くらい経ったらたぶん閉めますー
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アイザリス
ちょいと手洗いに行ってくるので暫く動きません(U'ω')
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アイザリス
戻りました(U'ω')
88:33
アイザリス
一時間で止めると言いながら長々失礼いたしました!今回はここまでにしたいと思います!
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コン夏シャドロ03
初公開日: 2021年08月05日
最終更新日: 2021年08月06日
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