あまり嗅ぎなれないにおいが気になって目を開けると、視界に入ったのは見慣れない薄暗い部屋の中だった。重たい頭に走る痛みを手で押さえながら体を起こそうとすると、バサリと音を立てて何かが落ちた。床で広がったそれを手に取ると薄いカーディガン。見たことあるような気も、無いような気もする。首を傾げて周囲を見渡してようやく、ここはディノの実家だったことを思い出した。
 アカデミーが長期の休暇に入るという事で実家に帰省するという二人に対してオレは寮に残ると言ったらブラッドは「そうか」としか言わなかったがディノは「じゃあ俺の家に帰ろうよ! おじいちゃんたちもまた会いたがってるし!」なんて半ば強制的に連れてこられたのは昨晩の事だった。昼過ぎに寮を出て、夕方にここに来て。以前と同じかそれ以上に騒がしくてどこかむず痒い時間を過ごした後に「ブラッドがいないし夜更かしでゲームをしよう!」と言いだしたのはディノだった。それに付き合ったまでの記憶はあるものの、途中からぼんやりしているからきっとベッドにも移動せずそのままソファで眠ってしまったのだろう。時計は見当たらないが大きな欠伸が出るから長い間眠っていたわけではなさそうだ。元々睡眠は浅いほうだから気にならないが、太陽が昇っていないのにディノの姿がこの部屋の中に無いことが気になってしまう。
 大きく伸びをしてから床に足をつけて部屋から出る。以前にも来たことのある家の中は薄っすらにでも記憶にあり、夜目が効く方だから室内灯がついていない状態でも何もぶつからずに歩くことが出来た。確か前に、バルコニーから見る夜空が好きだと言ってなかったっけ。いつ、どのタイミングで聞いた話かも思い出せないがふと思い出したディノの声を頼りにリビングへと向かうと、外からの風でカーテンがゆらゆらと揺れていた。
「おーい、ディノ」
 予想は的中したのだろう。ディノのじーさんとばーさんを起こさないように声を潜めて名前を呼んで外を覗くと、薄暗い空の下で驚くように丸くなった瞳を光らせているディノと目が合った。
「あれキース。なんだか早くないか?」
「それを言うならそっちもだろ」
 肩を竦めながら外へ踏み出してディノの隣に立つとなんだか嬉しそうに笑う。その理由も分からず疑問符を浮かべようとして、吹いた強い風の冷たさに体を震わせた。ここは寮のある都会とは違うし、季節の変わり目という事もあって肌寒く感じる。陽が昇っていないのだから当然だけど吐く息も僅かに白い。くしゃみをする声が隣から聞こえてきて顔を向けると鼻の先が赤くなっていて眉間に皺が寄った。
「お前そんな薄着で外に出るなよな」
「ごめんごめん、ちょっとのつもりが見惚れちゃっててさ」
「……つーかあのカーディガン、ディノのだったのか?」
「あ、うん、そうだよ。ブランケットかければよかったんだけど、俺が着てたのを脱いでかけたほうが早かったから」
 当然のように言いながらも、小さく体を震わせている姿を見て呆れた感情しか浮かばない。こいつは勘が良く働くくせに、自分の事になると鈍感な部分がありすぎる。さっき床から拾い上げたカーディガンは確かに眠る前、ゲームをしている時にディノが羽織っていたものだったと記憶を辿って思い出す。ディノに対していろんな言葉が思い浮かんできたが、オレのせいでもあるんじゃねぇか。
「ん」
 溜息を寝巻のTシャツの上に羽織っていたパーカーを脱いでディノの肩へとかけると、大きな瞳がぱちくりと動く。
「どうしたのさキース」
「別に寒いのには慣れてるから、着とけ」
「えぇ、でも……」
「いーから。ディノのカーディガン部屋に置いてきたし、まだ空みたいんだったら付き合ってやるよ」
「えっ。……いいの?」
「別にいーよ」
 空を見ても面白いとか綺麗だとか。そういうことは思ったことは無かったけど。ディノが楽しそうに話をしているのを聞くのは悪くはない。嬉しそうに微笑んだディノは肩にかけたパーカーの袖に腕を通すと、手の途中まで隠れてしまっていた。身長は変わらないが服のサイズが一つ違うからある意味当然ではあるのだが、どことなく見てはいけないもののように感じて顔を逸らした。
「キースのパーカー、あったかいな」
「さっきまで着てたからな」
「へへ。キースのにおいもする」
「……変態かよ」
「変態じゃないよ~」
 不思議と上機嫌なディノの声に、意識してんのはオレだけなんだろうかとどこか悔しさを感じもしする。それでもこの距離が居心地が良い。いつもの調子で喋りだしたディノに耳を傾けた。
 空の端が明るい色が滲みだして、太陽がゆっくり昇るまで、毎日顔を合わせて話をしているというのに時間を忘れるぐらい話をする。ディノは夜のどれだけ暗い場所に居ても星のように居場所を伝えてくるが、朝陽が当たってキラキラと眩しく光っているように見えるディノの姿が純粋に好きだ。そんな口にしてしまうと羞恥で耐えられなくなってしまいそうなことを考えては、そっと心の内にしまい込んだままにしておくことにした。
カット
Latest / 52:30
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
20210612キスディノワンライ
初公開日: 2021年06月12日
最終更新日: 2021年06月12日
ブックマーク
スキ!
コメント
第15回「朝日/相手の服」
20210801キスディノドロライ
【お題:1周年/過去イベント/過去衣装/西】
みつき
【銀土】タイトルが決まらない
銀土がとにかくおせっせしているとこだけを書きたい。音声付にしときますが、きちんと聞こえない時もあるか…
秋月
#2 愛に至る怪異
一次創作の夢小説です。オリジナル人外×夢主。 人外からの愛が重い。 ※ほんの少しだけ配信です
魕雄