「と、いうことで参りました朽木さんのところ」
「何がということで、だ! バカモノ!」
俺は朽木さんの収容されている懺罪宮という場所にやってきた。
目の前には、白い和服を纏った朽木さんが、檻越しに俺のことを呆然と見ている。
お? 惚れたか?
「どうやってココに……」
「どうやっても何も、正面からこっそりと」
結構な情報収集と、この騒ぎのお陰で朽木さんがここに閉じ込められていることも、処刑が早まったことも話に聞いた。
なぜ早まったのか、という点に関しては調べきることができなかった。
なんか偉い人たちの決定だから、下の人達には理解できないらしい。
「確かに目の前に現れた時は驚いたが、艦首もどうやって」
「こう、トンって」
「トンでなんとかなるほどのものではなかったと思うがの……」
気絶させてからは、適当に刀で立っているように見せかけている。
遠目で見れば少しうつむいている程度にしか映らないだろう。
というか、気絶させるくらいならわけない。
霊圧とか意味不明なものに頼るのではなく、研ぎ澄まされた手刀が物をいうのだ、こういう時は。
「ま、そこらへんは良いんだけどさ」
「良い話かの……」
「率直に聞くけど、出る?」
「……この檻から、ということかの?」
「まぁ、それもそうだし。
この尸魂界から、って意味でも」
「出られるのか?」
「一応退路は常に確認中」
朽木さんの表情は明るくない。
まぁ、一護から話を聞いた感じでは、朽木さんが助けを求めたわけじゃない。
アイツの野郎としていることは、死神という世界へのいちゃもんだ。
わがまま。
それを通そうとココに来ている。
そしてそれに賛同するものが居た。
で、俺はというと、
「ぶっちゃけ、助けてほしくはあるの?」
「ッ?!」
絶賛反対。
正確に言うと、先程までは賛成していたが、朽木さんの顔を見て反対になった。
だって、朽木さんの表情はまるで、
「助けてほしくなさそう」
「そ……それはそうであろう。
死神としてのルールを破ったのだ。
裁かれるのは必然」
「ふーん」
休憩でもするか、と腰を下ろす。
少し硬い地面だ。
コンクリに似たような、硬い匂いがする。
陽の光は最低限。
周りは白い壁に覆われて、
「話そう」
「は?」
「話そう。
俺、我妻源氏と朽木ルキアで」
「……こんな状況で、か?」
「こんな状況で」
つまらなさそうだ。
だから、少しの間だけ、俺は話し相手になろう。
俺は朽木ルキアという人間をそんなに知らない。
それこそ、学校での猫を被ったあの姿しか知らない。
だからこそ、俺は今一度知る必要がある。
「話せば、心が決まるかもしれない」
「何の心だ」
「出るか、居るか」
「……」
沈黙は金、とは言うけど、この沈黙の意味を悟れるほど俺は人付き合いは得意ではない。
「空座町に来たのはなんでだっけ」
「それは私が空座町の地区を担当することになったからだ」
「それってさ、虚討伐の?」
「そうだ。
私が赴任してからは虚の出現の頻度は高かったがな」
「あ、流石にあんな頻度で出るわけ無いか」
「そうだろう。
人の命は限り在ることと同時に、虚の数も限りが在る。
あんなに出ては死神がいくら居ても敵わない」
朽木さんは、俺の言葉にいつもどおり、という感じで返してくれる。
学校でのあの猫をかぶった感じではなく、いつもどおりと言った感じ。
「実際さ、一護って死神でも強いほうなの?」
「……確かにあやつは霊力はアホみたいにある。
しかし、それをうまく扱う術を持ち合わせていないせいでかなり効率が悪い。
本来なら、治療や攻撃のための鬼道というものを習得することが死神への道なのだが、その点で言えば素人も良いところだ」
「けど、戦いのセンスがってことか」
「そう、アヤツの戦いのセンスは戦いに塗れることによって、洗練されていった」
「確かに戦闘に関してはスパルタだな」
「……それでいうなら、源氏もどんな訓練を受けてきたのか?
私の見る限り、それは教えてもらう剣技ではなかろう」
少し意外だ。
朽木さんが俺のことについて聞いてきた。
結構今までは俺のことなんか興味ないのかと思っていたけど、朽木さんからしても俺の存在は気になる、ってこと?
「そういえば、俺のことに関しては教えてなかった」
「霊媒師、ではないのか?」
「あんなにスーパーマンなことができる霊媒師いるかよ。
俺の正体は……」
「正体がなんであれ、そんなものは関係ない」
飛び退く。
朽木さんの檻の前……俺が先程まで居たところに、人がいた。
それは奇妙な金飾りをした、白い羽織を羽織った男。
背には六の漢数字をデカデカと表している。
その男が、俺の居たところの、首に当たるところを横薙いでいた。
もし俺が動かなければ、死んでいた。
「久しぶり?」
「挨拶などいらぬ」
俺の気さくな挨拶に、男は応じない。
俺の脚が地面に着くかつかないかのタイミングで、男の姿が消えた。
背後がチリチリする。
移動では間に合わない。
攻撃されるであろうところに刀を置く。
突如、衝撃。
俺の体は前方に吹き飛ばされる。
そっちは懺罪宮の出口。
何にもぶつかることはなく、俺の体は懺罪宮から叩き出される。
懺罪宮の目の前は長く不安定な橋が存在している。
危うげに着地を決め、橋の不安定さに舌打ちをしながらも、振り返る。
「今の一撃で死なぬとは、あの死神の男よりはやるのだな」
「あの男ってのは、一護のことか?」
「さぁ、知らぬ」
「そっか」
もし一護なら、この程度の斬撃買わせなきゃココに来る前に死んでいる。
だけど、わざわざ敵に塩を送ることもないので黙っておく。
一護、次にさっきのやられた時、反撃しろ、ガッツリ。
「貴様は尸魂界のものではないな?」
「まぁ、いずれ来るもの、ですね」
死んだら。
「ならば、今来ても変わらぬだろう」
瞬間、男の高速移動……瞬歩が行われる。
死神の戦闘に関して、浦原さんから教えてもらった高速移動方法、瞬歩。
これを使いこなせるようぬなることは死神として強くなるために必要なことらしく、逆を返せば強い死神であれば在るほど、この瞬歩は非常に洗練されてくるというと。
だからこれを攻略することが必要なことだと俺は教えられたが、これに関して、俺の瞬歩慣れは、数時間で終わった。
それも、これ以上はする必要がないという判断のもとにやめた。
「ほい」
理由は簡単。
男の横からの振り下ろしは簡単に防げる。
「この程度では遅い、か」
「あ」
そういうことではない、と思わず口からセリフが出そうになるが、別に言う必要もないことだ。
俺は素直に逆側から現れた男の斬撃を防いで見せる。
「……これを止めるとは」
あ、そんな大層な認め方やめてください。
別にこれは特別なことをしている、なんてことはない。
それこそ、天性の才能とか理由にしたいけど。本当にそんなんでもない。
「フッ!」
やってくる刀。
俺はそれをしっかり見ながら、ギリギリで避け、拳を振り絞り、
「オラっぁ!」
ぶん殴った。
いや、だって俺と同じくらいの速さってことはまぁ見えるやん、割りかし。
ちらっと動く方向さえ分かれば後は死にそな感じを探しとったり、予想したりすれば、ねぇ?
男は俺の拳によって体勢を崩し、橋の外へと落ちていった。