その日のアズールは忙しかった。どれくらい忙しいかというと、書類が山のように積み上がり、その後に課題やら授業の予習やらと、その他のことに構ってやれる時間などないというくらい忙しかったのだ。
 しかしどういうわけか、そんな日に限って彼女は鬱陶しいくらい絡んでくる。普段は大人しく、こちらからなにか行動しなければなにも起こらないというくらいお淑やかなくせに、なぜだかはわからないのだが、わざわざ隣に座って頬を突いたり、脇腹を突いたり、眼鏡を外したり、果ては腰に抱きついて、膝の上に頭を乗せてわーわー騒いだり。とにかくしつこいくらいに絡まれている。現在進行形で。
「忙しいので後にしてもらえますか?」
 シカト。そして頬をむにむにとこねくりまわされている。背後から。
 なんだ。今日に限って。眼鏡を押し上げ、そして彼女の手を少し強めにつねって、その不快極まりない行為をやめさせる。
「いたっ」
「構って欲しいなら少しの間大人しくしていてもらえますか?」
 犬に待てをさせる要領で命令すると、彼女はてってっと僕の前に座り、ぶすっと顔をあからさまに顰めてみせた。ちょっと可愛かったので顔が緩みそうになったのを、眼鏡を押し上げるので誤魔化して「我慢できたらご褒美をあげますから」と言えば、彼女はコクコクと首を大袈裟に縦に振って微笑んだ。
 にしても今日はなにかあったのだろうか? よくわからないが、悪い気はしないのでまぁいいか。
 書き物を終わらせて、課題もさっさと片付けた。予習はもういい。どうとでもできる。
 一時間ほど前にうたた寝をし始めた彼女が、僕の肩を借りているので、それを太腿をちょんと叩いて起こす。
 あれだけ構って欲しいとしてきたくせに、お利口に待つ間に眠りこけるなんてと、流石としか言いようがないけれど、そんなところも可愛らしいと思ってしまうんだから僕も大概なのだろ。
「んっ……おわりましたぁ?」
 目をしょもしょもとさせながら起きた彼女。無防備極まりないその顎を掴んで、唇にかぷっと噛み付いた。
 はふはふと、酸素を求めている唇を逃すまいと頭の後ろに手をやって腰を引き寄せる。小さな手が抱かるのを嫌がる猫のように突っ張っているが、大した力はないし徐々に力が抜けて、ぎゅっと制服を掴まれる。
 散々口の中を犯して、しつこいくらいのキスをゆっくりと離せば、真っ赤な顔を蕩けさせて「びっくりした」とはぁはぁしているので、本当に犬や猫の類なのではないかと思えてきた、ふっと吹き出してしまった。
「お待たせしました。ご褒美はご満足いただけました?」
「これがご褒美ですか? 罰かなにかかと思いました……」
「ああ! 罰ね。それもあながち間違いではないですよ」
「え?」
「だってあなた僕のこと散々煽ってきたじゃないですか」
 じりじりと顔を寄せていくと、ソファーの上でなにか危機を感じた彼女が後ずさる。本当に馬鹿だな……後退りなんかしたらどうなるか、なんでわからないんだろう。
 案の定ソファーに押し倒すことに成功してしまって、あははっと笑いが堪えられなかった。
「我慢してるのが、あなただけだと思ったら大間違いだ」
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向き
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我慢
初公開日: 2021年05月22日
最終更新日: 2021年05月22日
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コメント
ワンライのアズ監
未定
冗談が冗談に聞こえなくて喧嘩するマレ監
糸屑
す、す、すりー!?
笑える映画のワンシーンと くだらない落書き
おフェム
【灼/ヴィ冬】瀬をはやみ
ヴィハーンと冬居がたい焼きを食べる話です。奥武戦が始まってすぐくらいの頃(3月上旬)に書いたもののた…
end