ファイナリアクロニクル ミラーリングデイズ
とりあえず書いてみた初稿
一話 先輩ジャーナリストの歓迎レポート
3-1
ーーーメモーーー
展開・構成
3ー1
夜道を歩くエルとエリシオ ←ほろよい、楽しげ
エルの婚約破棄話を打ちあける ←おさらい、関係性のチェック
穏やかな会話 ←さりげなく設定を語る
エリシオが尾行してくる人に気づく ←次回へのひき
3-2
逃げる ←いきなり逃げてる
広めの公園にたどり着く ←とりあえず開けた場所に出た
エリシオが時間稼ぎをする ←男の子的な見栄をはりたい
エルが助けを求めにその場を離れる ←エルの感傷
エルは高級馬車をみつけ、本名で助けを求める ←ポイント
助けてくれたのはミストとフィン ←どこまで描写いれるか
圧倒的な強さで暴漢を片付ける ←お約束、ロイヤルフレアの初出
3-3
会社に向かう ←おさらい
今起きたことをすべて記事にしようと徹夜作業を始める ←共同作業的な
事実を書いてもうそっぽくなってしまう ←難しい
ミストについては上からの圧力でなかったことになる ←ポイント
事実を伝えたいのに、伝えられない悔しさ ←まとめ
新聞は売れた ←結果報告と次回へのひき
ーーーーーー
3-1
「ふたりきりの時間(仮」
 夜道を二人で並んで歩くのは何年振りだろうか。
 想定よりも飲みすぎて、頬が火照っていた。
 見上げるほどの高身長の青年が前を歩く。
 シャツの裾をつかんでみたり、からかってみたい気がふつふつとわいてくる。
 見上げてエリシオの顔を拝んで、気が変わった。
 そういえば話したいことがあったのだったと。
「さっきのオリバーの話」
 エルから切り出した。
 酒場でオリバーが言いかけた話だ。
「なんでエルって呼ばなかったか、わかる?」
 見ず知らずの人ではない。学生時代から絡んできている。
 フローラという名前が禁句なのは百も承知なはずだ。
 エリシオはわざとらしく首を振る。
 この男もわからないはずがない。
「うちの家の話をしたかったからでしょ。もう、わかっているくせにとぼけちゃって」
 結局、その話をしないうちに帰ってしまったが。
 さて、どこから話そうか、
 一から順に説明するのも億劫だが、整理するためにはそれもよいかもしれない。
 前を向くためにも必要だ。
「エリシオがうちに来た頃にわたし、婚約したの」
 前にもこの話をしたことあると思うけど、と前置きしながら。
「エルの場合、家柄があるからそういうものだと思ってた」
「うん。うちはこれでも領地もちの貴族さまだからね。どうしても将来の事は家の事情になっちゃう」
 といいつつ、汗水たらして現場取材する一介の労働者記者として毎日を過ごすエル。
 でもそれは、エル=プリメロ記者だからだ。
 フローラ=ブランドフォードとは本来は生き方が違った。
 エリシオは言わなくてもわかっているのか、特に矛盾点を指摘してこない。
「もしかしてその婚約話が?」
「うん……破談になった」
 なるべく、冷静に務めた。
「オリバーが皇太子殿下に口利きして、相手の家が出世したの。それでもっと身分の上の人と一緒になるみたい」
 ふむふむとエリシオは相槌をうっているのが見なくてもわかる。
「わざとじゃないと思うけど」
 故意にオリバーが婚約を潰す、という解釈にへえとエルは頷いた。
 エリシオらしい陰謀論だ。
 ただそんな簡単に事が運ぶほど、世界は幼稚じゃない。
「別にオリバーが憎いわけじゃないよ。そこまで好きな人じゃなかったし。でも、仕事を続けたいからって言って、わがままで引き延ばしたのはわたしだし。だけど、やっぱりショックだわ」
