後見人の五条の横暴は今に始まったことではないが、今回のは流石に業腹である。恵は玄関に立つ背の高い男を睨みつけながら、どのようにして追い返そうかと思案していたが、男は恵の様子など気にせず、勝手に扉を強引に開けて入ってきた。
「おい! 警察呼ぶぞ」
「構わん。どうせ俺ではなく五条悟が捕まるだけだ」
それはそれで困る、しかし、一度くらい警察に怒られたほうがいいのではなかろうか。勝手に未成年被後見人の個人情報をAIに分析させ、その結果としてアンドロイドを作成し、それを送り付けたというのだから、指導されるべきではないか。
「ともかく、一日だけでも置け。俺の性能についてはそれで分かる」
「そういうお節介はいらねえっつってんだろ、五条さんの所に戻れ」
宿儺は恵の家を知っているかのようにリビングを通り抜けて、冷蔵庫を開けて中を見ている。しかし5秒もしない内に中にあったいくつかを手にとって、茶を用意し始めた。
「いや、マジで、そういうのはいいから。帰れ」
「俺はお前専用に作られた。お前に使われなければ意味がない」
湯を沸かし、茶請けまで用意し始めたので、恵はため息をつくしかなかった。
五条とはろくでなしの父親が死んで以来世話になっている後見人だ。彼は大層な金持ちで、様々なものに出資をするのが趣味であり、その内の一つがAIだった。ある学者が唱えたシンギュラリティを迎え、人工知能という言葉により迫った性能を持つようになったAIだが、高性能になったとはいえ、人間そのものを作り出すのは倫理的な問題を含むため、それ以上の発展はかなり慎重になっていると聞いていた。五条は倫理がないので、そこに一歩踏み込んでしまったらしく、目の前の人間の男性そっくりのアンドロイドを作り出したらしい。
簡単な経緯を語った後、男は「お前の家に置け」と宣った。恵は断固拒否である。
「大体、お前みたいな図体のでかい男がいたら只でさえ狭い家が更に狭くなる。絶対お断りだ」
「ほう? お前好みに製造したつもりだったが、気に入らなかったか」
男は恵を見て笑っている。どきりとした。
「気色悪い、俺のデータを分析して判断した結果がそれか?」
「そうだな、ある程度の人間を分析した結果とお前のデータを比較して、判断した結果が今の俺だ」
「学習データが足りないんじゃないか。結果が間違っている」
「お前は本心を語らない、厄介な男だ。おかげで俺がある程度の精度に達成するまで時間がかかった」
男は食卓につき、恵にだけ茶を出した。男の分はないらしい。
「俺は人間ではない。飲み食いはせん。食費は掛からんぞ」
「そっちは気にしてねえよ」
恵にとって丁度いい温度、味の茶を飲みながら、男を見る。機械のくせに人間の言葉に従わない。いや、この男は恵のために作られたからと言って、恵に絶対服従というわけではないのだろう。このAIを作った人間が管理者なのであって、恵は単なるユーザーだ。それでも普通はユーザーの言葉にある程度従うべきではなかろうか、と腹を立てつつ、茶を飲み干した。茶に罪はない。
「伏黒恵、俺を置いたことを後悔させん」
男をじっと見つめる。恵のために作られた、人間そっくりの倫理観すれすれの存在。何故五条は批判されかねないものを作り出したのだ。いや、その理由はなんとなく察せられる。恵が悪い、と分かっていつつも、やはり腹立たしい。小学生の時から知っているからか、時々妙なお節介を焼くのがあの男の数多い問題点の一つだ。今回のこれについても、同じ結果に終わるだろうに、どうして恵に構うのだろう。
恵はため息を付いて、「メンテナンスなんて知らねえからな」と吐き捨て、自室に戻って鍵をかけた。