13話 ロイヤルブルーステークス 実況 パドック
あなたに「いま」をお届けする――
帝国ラジオ放送をお聞きのみなさん、こんにちは。
この時間は帝国競馬場から皇室御賞典ロイヤルブルーステークスを実況中継でお伝えします。
天気はあいにくの雨。
朝からの小雨が本降りとなりました。
馬場管理課によりますと、馬場状態は不良。
四段階中でもっとも悪い状態です。地面と芝生が水分を吸って、力のいる馬場となっています。
脚を滑らせてしまうような苦手な馬もいますから、波乱の展開が予想されます。
さて、それでは本日のメインレース、ロイヤルブルーステークスをご紹介いたします。
もうご存じの通り、三年に一度開催される、帝国皇室との真剣勝負。
優勝した者は望みの褒美を得られるという夢を叶える絶好の機会です。
ですが、現皇太子殿下のもとでの開催では、殿下の全勝。
三年前は「雷神(らいじん)」の五馬身差圧勝劇がありました。
六年前は「豪風(ごうふう)」の鮮やかな差し切り。
さらに九年前は「獅子王(ししおう)」のロングスパートでじわじわ迫り来るのを覚えております。
今年は、なんとその皇太子殿下の名代としてスカイブループリンセスことマリアヴェール殿下、アイスブループリンセスことミスティリア殿下のご両名が参戦し、話題となっております。
さらにその話題に拍車をかけたのが、新進気鋭の実業家サドラー海運の御曹司ウィリアム氏がこのロイヤルブルーステークスでスカイブループリンセスとの結婚を賭けるといいますから、競馬ファン以外にも新聞報道で大きく取り上げられ、賛否両論、社会現象となっています。
この勝負によって、ウィリアム氏が勝てば、史上初となる競馬に勝って姫と結婚という大偉業を達成することになります。
いやあ、もしそんなことが起きれば、歴史に刻まれる一瞬を見届けることになります。
夢のある話ではないでしょうか。
もちろん、他の参戦者も虎視眈々と自身の夢を実現するために、優勝を狙っています。
前哨戦である青空賞は番狂わせ、青海賞は人気通りという相反する結果にはなりましたが、順当に有力馬は歩みを進めて今日の決戦に備えます。
雨が降りしきる馬場ですが、ファンも熱くならざるを得ません。
さて、みなさま。
肝心の競走馬の様子はどうなっているか、気になるところかと思います。
二十頭も登録されていますから、時間の関係上、全馬をご紹介できません。
有力馬のみとはなりますが、パドックの様子と関係者のコメントをご紹介します。
まずはなんといっても、今回の挑戦者ウィリアム氏の銀狼(ぎんろう)からお伝えしましょう。
銀狼は馬番号②。
パドックでは厩務員と調教師の二人で引かれており、力強い歩様が好調さを感じさせます。
筋肉のバランスもよく、落ち着いており、状態は申し分ないと思われます。
担当の調教師からも万全の状態と太鼓判。
鞍上は馬主(オーナー)であるウィリアム=サドラー氏。
昨日のインタビューでは「全力を尽くす」と短いながらも決意のほどがうかがえます。
ウィリアム氏の銀狼は現在、ブックメーカーのつけるオッズで一番人気として馬券で支持されています。
次にご紹介するのは、挑戦を受けて立つ|マリアヴェール皇女殿下。愛馬は金獅子(きんじし)、鞍上は|プリンセスの騎士であるリュミエール氏。
前哨戦では残念な走りになってしまいましたが、ここまでの金獅子の成績は天才と呼んでふさわしい華麗な走りっぷりでダービーを含め、数々の重賞を制してきました。
今回は大外から発走となる、なかなか厳しい条件です。
このレースで大外から勝利した馬はまだいませんから、不利と言わざるを得ません。
どのような戦いを演じるのでしょうか。
パドックでの状態は、毛ヅヤの良さがこの天気でもよくわかり、きっと晴れていたら金色に輝くようなそれくらいの状態の良さであると言えます。
管理するフジー調教師は「後ろから行くので枠は関係ない。馬の状態はいいので期待してほしい」とコメント。
仕上がっているようですね。
鞍上のリュミエール騎手からは「金獅子を信じて乗るだけです」と相棒への信頼をうかがわせる内容です。