 すんなりと心の内が言葉になる。
「僕はエルの実家であるブランドフォード家で住んでいても、そんな話聞こえてこなかったけど」
「だって、わたしだってお父様から聞いただけだもの。お別れの挨拶なんてないし」
 一言もなく、立ち去ったのは記憶に新しい。
 だから、あの世界は嫌い。
 勝手に決めて、わたしは結果しか教えてもらえない。
 嘘や見栄ばっかりで、本当に嫌。
 だから、わたしはエル=プリメロという名前で生きていく。
 フローラ=ブランドフォードはもういないんだと。
 エルは酔った勢いで高らかに宣言する。
「居候のエリシオ君には関係ない話だけどね」
 挑発するように。でも、当のエリシオは楽しそうに笑ってかわす。
 少しもムキにならないは不満とばかりにエルは唇をとがらす。
「実は僕は滅亡した国の王子かなにかで、おじさん的にもうところがあって……みたいな話だと思っている」
 エリシオの出自はちょっと厄介だ。
「国が滅亡したときにお父様がエリシオを拾ったってのはその通りだけど」
 エリシオの故郷は帝国に滅ぼされた国の一つだ。国民が金の髪を持つと言われており、当然のごとく、エリシオも金髪だった。
「そんなはずないでしょ、さすがにそれは妄想」
 子どものころは煽り文句にエリシオ王子~と口にしたもんだが、エルは記憶の中にとどめておくことにした。
 今ではエルの父の旧知の知り合いという第三帝国新聞社を頼って職にありついているが、未だにブランドフォード家の邸宅で暮らすエリシオとちいさなアパートを借りて一人暮らしを始めていたエルとすでに正反対の道を歩みだしていた。
「女だてら独り暮らしして、競馬記事かいているようなのは名家の方々からみたらとんでもないことだろうし」
 あの人、そんなわたしを認めてくれた……ってずっと思ってたよ。
「僕はずっと横で見てたけどね」
 あはは、とエリシオは軽く言ってのける。
 暗がりで表情を読み取られないのが幸いかもしれない。
 そうなのだ。エリシオは幼い時から、ずっと横で見てくれていたのだ。どんな時も。
 当たり前のことに気づかされて、思わず肩が震えて、目頭が熱くなる。
「たまには家、帰ろうかな」
 エリシオと同じ道を歩んでいるのがなんだか気持ちが楽だった。
「おじさん、喜ぶよ」
「話はしたくないけどね」
「ははは……ん?」
 急にエリシオが険しい顔になる。珍しい。
 まったく、そういう顔は似合わない。
「エル、止まって!」
 急にエリシオに強い力で肩を掴まれ、よろけるほどだ。
「なに、急に」
 エリシオは口元に人差し指をあてる。
 静かにしろのサインだが……。まったく意図が読めない。
「……誰かに尾行されている気がする」
「誰もいないと思うけど」
 いい加減、面倒くさくなって、ジト目でエリシオの表情を伺うと思いのほか、険しい。
「エルは僕の話を信じてくれていると思っている」
 真面目に言われても困るが、そこまで言うならとエルは首を縦に振る。
「合図したら、あっち向かって走ろう」
 エリシオの指さす方向に眼だけで追う。
 状況が腑に落ちないが、エルはちいさく頷く。
 たとえ妄想でも、今はそれに付き合ってあげてもいいかもしれない。
 なんでもありませんでしたーというなら、それはそれで笑いあってしまえばいい。
 エリシオのせーのっというか、控えめな掛け声で二人は駆けだした。
 路地の石階段を駆け上がる。
 石畳を蹴り上げる靴の音と荒っぽい息遣いが夜の闇に響いた。
