フットボールFフロンティアFインターナショナルIが終わり、雷門中メンバー達にもようやく日常が戻ってきていた。
 昼下がり。
 食事を終えた生徒たちは皆思い思いに残りの休憩時間を過ごす。級友らと語らう者。カードゲームに興ずる者。読書する者。それから──。鬼道有人は教室の中をぐるりと見回す。さっきまでいたのに……。目的の人物を見つけられず、おもむろに立ち上がる。多分あそこだろうと見当をつけて、校庭へと足を向けた。
 校舎を出て右手。グラウンドを横目に向かう場所は、バラックのようなサッカー部の部室。ではなく、その奥にある木立の中。小さな茂みを抜けて立ち入れば、果たしてそこに、円堂守その人はいた。ひときわ大きなケヤキの木陰。頭の後ろで腕を組み、芝生の上でうたたねをする親友を、鬼道はそっと覗き込んだ。FFI優勝直後からインタビューやら祝勝会やら、物見遊山の一般生徒も後を絶たなくて気の休まらない日が続いたからな。眼下の無邪気な寝顔をゴーグル越しに眺めて鬼道はそんなことを思う。と、不意にその双眸がぱちりと開いた。
「びっくりした。鬼道か」
 そう言って上体を起こしながら、円堂は「ふぅ」と息を吐く。
「済まない、起こしてしまったな」
 特に悪びれる風もなくそう言って鬼道は隣に腰を下ろした。
「別にいいって。なーんか、何となくここに来ちゃうんだよな」
 だいぶ落ち着いたから教室にいてもいいんだけど、と円堂は空を仰ぐ。釣られて鬼道も顔を上げると、初夏の真っ青な空が頭上には広がっていた。
 真っ青な空に、小さな白い雲がぽつんとひとつ。
 円堂はいつも仲間に囲まれている。人の中心に立って太陽みたいに周囲を照らす存在。一見すれば賑やかで人好きのする印象だが、時々こうして何物をも寄せ付けない孤高を纏うことがある。そんな時でも、こうして隣を許される自分を、鬼道は内心誇らしく思っていた。
 真っ青な空に、白くて丸い雲。
「早く放課後になんないかなぁ。サッカーやりてぇ」
 円堂がそう言って掌を空にかざす。
「そう大して長い時間でもあるまい。それでなくともお前は、居眠りしていればあっという間だろうに」
 そんなことないぞ、と目を泳がせる円堂がおかしくて鬼道は苦笑する。心地の良いそよ風がさっと吹き抜ける。さわさわと揺れるケヤキの葉陰がキラキラときらめいた。
「そういえばさ」
 と、円堂。
「前に、練習中に日蝕があったよな。あれ、また見たいなぁ」
 指の隙間から零れる光を受け止めるかのように拳を握る。
「ああ、確か練習を中断して皆で観察したな。日本で次に見られるのは数年先だろう」
「日本じゃなければすぐ見られるって事?」
「世界的に見てもそう頻繁に起こるわけではないが……せいぜい年に1、2度だろう」
 円堂は目を輝かせ、いつの間にか身を乗り出している。
「じゃぁ……来年のFFIでまた見られる可能性もあるわけだ」
 あまりに突拍子もない発想に鬼道はぽかんとしてしまう。しかし、と顎に手を当て逡巡して。
「おおよその予測は数年先まで計算上導き出されているはずだ。調べればもしかすれば……あるかもしれないが」
「え、なんだ、そうなのか。なんかもっとこう……偶然ふわっと起こるんじゃないんだ」
 なんだそれは、と思いこそすれ鬼道は口には出さなかった。円堂が言うのなら、偶然ふわっと日蝕が起こることもありそうな気がしてくる。
「あのさ、日蝕の時の、影がさ、三日月みたいな形になるの。あれ不思議で、綺麗だったな。俺、あれがまた見たい」
 興奮した様子ではしゃいでいる。その時、校舎に備え付けられたスピーカーからチャイムが響いた。
「予鈴だ。教室に戻るか」
「ちぇーっ、昼休み、あっという間だな」
 鬼道がゆっくりと立ち上がる横で、円堂は反動をつけて勢いよく跳ね起きる。そのままどこかに飛んで行ってしまいそうだ、ロケットみたいに。と、鬼道は苦笑する。
 ふと振り返る。先程まで木陰を借りていた大木を見上げる。大きな幹、立派な枝振りにたくさんの葉を茂らせて木漏れ日をキラキラと輝かせている。
「鬼道! 遅刻するぞ!?」
 遠くから円堂の呼ぶ声がする。
「ああ、今行く」
 太陽の光は強すぎる。生命にとって無くてはならない存在ではあるが、時に皮膚や目を焼く程に荒々しくて、地面に落ちたその陰で初めて姿を見ることができるもの。
 少しの間、円堂と離れて改めて感じることも多かった。
「木漏れ日くらいがちょうど良いのかも知れないな」
 鬼道は駆けて行く円堂の背中に目をすがめた。
 本鈴が鳴る前に戻ろう。踏み出す一歩は、心なし軽やかに思えた。
   終
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[円鬼]木洩れ日
初公開日: 2021年06月27日
最終更新日: 2021年07月11日
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