夏が来る。夏が来る。夏が来る。
 カイから連絡があった。グレイは携帯端末機に送られてきたメッセージを読むと、すぐに家を飛び出た。駆け足でダッドの店に向かう道すがら、セミの声があちこちから聞こえてくることにようやく気づいた。夏が来たのだ。ユウトがミネラルタウンにやってくるこの時期が。
 話は去年の夏に遡る。町の南に閉鎖された牧場があり、そこに新しい牧場主がやってきた。ピートと言う青年は、グレイと年が近いこともあった、やや印象の悪い出会い方ではあったがそれなりに仲良くなることが出来た。その牧場に、ピートの友人と名乗る青年がやってきた。
 グレイは、ユウトを変わった人間という枠に収めた。と言うのも、彼はいつもはっきりと物を言い、言葉を飾らず、また外からの訪問者という姿勢を崩さないものだから、町の住人たちとはまったく異なる人間だった。衝突を恐れず、迎合しない。ピートといる時のユウトは、殊更にその傾向が強かった。
 グレイがユウトに話しかける時、彼はほんの僅かだが態度が柔和になった。嫌われてはいないのだろう、とグレイは好意的に捉えた。そうでなければからかわれているだけだと、そうは考えたくなかったからだ。
 有り体に言えば、ユウトに惹かれていた。夏の終わりに、「じゃ、帰ります」とたった一言だけ残して、本当に街に帰って行った彼にとって、グレイは単なる滞在先の住人に過ぎなかっただろう。友人、と呼べる関係ではなかったのだ、とひどく落胆したものだ。そうして落胆した理由を考えた時に、グレイの頭に浮かんだ言葉はたった二文字の単語だった。
 金属の加工法を学んでも、自分の心をどうこうする術はわからず仕舞いのまま、一年が過ぎた。ピートに時々話を聞いてもらったこともある。結局、なんの解決にも至らないままだった。それはそうだ。当の本人が不在のまま、あれこれ考えても仕方がない。ピートもそれをわかってかわからずしてか、ひとまずはグレイの隣で黙って酒を飲んでいることが多かった。そのピートも、ユウトのことはよくわからないとこぼした。いとこ同士でわからないのなら、他人であるグレイには何一つわかるまい。
 春になって、ピートからユウトの連絡先を聞いた。結局、連絡は出来ず仕舞いだった。夏の短い間の勘違いなら、そこで終わらせるのも一つの手だと思った。そうして春が終わり、夏が来て、カイからのメッセージでユウトの名前を見て、グレイは走り出した。ダッドの店はもうすぐだった。心臓が破裂しそうだ。これはきっと走ったせいだろうと考えられるほど、グレイの頭には余裕がなかった。ユウト、来たんだ。その言葉だけが分裂して増殖して、グレイの中身を埋めていく。
 ダッドの店の前で、グレイは向こう側からこちらに歩いてくる人影を見た。ユウトだ。大荷物を抱えていても、彼のシルエットはすぐにわかる。だってずっと待っていたんだ。グレイはこめかみから汗が流れ落ちたことにも気付かずに、その場に立ち尽くした。
「ユウト!」
 叫んだ。どれくらい大きな声だったのかはわからないけれど、彼に聞こえたのならそれでいい。ユウトはゆっくりと顔を上げて、そこで初めてグレイに気付いた顔をした。遠くて見えなくても、そんな気がした。
「おかえり、ユウト!」
 手を振ると、ユウトも手を振り返してくれた。夏が来たのだ。そう、強く思った。
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ユウグレ
初公開日: 2021年05月16日
最終更新日: 2021年05月16日
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ユウグレ短文。30日前提。