 街灯が点々と灯りをともしている。背の高い若い男と小柄な女性のシルエットが影となって落ちた。
 そのしばらくあと、鳥打帽にジャケット姿の男のシルエットが路地に落ちた。二人、三人と複数の男だ。
 同じように階段を駆け上がってきており、石畳を叩く靴音がこだました。
 エルはちらりと後ろを振り向く。エリシオの言った通り、男たちが追っかけてくる。本気で走っているから、かなり強い意志をもっているのがよくわかる。エルの心臓が急に高鳴った。これが身の危険か、内臓と心が体を飛び出しそうだ。
「こっちだ」
 エリシオが長い足を活かして先行するが、エルは息を切らしてついていくのが精いっぱい。
 でも、さすがに止まることは怖くて無理だった。
「いたぞ」
 ついに声まで聞こえてきた。
 その声に恐怖が増幅され、足元の植木鉢に気づかず一緒になってひっくり返る。
「っ、いった~い!」
 エリシオはすぐに引き返し、エルの手を引き、立ち上がらせる。
 その手を離さないとばかりにエリシオは手首をぎゅっと握っていた。少し痛かったが、そんなことを言ってる場合じゃない。足をもつらせないように全力でエリシオについていく。体力は負けるつもりはない。
 路地裏からやっとの思いで大通りに出て、噴水広場までたどりついた。
 昼間は公園の中心にある池の噴水が訪れるものを癒すだろうが、今は噴水は止まっており、わずかな風に池の水面が揺れていた。これでも有名な噴水らしい。エルは腰の高さ整地された石に腰かけて、はあはあと息を整えるが、後からその石が噴水を説明する碑であることに気づき、慌てて降りた。自身の行儀の良さを自嘲した。
 エリシオはようやく手を放し、ふたりで肩で息をした。
「……久しぶりに走った。足、痛いよ」
 乾いた口元で唾を飲みこみ、軽口を叩く。
「わからない」
 エリシオの声が低かった、まだ警戒しているのだろう。
「通り魔ではないと思うけど」
 暗がりで目が合い、思わずそらしてしまった。
「……ここからだと、会社の方が近いからいったん会社戻ろうか」
 エリシオの真面目な提案に汗をぬぐいながら、うんうんとうなずいた。
 あの会社は仕事柄、夜中でも平気で残っている人がいる。逃げ込むには間違いない場所だ。
 目抜き通りを経て、突き当たるこの噴水広場を右手に大手新聞社、左手に官庁街。
 そう、この噴水広場は働く人の憩いの場なのだ。小さな鐘楼がとりつけられ、水の力だけで全自動機械式の噴水が備わっている。仕組みは知らない。オンオフは係員によるものとは聞いている。
 この噴水は夜は止まっているはずだった。
 しかし、その止まっている噴水から、勢いよく水が噴き出した。
 周囲の街灯も順々に灯りがともっていく。
 まるでここにいる二人を演出するように。
「止め忘れたのかな」
 エルは呑気に感想を述べてしまった。
「いや、さっきは止まっていたから、きっと意味がある。誰かに見られているかも」
 エリシオがまた険しい顔に戻る。
 どうやら仕込みではないようだ。
 では、逆に今度は危険が身に迫っている、とも思えてしまい、身震いする。
「失敗したかな」
 エリシオの零した言葉を証明するように広場を囲む木々の裏からわらわらと男たちが姿を現した。
 噴水を背中にするのをやめて、石畳の床をそろりそろりと目抜き通りの方へ向かった。
 しかし、男たちは一歩ずつ間合いを詰めてくる。
 彼らの右手から月明かりが反射した。刃物だ。
 背中に冷や汗がどっと噴き出て、生唾を飲み込み、エリシオの腕をつかんでしまった。
「エル、僕が時間を稼ぐ。会社に向かって全力で走ってくれ」
 なぜ会社に?
