レイジングエンターテインメント社の緑化された屋上で、ドラマの台本を読んでいる。視線の先にはいくつかの鉢に水をやる瑛二がいて、しゃがんだり、立ったり、こちらを見て手を振ったりしていて、俺はいつだったかの山梨の家の庭で、花にあつまる蝶を追いかける瑛二を思い出した。たしか瑛二が五つか六つで、俺が小学五年生くらいだったかの、すでに別々に暮らし始めた春の日のことだ。
俺たちが世間一般から見て普通の兄弟かどうかについては、ほかの兄弟を知らないので比べようがないが、週末の、それも月に数回ある休みに弟に会いにいく兄というのは珍しい部類に入るのかもしれない。
今日は兄さんとお庭で遊んだから、その絵を描く、と言って取り出した白い画用紙に、瑛二はていねいに色順に並んだクレパスを出してきて庭の絵を描いた。青空で、太陽が眩しくて、緑が青々として花が咲いている。蝶を追いかける瑛二と、俺がいて笑っていた。白い画用紙はあっという間に賑やかになり、「上手に描けた?」と俺に見せる瑛二は
瑛二が起き出す前に東京に戻らなければならなくて、俺はその絵に少しだけ花をつけたした。庭に咲いている(なんかの花。ラナンキュラスとか?)だ。それからだったと思う。俺と瑛二は画用紙で ちょっとくさすぎんか?????
忙しくて帰れない週末もあって、絵がなかなか完成しないことも増えていったが、眠る瑛二の部屋にある小さなテーブルに画用紙があって、ほとんど一面が緑一色の草原のようになっているのを見ると
俺はその一面の草原に、小さな花を描きたして、
緑色のクレパスだけが小さくなっていたのを今でも覚えている。
「あの頃から花が好きなのかと」
「あの頃って?」
「庭や花の絵を描いていた頃だ。幼稚園の年長だったか」
「ああ、覚えてるよ」
瑛二は水やりをやめて俺のとなりに腰かけた。
「まあ、そうかも。育っていくのを見るのは好きだったと思う。でも、あのときは絵に描くほうが楽しかったかな。それで兄さんと遊べたしね」
それに庭の絵を描いてたのには理由があってさ、これ言うつもりなかったんだけど、と言いながら瑛二は耳元に顔を寄せて小声でささやく。兄さんの犬はちょっと、犬に見えなかったんだよね。
とんでもないことを聞いてしまった。自分でもそこまで出来がいいとは思っていなかったが、当時幼稚園生のかわいい弟に下手くそだと思われていたとは。瑛二はごめんごめん、冗談だよ、と笑っているがなかなかにショッキングだ。
「兄さん、でも俺、兄さんと描く絵大好きだった。あまり一緒にいられなかったし。少しずつ完成していく絵を見てて、結構感動してたんだ」