アールスの草原にその威容を知らしめる帝都グレッグミンスターは、幾重もの城壁で囲まれた城塞都市である。帝都そのものの防衛機能もさながら、アールスの地そのものが、西にバナー山脈から連なる虎狼山を擁する険しい山地、西北を流れるトラン湖からの大河川、北方の河口を守護する魔術師の島、東方は深い森と山地によって海洋と隔てられており、守勢に長けた土地柄だ。加えてハルモニアの聖都であった経緯から、クワバやシャサラザードといった軍事的な要衝にとどまらず、魔術師の塔をはじめとする呪術魔術による結界が幾重にも張り巡らされている。平地の城の弱点を補うにあまりある数多の防壁で守られた帝都は故に不落。内側からの内紛や裏切りによる主の交代はあるものの、聖都ルパンダであった頃よりこれまでの四百有余年に渡ってただの一度たりとも外敵からの攻撃に屈したことなどなかった黄金の都である。
 その帝都が、落ちる。
 王宮の南側の城下街――かつてゲイル・ルーグナーによって破壊され、バルバロッサによって再建されたその美しい街並みの中心地、グレッグミンスターの象徴でもある黄金の女神像が飾られた広場に今や帝都の人々が交わす賑やかな声はない。瀟洒な飲み物を売る露店の代わりに無骨な戦仕様の天幕が幾張りも張られ、せわしげに行交う伝令や報告の者たちの、どこか息を潜めたような低いやりとりや誰何の声ばかりが、鈍く光る女神像の周囲を取り巻いている有様だ。
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大禍時
初公開日: 2021年06月30日
最終更新日: 2021年06月30日
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