 いや、簡単だった。
 助けを求めろということだ。
「うん、わかった」
 返事をするしかなかった。上ずった声が自身の緊張を如実に表していた。
「一人で逃げろっていうわけじゃないならそうする」
 緊張の汗が手のひらに滲む。エリシオの小刻みに震える手を軽く握る。
 それで、決意を固める。
「すぐ、帰ってくるから」
 エリシオだって緊張している。
 エルはエリシオをいつものように見上げた。
 月明かりの逆光であまりよく見えなかった。
 妙に悲しい気持ちになってくるが、そんなこと感傷に浸っている間にエリシオはエルの前に出てしまった。
 盾のつもりで、時間を稼ぐということだ。
 彼は声を張って叫ぶ。
「僕は君たちを知っている、そして目的も」
 ぶっ、とエルは吹き出しそうになった。
 どう見ても怪しい男たちを前にどうして演説が始まるの!! と思わず可笑しくて笑いそうになったが口元を抑えて我慢した。
 笑っている場合ではない。
「………見たまえ、僕たちの見方があちらからくるぞ」
 宮殿の方へ指をさす。
 そこには宵闇の虚空が広がっていた。
 空いている逆の手でエリシオはエルの腰を叩いた。
 行け、とばかりに。
 馬じゃないだから、と反論したいところだが、その指示に従って、エルは駆けだした。
 後ろは振り向かず。
 エリシオが何やら叫んでいるが、不思議と相手の男たちは耳を貸しているようだ。延々とエリシオのよくわからない言説が聞こえてくる。
 その間、エルは全力で走った。骨が折れても、腱が切れても、筋肉痛になっても、今は関係ない。
 自社ビルが見えてきて、灯りがついているのも確認できた。
 やった、待っててエリシオ。
 その時だった。
 暗がりの公道を走っていた馬車が急に曲がってきた。
 競走馬より一回り脚の太い貨車運搬用の馬が、目の前に飛び出した若い女の姿に驚いて、前脚をかかげてたちあがってしまう。御者は慌てて手綱をさばく。急ブレーキをかけられた馬車があらぬ方向に進路を向ける。
 冷静なもう一頭の馬が持ち直して、なんとか馬車は停車する。
「あぶねえそ」
 御者の若い男が叫んだ。
「ごめんなさい!」
 エルも反射的に叫んだ。
 叫びながら、状況が変わることを瞬時に理解した。
 この馬車は!
 黒塗りで高級感あふれる車体。
 紋章は。
 エルは決意するように一呼吸して、御者を無視して、馬車の後部座席のドアを開けた。
「ご無礼を承知で申し上げます」
 暗い車内に二組の眼がエルを捉えてきた。
「助けてください、わたしはフローラ=ブランドフォード」
 ブランドフォード家のものです、襲われています!
 エルは声の限りでまくしたてる。
 一息に言い切ったあと、一瞬訪れる静寂。
 答えが返ってくるまでの恐怖の緊張。
「大丈夫よ」
 若い女の穏やかな声。
「私たちに任せて」
 暗がりの中が急に明るくなった。ろうそくの炎のような灯り……ではなくて、指先にともった炎。
 腰まで伸びた豊かな赤い髪の女が笑顔で手を差し伸べてきた。
 切れ長の目で目鼻の形、位置、それぞれがどうしてそこにそなわっているか不思議なくらい完璧な位置関係で彫像のようにバランスの整った美しいという形容詞しか似合わない女がそこにいた。
 エルの手をとって、案内して、という。
 そして、赤い髪の女の後ろには表情を変えない青い髪の若い女がいた。
「あの、女性二人とは知らず、その、相手はおっかない男たちです」
 しどろもどろになりながら、エルは入ってくる場所を間違えたとばかりに言いつくろう。
「大丈夫だって。悪い人が出たんでしょう。私たちで成敗してい見せるわ」
 どこ? 