さて、もう一頭、忘れてはならないのが、前評判を覆し、青空賞を見事な逃げ切りで勝利した疾風(はやて)です。
馬主(オーナー)はスカイブループリンセスの姉君、|ミスティリア皇女殿下。なんと、御自らが騎乗するという、これまた驚きです。
騎乗予定だったソルティー騎手が負傷されたため、殿下自らが乗り替わり騎乗、まさにロイヤルブルーステークスにふさわしい盛り上がりを演出されています。
ただ、疾風の状態ですが、パドックでは……う~ん、この馬は個性的なので銀狼と金獅子と同列に語るのは難しいのですが、この馬なりに好調をキープしていると言っていいのでしょうか。
きょろきょろと観客席を物見したり、急に軽やかな足取りになったりと落ち着きがありません。
小柄な馬なので、馬体をよく見せるというのもなく、騎手である殿下が跨がった瞬間にスイッチが入るのか、急にしゃきっとなり、一本筋の通った優秀な競走馬として馬場に登場します。
不思議な馬ですね。
常識では測れない記者泣かせの馬ですが、厩務員のコメントはいつも通り「絶好調」の一言。
愛嬌たっぷりにレースを演出してくれるのでしょうか。
鞍上のミスト殿下からのコメントを、皇室広報を通じていただいているようです。
ご紹介します。
「いつも通り行くだけ」
……短いながら、すべてが詰まったそんな気持ちが感じられます。
ですが、油断は禁物です。
前走は金獅子に注目が集まった中、影をも踏ませぬ逃げをうち、そのまま逃げ切り勝ち。
見た目にそぐわぬ底知れぬスタミナが売りの一頭です。
そんな逃げの一手が売りの疾風ですが、強力な同型馬がいます。
ゼッケン④の銀羽(ぎんば)です。
銀羽はもう一つの前哨戦である青海賞にて驚異の粘りを見せ、五着といえど僅差で残っています。
他の先行馬がみな二桁着順で敗れたこのレースで残っていることから、疾風にとっては同型脚質のライバルといえるでしょう。新聞各紙の予想でも、疾風の単騎での逃げ切りは出来ないだろうというのが大方の見方でもあります。
その銀羽ですが、パドックでの様子も悪くなく、雨降る中でも熱気が伝わるほどの雄大な馬体をみせます。
また、他にも佳星(かせい)、濫玉(らんぎょく)、早麒(そうき)、陽炎(かげろう)といった馬たちも忘れてはなりません。
さて以上の有力馬のオッズ人気をご紹介しましょう。
ブックメーカーはおなじみ帝国レーシング社です。
一番人気、銀狼(ぎんろう)
二番人気、金獅子(きんじし)
三番人気、疾風(はやて)
四番人気、陽炎(かげろう)
五番人気、佳星(かせい)
六番人気、早麒(そうき)
七番人気、銀羽(ぎんば)
八番人気、濫玉(らんぎょく)
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参加頭数は二十頭ですが、有力馬に絞らせて紹介させていただきました。
さあ、全馬が馬場に登場します。本馬場入場です。
観客席から歓声が響きます。
雨ではありますが、傘を差す人、合羽を着る人とそれぞれがそれぞれの気持ちをこめて、自分のひいきの馬を応援します。
特別なレースですから、雨とはいえ、屋外貴賓席には多くの紳士淑女のみなさまが美しい傘の花を咲かせ、結果を守ります。
おや、ゴール前にいらっしゃるのはスカイブループリンセスでありましょうか。
鮮やかな青い髪が今日も美しくたなびいています。
雨に濡れるのもいとわず、一番前の立ち席で双眼鏡片手にご覧になっておられます。
ご自身の運命が決まる一戦とあって、真剣な眼差しがゴール前に注がれています。
さあ一頭一頭が本馬場に入場してきます。
有力馬をご紹介しましょう。
①疾風
前評判を覆す、青空賞の鮮やかな逃げ切り。今回も風のように先頭を走っていくのか。
負傷交代されたソルティー騎手に替わり、鞍上は|ミスティリア殿下、自らのご出陣です。
②銀狼
オーナーであり、ジョッキーでもあるウィリアム氏に導かれ、輝かしい栄誉のために戦います。
並んだら抜かせない闘志あふれる根性を今回も私たちにみせてくれるのでしょうか。
