そんなに見るな
 病室。入院するのにもなれてしまった。無茶な作戦を押し進めた結果、僕にしわよせが来る。身体能力の差をもう少し考慮して計画して欲しいところだ。今回は比較的マシな方(腕の骨折を"マシ"というのもどうなんだ)で、1人退院の準備をしていると面倒な男が部屋に押し入ってきた。声をかけられるでもないから放っておきたいのだけど、しつこい視線に根負けする。
「そんなに見るな。着替えづらいだろ」
「おいおいヴァージン気取りかよ」
「気が滅入るんだよ。なんで来た? 僕の怪我に責任を感じるような人間じゃないだろ」
「よくご存知なこって。まあ、オモシロイからな。イキったヒーロー気取りがボロボロの汚ねえ体晒して、みっともなく着替えに手こずってる様子はよ」
「………うるさいな」
「手伝ってやろうか?」
「碌なことにならないだろうから、構うな」
「人の親切は素直に受け取れよ」
 言ったって聞く男ではないから、悔しいけれど大人しくする。反抗を続けて損をするのはいつも僕だ。腹立つからかいを覚悟して身を預けたが、意外にも着替えは静かに、スムーズに進んだ。あとは前ボタンを止めるだけだ。いかつい手がひとつひとつ、小さなボタンを扱う様子がいっそおかしい。器用に止め切って、そのまま襟首を掴んで立たされる。
「うわっ」
 アーロンは何を言うでもなく、立ち上がった僕をじろりと見ている。
「……言いたいことがあるなら、いえよ」
「別に。お前マジで全身きったねえな」
「だからなんだよ。君に関係ないだろ」
「萎える」
「勝手に萎えてろ」
「萎えられて困るのはお前だろうが、ド変態がよ」
 脇腹に残る青あざを掴まれ、痛みに身をすくめる。あざを残したのは君だろうが。苛立ってアーロンを睨みつける。楽しそうに彼は口角を上げた。
「溜まってんだろ。存分に発散させてやる」
 かすかな興奮が言葉に宿っている。どっちが変態だクソ野郎。自分の頬が上気しているのは棚に上げて、心の中で彼を罵った。
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