 今度はエルは指で示す。
 御者は馬に鞭をくれてやり、現場へ急行することになった。
 
 エリシオは意外とまだ粘っていた。
 細長い影が彼の無事を知らせてくれていた。
 馬車の後部座席のドア、足をかけるステップにつま先をひっかけて、上部の飾りに手をかけて体は風をきっていた。
 乗りなよ、という助言を断り、はためく風に帽子を押さえながら、エルはしがみつくように馬車からエリシオと暴漢たちの姿を認めた。
 あれです、と大きな声で叫んだが、御者の男は親指をたてるだけ。なんだか調子のいい、軽い感じに不信感にとらわれる
 あっという間にエリシオの目の前で、男たちを横切るように止まった。派手に車輪を滑らせ、石畳から金切り音が響く。馬の荒い息、馬体からにじむ汗が湯気となっていた。
「エリシオ、無事っ」
 エルの甲高い声が響いた。すぐに駆け寄って腰を抱き留めた。
 しかし、エリシオが体幹が弱いのを忘れていた、駆け寄って体重預ければすぐによろけて、二人であたふたする。。
 そこはもうちょっとかっこつけてほしいところだ。
 緊張感が抜けたのか、エリシオはぺたんと座り込んでしまった。
 しかし、馬車から降りてきたのがエルだけでないことに気づいたのか、その姿を見るなりに、エリシオは慌てて腰をあげて姿勢を正す。
「帝国の憩いの名所が台無しね」
 高身長の赤い髪の女性が口にした。よく通る張りと艶のある声。
 刃物を持った男たちが目の前でも、ことさら構える様子もない。
 もう一人の小柄な青い髪の女性はフードをかぶっていた。
「せっかく今日は噴水を頼んでいたのに、台無し」
 背中には長柄の武器らしきものが布に包まれている。
 その布がしゅるしゅると布がほどけ落ちる。現れたのは立派な鞘に包まれた大柄の剣。
 彼女はその剣に手をかけて抜こうとしていた。目はすでに刃物を持った男たちに向いていた。
 待って。
 高身長の女性が止めた。
「せっかくだからお披露目するわね」
 高身長で髪は長く、腰まであるのがわかる。スタイルもよく、手足はすらりと伸び、腰も細く、そしてパンツスタイルの女性だ。エル以外に久々に見た。不思議な感激を覚える。
 その彼女は腰にサーベルのような剣を下げていた。
 それを抜刀したかと思うと、二度三度剣を振る。単なる素振りではなかった。刀身に炎が揺らめいた。種火が刀身を流れ、燃え盛る炎でサーベルを包んだ。まるで炎の剣だ。
「へえ」
 小柄なフードの女は感心しているようだった。
「これがロイヤルフレア。あなたも似た力使えるでしょう」
「まあね」
 端的に答えると、素早く噴水に移動し、剣を突っ込んだ。
かと思うと、冷たい風が吹き込むようになり、噴水の池がみるみる凍っていく。
 水面から氷柱が形成され、それを取り出し、あやしい男たち目掛けて雑に投げつけていた。
 かたや、流れるような剣術で炎の剣で男を翻弄していた。
「うそ、なにこれ」
 目の前で繰り広げられる命のやり取り。しかし、女性二人の力が圧倒的だった。
 不思議な力を駆使し、それに頼りながらも身体の使い方がしなやかで軽やか。まるでステップを踏んでいるかのように。
 実力差は明らかだった。
 特に小柄な女性の方はぴょんぴょんと飛び回り、身のこなしのやわらかさと軽々と大柄な剣を振りかざし、氷の力で相手の力を封じていく。
 はためいた風がフードをめくらせていた。
 先ほども馬車の中で見ていたが、もしかして、と到底信じられなかった。
 いや、今でも信じられないが、とエルは隣のエリシオを見やると彼は生唾を飲み込み、見入っていた。
 これはエリシオが好きなネタだ。
 あの青い髪は帝国皇室のロイヤルブルー。つまりは姫君の一人。
「ねえ、エリシオ、大丈夫?」
 不意に声をかけられたと思ってか、エリシオは驚いたようにエルの姿を認める。
「あ、ああ。エルは会社に向かったんじゃなかったのか」
「途中ですれちがったから、止めてもらった」
「だからって、馬車の前に飛び出してくるのは無茶だぜ」
 御者の若い男が会話に入ってきた。
「乗っていたのがあの二人で幸運だったな、ブランドフォード家のお嬢さん」
 エルは気まずそうにエリシオを見上げる。
 まるで隠していたことがバレたコドモみたいに。