現在、一番人気に支持されています。
③佳星
ゆったりとした返し馬をみせています。毛ヅヤよく、黒い馬体がきらめく星のようと評されるほどの見た目とは裏腹、荒っぽい差し足で人気馬をまとめて差しきるのか。
④銀羽
おっとりとした雰囲気で入場します。ほどよく年齢を重ね白く生え替わった芦毛の馬体は雰囲気ほどゆるくありません。逃げるときはどこまでも逃げます。このレースの鍵を握る一頭です。
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⑥早麒
荒っぽさでは負けません、パワーのいる馬場はお手の物。眼光鋭く、優勝を狙います。額の大流星を真っ先にゴールで見ることができるのか、注目の一頭です。
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⑩陽炎
銀狼の二番手だけでは終わらない。ゆらゆらとそっと近寄り抜け出す、必勝レースを見せることができるのか。
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⑬濫玉
白毛の馬体が今日も美しく映えます。麗しい見た目通り、クールに流れを読み、ここぞというときに今日も突っ込んでくるのか。本命馬たちの刺客となりえる有力の一頭です。
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⑳金獅子
大歓声が涌きます。
前走のような失敗はもう出来ない。
姫の運命を賭け、黄金色に輝く騎士がいざ挑戦者からの決闘に望みます。
以上、二十頭によるレースがおこなわれます。
現在、各馬スタート地点へ向かっています。
実況席から見る限りでは、人気上位馬の返し馬の感じは悪くないように思えます。
準備運動がてら軽快な走りでスタート地点まで駆けていきます。
あえて言えば、疾風が前走よりも気合いが入っているように見えます。
力強い踏み込みで、しっかり前を向いて走っています。
パドックの様子とはうってかわって、これぞ闘志あふれる競走馬、そんな姿を見せています。
この馬はいつでも絶好調というコメントがあるとおり、体は丈夫で健康が取り柄、そしてテンションの高い馬でもありますから、レース展開だけが問題となってきます。
能力を発揮するにはやはり精神面での安定が必要です。
そういう意味では金獅子の評価が難しくなってきます。
実力ではこのメンバーの中でもずば抜けています。それをどうレースに反映するか、させるか、鞍上のリュミエール騎手の手腕しだいとも言えます。
対してウィリアム氏の銀狼、陽炎はどのタイミングで先を走る疾風、または銀羽といった先行勢をつかまえにいくか。仕掛けは金獅子が先か、銀狼が先か、人気どころをマークする他の馬と騎手も見極めてのレース展開となりそうです。
さて、お話の間に、出走の時間が近づいて参りました。
スタート地点から赤い旗が振られます。
ここで、帝国国歌の独唱とファンファーレの演奏です。
国歌の独唱は女性シンガーのミランダさんです。
それではお聞きください。
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すばらしい歌声でしたね。パワフルな声量でスタンドの隅にいても聞こえてきそうです。
さて、続きまして、宮廷楽団によるファンファーレの演奏です。
ファンのみなさんが手拍子で続きます。
貴賓席からはささやかな拍手が送られます。
14話 ロイヤルブルーステークス レース実況
さあ、ロイヤルブルーステークス、いよいよ発走です。
レースはスタンド前の直線からスタートし、楕円形の芝コースを一周、4コーナーから直線のゴールに向かいます。
出走馬たちがスタートラインの白幕の前に集まります。
さすがに一流のレースへ集う二十頭、歴戦の勇士だけに暴れる馬はいません。
騎手を背に、番号順にずらりと並んでいます。
今、幕が上がりました。
白幕がぱっと上がり、同時に最初の一歩目が踏み出されます。
まず、出足がいいのは、インコースから!
