一番最初は一護VS白夜
ゴッ!!
ギンッ!!
ドゴッ!!
音が、鳴り響く。
それは、時に打撃、斬撃、衝撃、圧撃と、音を変えて品を変える。
中心にいるのは、白と黒。
死神を象徴する死覇装を纏っているのが人間、黒崎一護。
死神を象徴する隊長羽織を羽織っているのが死神、朽木白哉。
その二人が剣戟を、打撃を繰り返している。
その衝突は周囲の地形を小さくだが確実に変えていく。
実力は拮抗。
お互いに決め手が無いようにも見える。
再度の衝突。
そして、二人の姿は消える。
現れたのは、二人の間合いの外。
「瞬歩までは完全に取得したというわけか……だが「やっぱり悠長だな、あんた」」
朽木白哉は、分析していた。
拮抗していたのは、手を抜いていたから。
相手を理解して、対策して、倒す。
まるで自然な流れを行う。
だが、それに待ったを掛けるのは、黒崎一護。
「呑気に俺の力分析してるみてぇだけど、いいのかよそれで?」
黒崎一護の中にあるのは、一つの信念。
死神ってもの全てを、折る。
ルキアを処刑する、とかいう死神を。
それを止めない死神の兄貴を。
友達を殺しかけた、死神を。
そんなの間違ってるから、斬る。
真正面から、全部を。
「俺を斬るんじゃなかったのか?」
でも、実際に来てみて色々と考えが変わった。
自分の敵わない存在。
自分が勝てない存在。
自分が苦手なもの。
全部をするんじゃなく、できることをすべてやる。
「俺はまだケガ一つしちゃいねぇぞ!
それともあんたの力ってのは、この程度だって言いたいのか?!」
そして自分ができるのは、強いやつを一対一で叩き切ること。
そして、それは一人でできない。
一対一の状態を作って貰う必要がある。
そのために、一護は力を借りた。
「出せよ、卍解」
今だって、自分が戦っている最中、強敵を食い止めるために源氏が、夜一さんが戦ってくれている。
きっとそれがなかったら自分は複数人を相手にしなければならないことだったのだろう。
「あんた言ったな。
俺を斬って。
そして自分の手でルキアを処刑するって」
「それがなんだ」
「気に入らねぇっ!」
だからこそ、自分の感情を、考えを、全てをぶつける。
こいつを斬って、死神に知らせる。
お前らは間違っている。
だから、
「俺はてめえを倒すぜ。
俺の力全部懸けて、
てめーの力の全てを、一つ残らず叩き潰してやる」
声高々に。
「てめーの手で、てめーの妹を処刑するだと?
ふざけんじゃねぇ」
意気揚々と。
「てめーの理屈も
てめーの都合も
どっちも知ったこっちゃねぇ」
己を
「ただ、ルキアの前で二度とそんな口をきかせねぇ」
叩きつける。
「ここまで丁寧に用意してやったんだ。
出せよ卍解 叩き潰してやる」
斬月を突きつける。
これくらいしないときっと、伝わらない。
かっこ悪いと思うものか。
伝わればいいのだ。
こっ恥ずかしくて結構。
これで相手が乗ってくれるなら、それでいい。
「そんでルキアの前で謝ってもらって……ついでに源氏にも謝ってもらう」
「……安い挑発だ、小僧」
空気が変わる。
しかし、一護の望んでいたものではなかった。
この空気は、
「だが貴様がなんと喚こうが、私の心は変わりはせぬ。
ルキアも、旅禍も、貴様の運命もな」
鋒は天を向く。
まるで天を衝く様に。
「卍解だと? 図に乗るな小僧。
貴様如きが私の卍解を受けて死ぬなど千年早い」
その刀は、
「散れ『千本桜』」
散った。
桜の花びらは、はらりはらりと一護に近づく。
まるで春日和のような、美しい光景を目の前にして、一護は自身の内心に恐怖があることに気づいた。
「ふぅ」
だから息を吐いて、
「ほっ」
肩に担いだ刀を、振り下ろした。
振り下ろされた斬月の鋒は、強い光を纏って白哉に迫る。
轟音。
白哉は動かない。
動く必要が無いと判断したから。
光は通り過ぎ、風が吹き荒れる。
光の勢いから生まれた突風が、双極の丘に吹き荒れる。
晴れる大地。
あるのは、一閃。
谷を生まんと真っ直ぐに一護から白哉まで伸びるそれは、白哉の横を通り過ぎる。
「……今の光はなんだ。
貴様の斬魄刀の能力か?
黒崎一護」
白哉の言葉とともに、地面に白哉の手袋が落ちる。
破れたそれは、威力を証明するまではいかないものの、喰らえば無傷では済まないことだと言う証明になる。
「あぁ。
斬撃の瞬間に、俺の霊圧を喰って、刃先から超高密度の霊圧を放出することで、斬撃そのものを巨大化して飛ばす。
そいつが斬月の能力」
一護の語る能力は、まるで誰かからの又聞きのような、そんな語り草。
「狙って打てたことは一度もなかった。
今日まで俺は、自分がどうやってこいつを撃っているのかさえ解ってなかったんだ」
それこそ、できた瞬間はいくつか。
自分の意識のしてないうちに。
斬月が力を貸してくれた。
「丈さんが言ってた。
『一人で闘うな。儂らと違って死神は2つの存在で戦っている。ならば人間に勝てて当然だ』
……ふざけんなって話だけど、実際そうだった。
俺は生きるのに夢中で、斬月の言葉に耳を傾けてなかった」
一護は、更木剣八との戦いで、知った。
斬月がどれだけ自分に語りかけていたのか。
自分の身を案じて声を上げていたのかを。
「斬月と戦いたい、一緒に強くなりたいと思っても、斬月のことを知ってるのは、斬月だけだったんだ」
前は、勝ちたいから、願掛け代わりに名前を借りたが、今は違う。
「『月牙天衝』」
この名前で、
この技で、
「もう一度言うぜ、朽木白哉。
卍解して俺と戦え!!