「本名で名乗って、助けを求めたの。それだったら助けてくれるかなと思って」
 普段は嫌だけどの一言も忘れない。
「ま、あの二人は無敵だから誰が助けを求めても」
 結果は見ての通りと御者の男はいう。
 圧倒的な強さでならず者の男たちを戦闘不能にし、まるで昔からの相棒のように揃って馬車に戻ってくる女性二人。
 剣を振りかざして鞘に戻す一連の動作も慣れたもので、エリシオから見れば感動すら覚える。
「君がエリシオくん? お家まで送って行こうか」
 背の高い女性が提案したが、エリシオはすぐに首を振った。
「せっかくのご好意、申し訳ありません、すぐそこの会社まででお願いします」
 えっ、と不思議そうな声をあげたのはエルだった。
「そう。仕事熱心ね。エルさん、彼、無事でよかったわね。ほらほら一緒に乗って乗って」
 軽いノリで背中を押される。
  二人乗りの馬車に四人が詰め込まれた。
 革張りの座席の座り心地はともかく、狭い車内のため、エルはエリシオの膝の上にいた。背の高いエリシオがまるで包み込むようになってしまう。
 そして隣から美人顔の女性が覗き込んでくる。
「私はファイナリアにあるフィーナル王国のフィン。こっちはここのお姫様のミスト。知ってるでしょ」
 青い髪、青い瞳のロイヤルブルーも背の高いフィンの膝の上にいた。
「無理やり乗らなくてもよかったんじゃないの」
 窮屈な車内が不満なようだ。
「向こうから騎馬警官が来てたわ」
 ふーん、じゃあしかたないかあと納得していた。
「私たちの力は面倒臭いのよ、だからできればあまり人に知られない方がいい」
「それに、あの時間帯にあたしらがあそこにいるのも不自然だから、本当にいろいろ面倒くさいことになりそう」
 だから逃げる。
 要は、送ってあげるというのは方便で、あの場からすぐに動きたかったということだ。
「せっかくフィンと噴水見ながらおしゃべりできると思ったのになあ」
 我らがロイヤルブルーのお姫様は不満げに口を尖らせた。
「また山を越えて会いに来るから、その時の楽しみにとっておきましょう」
「あんたは大人だね、まったく」
 わたしの知っている皇室の人の会話ではないけれど、小気味良くて気持ちがいい。
 エルはなんだかうれしくなってしまった。
 気づけば馬車に押し込められ、エリシオの膝の上に座らされている。
 窮屈で、身体がぴったりとくっついて、エリシオだって目を逸らしている。
 どこもケガはしてないようだ。
 とりあえず、そういうことにほっとして今の状況を考えないようにした。
 エリシオはというと、なぜか指折り数えてなにか考えことをしていた。
 そういえばエルだって教わったことだ、記事の見出しは指折り数えてひねり出せって。
「会社に向かってください、第三帝国新聞社に」
 言い出すんじゃないかと思えば、やっぱりとため息をつく。
 今夜はまだ付き合うことになりそうだ。こうなったエリシオを止めるのは大変なんだと先輩ではなく、幼馴染の顔で彼を見上げるように覗き込んだ。
 意外と顔が近くて、二人で照れた。
 会社にたどり着くと、馬車の持ち主はすぐに立ち去った。またお会いしましょう、だなんて声をかけてもらい、恐縮してしまう。
 第三帝国新聞社のよるは長い。
 今日この日も政治部の明かりはついていた。当たり前のようにエリシオは合鍵で通用口を開ける。廊下は真っ暗で、わずかな月明かりだけが差し込む。先ほど、命をかけるようなやりとりをしたのにも関わらず、暗闇が怖いのも変な話だ。
 エリシオを先頭に政治部の明かりを目指す。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、たぶん」
  声をかけあって、何が大丈夫なのか、よくわからないけれど。
「特ダネですよ!」
 エリシオは編集部に踏み込むなり、声を大にして叫んだ。扉を蹴破るように大胆に踏み込んでいく。
 突然の訪問者に、編集部員はなんのことかと振り返りはするが、エリシオの姿を見るなり、なんだお前かと肩を落として各自の仕事に戻る。
「編集長はまだ帰ってませんよね、よかった。聞いてください、ぼくらは…」
 一番奥の席の編集長に飛びつき、エリシオは矢継ぎ早に今、何が起こったかを語る。