②銀狼(ぎんろう)です!
その影に隠れて、おおっと、①疾風は一歩目を出遅れています。
加速がつかないぞ。気合いが裏目に出たか。
あっという間に隣の銀狼と二馬身、三馬身離されていきます。
バラバラっとしたスタートですが、いきなりムチが入る馬がいます。
④銀羽(ぎんば)。気合いを入れて、先頭を走る銀狼めがけて脚色(あしいろ)よく向かっていきます。
これに呼応するように、疾風にもムチが入る。
逃げを常套手段とする二頭が競うように気合いを入れて、好スタートを決めた銀狼を内と外から抜いていきます。
鞍上ウィリアム、銀狼の行きたがる素振りに手綱を抑えて制御します。
疾風と銀羽は二頭で競り合うように前へ前へと進んでいきます。
あっという間に銀狼に二馬身、三馬身と差が付いていきます。
ここで先頭の二頭が1コーナーにさしかかります。
カーブを利用して、直線でバラバラっと走っていた隊列が整理されます。
逃げ馬二頭の後続一番手は銀狼、そのすぐ後ろは……陽炎(かげろう)ですね。
ウィリアム勢二頭が先頭集団。
そのあとに続くのは隼斗(はやと)、佳星(かせい)、雷鳥(らいちょう)、外に歌詠(かえい)と野路菊(のじぎく)。
佳星の真後ろに神楽(かぐら)、夜智(やち)。一馬身差ついて、明星(みょうじょう)が単独で追いかけます。
その明星の外から被さるように濫玉(らんぎょく)が徐々にあがっていきます。
その様子をみるように勇鼓(ゆうこ)。インコースで淡々と早麒(そうき)、半馬身差で三日月(みかづき)と続きます。
先頭の疾風と銀羽は早くも2コーナーにさしかかるところ。
最後方集団はまだ1コーナーの入り口です。
息吹(いぶき)、燦貴(さんき)、時雨(しぐれ)と続いて、一番後ろ、出走馬二十頭の一番後ろでじっくりと脚を溜めるのは金獅子(きんじし)です。
インコースにいる時雨よりも若干外に持ち出し、インコースに一頭あけた状態で走っています。
距離損よりも、いつでも外から攻められる、そういった作戦なのか。
先頭からは……離れましたね。
疾風と銀羽は揃って飛ばしていきます。
銀狼、陽炎まで八馬身差くらいついたか。
そこから先行集団が馬群を形成。
これが固まっていて、六馬身ほど。
後方集団との間にいるのは明星ですが、これが一から二馬身でつないでいます。
後方集団は息吹を先頭に五馬身ほどで固まっています。
先行勢の先頭は銀狼ですが……いやここで陽炎と入れ替わります。
2コーナーの出口で外から陽炎が銀狼の前に出ます。
やはりこの二頭で馬群をひっぱっていきます。
自由に飛ばしている疾風と銀羽の二頭はさておき、鍵を握る馬群のペース配分を陽炎と銀狼が握っています。
まるで馬群にふたをするようにレースをリードしています。
一番後方の金獅子とは十五馬身くらいか。
さて、全馬、向こう正面の直線を走っていきます。
少し銀羽のペースが落ちてきたか、疾風が一馬身ほどリードするような形で逃げております。
快調に飛ばしていますが、スタミナはもつのでしょうか。
レースは後半戦に入っていきます。
3コーナーを前にして、後続の馬群がペースアップか、銀羽と陽炎の間が徐々に詰まってきています。
先頭の疾風のペースは変わらず。
3コーナーに入っていきます。
銀羽にもうムチが入っています。
そろそろ苦しいか。
4コーナーの入り口近く、リードはもうほとんどありません。