俺は絶対に、てめえを倒す!!」
己の信念を通す。
「天を衝く、か。
大逸れた名だ」
朽木白哉は、目の前の敵に対して、知らない感情を抱いていた。
それを言語化するなら、喜びの一種と言えるのだろうが、それを喜びと認めたくなかった。
自分がそんな思いを抱いているということを理解したくなかったし、納得したくなかった。
「よかろう。
それほど強く望むのなら、私の卍解その目に強く刻むが良い」
だからこそ、挑発に乗る。
それで目の前の小僧の幻想が消え去るのであれば、悉くを、打ち砕く。
刀を手放す。
地に落ちる刀は、金音を鳴らすことなく、地に吸い込まれる。
「案ずるな、後悔などさせぬ。
その前に貴様は私の前から、塵となって消え失せる」
名を呼ぶ。
それは、斬魄刀の真の名前。
真の意味で斬魄刀と対話できたもののみが知ることができる名前。
「卍解「千本桜景」」
朽木白哉の周囲に、地面から刀が出現する。
それは人の身を越えるほどの刀。
まるで朽木白哉の呼応に喜び勇むようなその姿に、一護は警戒心をあげる。
そして、変化する。
その巨大な刀すべては、花弁へと変わった。
一つ一つが、美しい桜の花弁へと。
そしてそれは、一護の警戒心をより一層、
ダンッ
引き上げた。
桜の花弁はその膨大な数で、文字通りの桜吹雪となり、一護に迫る。
刀を握りしめ、相対した一護は横に大きく避ける。
しかしそれは膨大な桜を前にして、悪手とも言える。
膨大な桜はその密度を下げ、横に広がる。
まるで逃走を許さないとばかりに迫る桜の花弁に、
「はぁ!」
月牙天衝を放つ。
しかしそれは上段の月牙天衝ではなく、横方向の月牙天衝。
膨大なエネルギーを前にして、桜の花弁は月牙天衝を避けていく。
それは朽木白哉の元に迫るが、
「甘い」
月牙天衝を目の前にして、白哉は千本桜を盾として回避する。
そして次の瞬間、
「っ?!」
月牙天衝の背後から、黒崎一護が出現した。
文字通り、追撃。
とっさに出てきた朽木白哉は、その姿に驚くも、盾として使用した千本桜をそのまま向かわせる。
攻撃にも防御にも転用することのできる千本桜。
つまりそれは、一護の目の前にある盾は同時に、一護を襲う刃ともなる。
それを目の前にして、一護は、
「ここだぁ!」
瞬歩。
月牙天衝、一護の速度も、瞬歩に及ばない鈍重さ。
その直後に、最大速度の瞬歩。
緩急、死角、油断。
それらすべてを突いた戦法。
並みの死神であれば死んでいる。
そう、並みの死神であれば、
「そうか」
格が、違う。
背後を目視せずに返事をした朽木白哉に、千本桜は応える。
盾となったはずの千本桜は朽木白哉の背後に周り、一護に襲いかかる。
完全な死角、油断を突いたはずの攻撃が、見切られていた。
しかし、それを察知した一護の驚異的な反射神経により、斬月を盾にすることによって、直撃は回避される。
「まだだ」
白哉の声。
それと同時に、一護のもとへ向かっていたであろう桜の花弁が、天空から、背後から、側面から一護に襲いかかる。
白哉の背後に迫る一護は、千本桜によって飲み込まれた。
「千本桜の真髄は、数億に及ぶ刃による死角皆無の完全なる全方位攻撃だ。
貴様の斬魄刀の能力は高い。
月牙天衝を囮とし、背後に回るという戦法も良い」
白哉は一護から距離を取る。
まるで、自分は一護よりも先にいっているということを示唆するかのように。
「だが、そんなものに頼らなければならぬ時点で、貴様は私より劣っていると認めているようなものだ。
そんなものでどうやって私を打ち砕くという」
白哉は、幻滅した。
策を練ることも、考えて闘うことも、十分称賛に値する。
それこそ、卍解状態でなければ反応できなかったかもしれない。
しかし、朽木白哉は幻滅した。
「くっそ……もうちょい行けると思ったんだけどな…………」
言葉をかけられた一護は、土煙の中から姿を表す。
その姿は血まみれ。
幾億もの刃で切り裂かれたのであろう傷跡が痛々しい。
四肢を地面につく姿は、まさに敗北の姿。
だが、黒崎一護の纏う空気に、敗北の風は吹いていない。
「やっぱりムリだったか……
……そりゃ、そうだよな……」
いや、この程度の傷で敗北と言うには、敗北というのは一護にとって重いものになった。
「こっちだけ始解のままで、卍解に勝とうなんてのが舐めた話だ……」
彼を教えた師曰く、敗北は死と同義。
四肢がもげ、命散ろうとも、心が敗北していなければ、それは負けとは言わない。
「言葉には気を付けろ、小僧。
まるで貴様が卍解に至っているとでも言っているように聞こえる」
共に教わった弟子曰く、死ねば須らく敗北。
命が散れば誰が勝利を、敗北を決めるのだ。
生きているからこそ、勝敗は決するのだ。
「あぁ」
そんな二人に囲まれて、一護は自身の結論はでなかった。
「そう言ってんだよ、朽木白哉!」
だから、そんな自分を、探してる。