 が、仕事の追い込み中に異動させたはずの若造に捲し立てられ、素直に大変だったねと言えるわけがなかった。
「はい、そこまで!」
 思わずエルは男二人の間に割って入る。
 小さな体で割り込んで、お互いを手で制す。
「エリシオ。今は明日の紙面の追い込み中でしょ」
 しかし、エルの乱入に驚いたのは編集長の方だ。
「フローラお嬢さん……!」
 政治部の編集長は父の友人でもある。だから、当たり前のように本名で呼ぶが、エルが睨みを効かせると、
「今はエル君だったかな、一体どういう事です?」
 まるで自社の社員ではなく、友人の娘さんという態度を崩さないことにそっちがそのつもりなら、と、一つ言いたいことを思い出した。
「オリバーにわたしの居場所伝えましたね?」
 思い当たる節があるのか、目が泳いでいた。
「私にも立場があって……」
 あはは、と中年の乾いた笑い。
「……おかげで……いや、なんでもないです。そういう時は知らないって言ってくださいね」
 娘世代からの叱責に編集長はああ、わかったよ、すまなかったねとたじたじと非を認める。
「それと、エリシオの言ってること、全部、本当のこと、です」
 エリシオが異動になった原因はなにかは知るよしはないが、少なくとも、エルに寄せて来たのはこの編集長の差し金に違いはなかった。
 厄介払いなのか、将来を考えて、なのか。
 世間的にはどう考えても、前者なのだが、エルにはもう一つの可能性を信じてあげたかった。
「わたしたちはロイヤルブルーの姫様とどこぞの国に高貴な方に助けられていのちからがらここに辿り着きました。これは、事実そのものです」
 エルの証言は効果てきめんだった。
「お嬢さんが言うなら、間違いない、のでしょう」
 急に編集長は真面目なトーンになる。表情もきりりと仕事人のそれだ。
「おい、空いてるタイプライター貸してやれ」
 編集部員に指示をする。
「信じるんですか? そんなヨタ話」
「エリシオだけの話なら、信じるわけないだろ。部署は違っても、証言者はうちの記者だ。それ以上、言うな」
 空気が変わった。
「一面差し替え、いけるか」
「一面ですか?!」
「第三帝国新聞らしい一面だろ」
「今から騎馬警官のインタビューとってきます」
「おう。連日特集組むか。現地調査は明日朝一番にやるぞ、エリシオ、付き合えるか」
「もちろんです、あ、でも、国立図書館でロイヤルフレアのことを調べたいです」
「わかった、午後行ってくれ」
 エリシオは目を輝かせて返事した。
 まるで別人だ。
 エルは棒立ちだった。
 別の部署とはいえ、記者の端くれ。
「わたしも原稿のチェックやります」
 できた、と隣でエリシオが口にすれば、
「貸して。わたしが……」
 出来立ての原稿を引ったくり、目を通す。
 エリシオの原稿は学生時代に新聞部活動で、散々読んだ、だから、癖も知っているつもり、だった。
 甘かった。
 なにこれ。
 事実なのに、ウソみたいな、そんな書き方。
「……情報をつかんだ本誌記者が何者かに狙われた云々、この下りいる?」
「だって、そうじゃないか。僕が狙われたんだ」
「それ、自惚れじゃない?」
「エル、新聞記者は時として、重要な情報を掴んでいるんだ、その内容は読者が勝手に想像すればいい」
「事実の裏打ちなしに、思わせぶりに書くなんて!」
「いいんだ、ここは。
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初公開日: 2021年07月08日
最終更新日: 2021年07月28日
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マサキくん、詰みですよ!4章プロット配信
青春将棋ラブコメ「マサキくん、詰みですよ!」 4章のプロットを考えながら書いていきます。 だいたい方…
みすてー
マサキくん、詰みですよ!3章プロット配信
マサキくん、詰みですよ!を題材にしたテキスト配信です。 3章1話マサキくん、道場ですよのプロットを書…
みすてー
【ウォルダン】柚の香 ★
宇宙海賊ANIMAS所属の、ウォルとダンが可愛い賭けをする話(えすり劇中劇)
のーべる