じわじわ接近してきた陽炎と銀狼が背後から、銀羽に覆い被さるように外目に進路を取ります。
後方集団の馬群もペースがあがって、ここで観客席から大歓声が涌く。
一番後ろにいた、金獅子が動き始めています。
外から一頭二頭……三頭次々交わして、一気にペースアップしていく。
それでもまだ馬群だけで十二~三馬身以上あります。
ぎゅっと詰まった馬群、内は混みあっている。
コーナーをつかい、外のコースへ繰り出していく。
ここからのロングスパート、スタミナはもつのか。
疾風は4コーナーをまわってくる。
差は三馬身、殿下がうしろを振り向く。
もう、すぐ後ろまで陽炎と銀狼が二頭揃ってやってきている。
この二頭が手応えよく、加速する。
疾風にムチが入る、
二回、三回。
殿下が華奢な腕で必死に疾風を追います!
しかし、無情にも後ろから、二頭が競り合いながら疾風の横を通り過ぎていく。
根性馬の二頭がお互いに競り合いながら、抜け出します。
疾風はもういっぱいになったか。
一気に下がっていく。これ以上の伸びは期待できません。
下がっていく疾風を交わすのは佳星と濫玉。二頭で三番手争い。
先頭は陽炎と銀狼。
ここで頭ほど銀狼が前に出た。
銀狼にムチが入る!
一歩、二歩、引き離していく。
銀狼が単独の先頭に立った!
陽炎が食らいつくが、差が付くばかり。
三番手が濫玉に変わる。
だが、銀狼までは三馬身差以上ある。この脚色(あしいろ)では届かない。
他には佳星と早麒も後ろに続いている。
先頭は銀狼、これは強い!
残り少なくなってきた。一馬身離れて陽炎。
ここで……観客席から歓声が上がっている!
一気に坂を駆け上がってくるのが一頭います。
荒れていない大外の綺麗な芝生の上、雨降り馬場も関係ない、もっとも外柵に近い馬場を一頭、別次元の脚!
ものすごい脚でやってくる!
桃色の帽子。
ゼッケン⑳、金獅子だ!
きたきたきた!
ついに本領発揮! これが金獅子の末脚だ!
馬群をまとめて交わしていく!
まるで他の馬が止まって見えます。
先頭の銀狼まで残り三馬身。
差は縮まっていくぞ!
届くか、届くか、残るか!
先頭は銀狼!
しかし、差は一馬身!
今、ウィリアムがちらっと外を見た。
リュミエールは一心不乱に金獅子を追います。
前だけを見て、追い続ける!
半馬身、いや、並んだ! 並んだぞ!
併せ馬に強い銀狼だが、これは横に離れすぎている!
最内で粘る銀狼!
大外強襲の金獅子!
ウィリアムが何度も鞭を振るう! 銀狼は応えるのか!
ゴールまであと数歩!
金獅子か、銀狼か、内か外か!
金獅子が届くか!
届くか!
一歩前に出た!
ゴールイン!
優勝はどちらか、内の銀狼か、外の金獅子か。
こちらからは金獅子が体勢有利に見えました!
おおっと、リュミエールが右腕をあげた!
差し切った自信があるのか。観客席がどよめきます。
裁定委員の掲示を待ちましょう。
三着に濫玉、四着に陽炎、以下、早麒、佳星と続きます。
しかし、主役はやはり、金獅子と銀狼。
直線にわかに抜け出した銀狼を、大外一気で金獅子が追いつめていきました。
これが金獅子の持ち味、圧倒的な豪脚で直線ゴボウ抜き、猛烈な追い込みです。
空を飛んでいるようと評されますが、まさにその異次元の走りを見せつけてくれました。
さあ、みなさん、裁定委員が一着の掲示板にゼッケン番号を表示します。
⑳か②か。
2……20……金獅子です!
