茹だるような暑さの日、一回だけ劉都と駅前パトロールをしたことがある。俺は滝のように汗をかき、朦朧とする意識の中鮮明に覚えているのは劉都が着ていた半袖のシャツから伸びた二の腕が真っ赤に焼け、痛々しかったこと。確か日焼けすると黒くならず赤くなるだけ、物凄く痛いとぼやいていたような気がする。その光景を見た時俺は何を口走ったのか今となっては覚えていない。ただ、喉が焼けつくような焦燥感に襲われたのだけは間違い無かった。
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市販の日焼け止めを一筋腕に垂らし、満遍なく塗り込んでいく。この綺麗な肌に朱が走るのはお互いが熱を分け合っている時だけで良い。そう願いながら塗っていると話したらどんな顔をするのだろうか。邪な思いをひた隠しにしながら作業を進めていく。二の腕を両方とも塗り終わり、次は顔を塗ろうとしたその時劉都が口を開いた。
「顔くらい自分でやる」
ぶっきらぼうにそう言い放つと俺から容器を奪い取った。からころと二、三回軽く容器を振って掌に液体を適量流す。そういえば俺が日焼け止めを塗るようになってからは手袋を事前に外すようになったなと考えていると視界が急に暗くなった。勢いよく顔を劉都の方に向けさせられ、いいからこちらを見ていろと言わんばかりの表情を隠そうともしない。それが何だかとてもいじらしく感じてしまい、大人しく言うことを聞いてやることにした。こういうところは年相応で可愛い。
とは言っても他にすることもないのでじっと観察することにした。そういえば、今気付いたが首筋や頬、おでこの隅まできちんと塗り込められていく白色の液体は現代の技術の賜物かほぼ白浮きすることはない。もし顔に白い筋なんて残ろうものなら「いけない」ことを思い出してしまいそうになるから本当に良かった。そんな下世話なことを考えてしまい悶々とする俺のことなどいざ知らず、劉都は暫く目を瞑って作業していたが顔全体に日焼け止めを塗り終わると目を開けた。どことなく満足そうな面持ちでこちらを見つめてくる。こら、流し目はやめろ。
「やらしいかお」
何考えてたんだ、と口角を上げ甘い声で尋ねてくるものだから参ってしまう。何も反論できない哀れな俺はせめて年上をからかうなと注意しようとした。しかし、それは叶わず劉都が俺の顔に手を添えてくる。手に残ってぬるくなった日焼け止めの感触が生々しい。なぁ、と声を一段と甘くして囁く。
「今度俺にも部長の腕に日焼け止め塗らせてよ」
ちゃんと塗るからいいだろ、部長も日焼けしたら大変だしと取ってつけたような言い訳は耳にそれほど入ってこなかった。それよりも俺はもたげた欲望が叶えられる可能性に期待してしまう。俺の背中を押すように劉都は顔に添えられた手を首筋を伝い、鎖骨辺りまで撫で下ろした。これは、もしかして。唾を飲み込んだ後だからか、それとも緊張からか声が震えた。
「俺…誘われてたりする?」
「嘘だろ 今頃気付いたのかよ」
物欲しそうな瞳は影もなく、呆れと拗ねが混じったような声で詰られた。つい先程まであんなに婀娜やかだったのに急に子供らしく振舞うものだから、これは魔性の男に捕まってしまったなと思わずにはいられなかった。
「で 返事は」
これまた焦ったそうに話すものだから黙って肩を掴み抱きしめてやった。頸からは日焼け止め特有の化学薬品の匂いとほのかにシトラスの香りがする。先の反動で転がり落ちた日焼け止めにもう用はなかった。
交錯するセミの声、朝顔