場内、大きな歓声があがります!
歓声と拍手と指笛と、いやあ、お客さんも祝福しています。
勝ったのはゼッケン⑳番、金獅子とリュミエール騎手です。
再び、リュミエールが右腕を挙げます。
それにあわせて地鳴りのように歓声が響く!
軽く、金獅子に走らせ、ゴール前まで戻ってきます。
ウィニングランといいますか、場内のお客さんの声援に応えるかのような振る舞いです。
いえ、これは……ゴール前で観戦していた殿下の元へ向かわれるようです。
リュミエールがここで下馬し、殿下の前でひざまずきます。
勝利の報告です。
またしても場内から歓声があがります。
殿下が一言、二言、リュミエールに声をかけられています。
どのようなお言葉をかけられているのか、私の場所からはお伝えすることができません。
みなさんの想像にお任せしたいと思います。
そして、殿下は続いて金獅子の首をぽんぽんとたたきます。
騎手と馬をねぎらい、そして、今度は場内の観客席に向かってお手を振られます。
お顔には安堵の笑顔というか、なんとも言えない穏やか表情で私たちへ、お手を振られています。
実況席からでもわかりますが、殿下の髪がしっとりと濡れております。
雨に打たれながらも柵ぎりぎりのところから身を乗り出していたのでしょうか。
挑戦者ウィリアムから、リュミエールが騎手として、いや騎士として殿下をお守りした、やはりその事実がお客さんを虜にします。それをまた殿下としては貴賓室ではなくて、ゴール前の最前列で見届けるというのがまた、見ている私たちにも気持ちが伝わってきます。
さてここで、敗れたウィリアム氏のコメントが入ってきました。
「銀狼の実力は出し切った。今日は勝った馬が強かった」
三着濫玉の騎手からも、
「勝った馬が強かった。あの上がりでは太刀打ちできない」
と、勝ち馬を手放しで賞賛するコメントが続きます。
たしかに、あの直線一気の追い込みは見事でした。
勝負どころの仕掛けが絶妙だったのかもしれません。
殿下としては疾風が直線、早々にバテてしまい、万事休すかと思ったところで金獅子が飛び込んできた。
差せるか残るか、かなりハラハラしたものだと想像に容易いでしょう。
金獅子の強さが印象に残る、そういったロイヤルブルーステークスになりました。
さあ、裁定委員から着順確定の旗が振られます。
今年のロイヤルブルーステークス、優勝したのは金獅子号です。
二着に銀狼、三着に濫玉、四着、陽炎、五着早麒。ここまでが掲示板に載っています。
金獅子号は父が獅子王(ししおう)、母が女傑として名高い月光(げっこう)の初子です。
管理するのはフジー調教師。
そして、馬主(オーナー)は|マリアヴェール皇女殿下であります。
今年も皇室による勝利で幕が閉じられようとしています。
さて、放送時間も残りわずかとなってきました。
次回の開催は三年後、どんなドラマが待っているのでしょうか。
またそのときに放送をお届けできればと願ってもやみません。
本日は帝国競馬場から、特別競争帝国御賞典ロイヤルブルーステークスの模様を実況でお届けいたしました。
勝ったのは皇女殿下の競走馬、金獅子号。
見事な差しきり勝ちでありました。
殿下がウィリアム氏の挑戦を退け、皇室の連勝をまた一つのばしたという結果になりました。
あなたに「いま」をお届けする―― 帝国ラジオ放送がお伝えしました。
それではまた通常の競馬開催でお会いしましょう。失礼します。さようなら。
〈おわり〉
おしまい