「ソー王子、フリッガ様がお呼びです」
「母上が?」
突然母に呼び出され怪訝な顔をするソーだが、今この状況を抜け出せるのならば何でも良かった。
「という訳だ、お前たちも別の仕事にかかれ」
「ですが……」
ソーの周りにいる仕立て屋たちは困惑したような顔をしている、だけれどもそんなことは関係ない、ソーはたった今呼び出されてるんだから。仕立て屋たちが他に何か言う前に、ソーは退屈で苦痛な採寸から駆け出すように逃げ出した。
足音を立てて駆けるソーは、母の部屋の前で止まると、ささっと軽く身だしなみを整え、声をかけた。
「母上、お呼びですか」
「あらソー、こちらへいらっしゃい」
母の声に呼ばれ中に入ると、そこにはとても楽しそうな笑顔をうかべる母と。
「あの、そちらのレディは……?」
「……」
「可愛らしいでしょ?」
不機嫌そうなふくれっ面をしている可憐な少女が居た。
美しく波打つブルネットの髪は腰まで伸び、シミひとつない陶磁器のような白い肌、不機嫌そうにつんと尖らせた唇は朝露に濡れる薔薇よりも赤く、不満そうに半目になっているその翠の瞳は深い森のようで。
その少女は、ソーが見たこともないほど美しい姿をしていた。
「……」
「ほら、そんなに怖い顔しないで」
そしてその美しい姿のまま不機嫌さを隠しもしなかった。
「しかめっ面ばっかりなんて、せっかくの可愛い格好なのに勿体ないわ、ソーもそう思うでしょ?」
「えっ?ああ、そうですね」
「ふん……」
この国の王妃を前に、一切不機嫌さを隠さないこの少女は一体何者なのだとソーが不審に思っている間も、母に話しかけられ、ソーは生返事を返していた。するとその少女はじろりとソーを睨みつけると、ツカツカとソーの側まで歩いてきた。
「……」
「あー、えっと、俺に何かあるのか?」
両手を自身の細い腰に当て、くいと顎を上げながら、まるで見下すように下からソーを睨みあげる少女。ソーも、彼女のことを多少不審には思っていたが、そんな内心を悟られるような態度をとった覚えは無く、ここまで敵意を剥き出しにされる心当たりもない。
可憐な美少女に睨みつけられて、ただただソーが困惑していると、クスクスとした笑い声が聞こえてくる。
「あんまりからかっちゃいけませんよ」
「……からかってなんかいません、私は怒ってるんです」
可憐な見た目に反して少々ハスキーな声の少女に、ソーは少し驚き、そして機嫌の悪い少女におずおずと話しかける。
「その、君が怒るようなことを、俺が何かしたのか?」
「あら、何か気が付かないかしら、ソー?」
「何か気が付くって……」
楽しそうな母の声に、ソーが困惑しながら少女と母を見比べていると、うんざりとした表情の少女が大きな大きなため息をついた。
「言っても無駄ですよ母上、ソーの目は節穴だから」
「まあ、そんなこと言って、あなただってソーに気がついて欲しかったんでしょう、ロキ?」
「えっ?ロキ!?」
母と少女の会話を聞いて、ソーは改めて少女の姿を上から下までじっくりと見た。
確かに、その黒い髪は弟のものとそっくりで、その白い肌も、赤い唇も、イタズラの時にはいっとう煌めく翠の瞳も、弟にそっくりで。
「お前、ロキ、なのか?」
「そんなに驚くってことは、上手く化けられたってことかな?」
「いや、だって、お前、どうしてそんな姿に……」
普段よりも頭一つ分くらい小さくなってしまった弟、いや、妹を見て、ソーは当惑した顔が隠せない。
困り顔のソーを後目に、ロキはふいとそっぽを向くと、腕を組んではどこか拗ねたように話し出す。
「見た目を変える魔術を使おうとしたら、ちょっと呪文を間違えて失敗して、母上に助けてもらったんだ」
「ふふ、赤ん坊になったロキも可愛かったわ」
「ごほん!それで、正しい呪文で変身して、ソーか誰かにイタズラしてやろうと思っていたら、母上に引き止められて、こんな格好をして……」
「可愛らしいと思わない?ロキに良く似合ってるでしょう?」
ロキの身にまとう、もえぎ色のシンプルなドレスは、装飾は少なくも一つ一つに品があり、ロキの華奢な腰や腕を強調するようなデザインであった。
「あー、ええ、なんと言うか、似合うドレスだと」
「はっ!貧相な褒め言葉だな、兄上!」
「なにを!」
馬鹿にするようなロキの言葉に、ソーも言い返そうとすると。
「ほら、ふたりとも喧嘩はおやめなさい!」
「ロキが先に言ってきたんですよ!」
「私は事実を言ったまでだ」
「お前!」
「もう!ロキもソーを煽らないで、ソーもロキの煽りに乗るんじゃありません!」
母に叱られたソーとロキは、お互いそっぽを向きながらむっつりと黙り込んだ。そんなふたりを見比べて、呆れたように息をつく母が言う。
「ふたりに取りに行ってもらいたいものがあるの」
「……ふたりで?」
「私はひとりで行けます!」
「ああロキ、貴方ひとりで行くのは危ないでしょう?」
「じゃあ俺ひとりで行きます!」
「ソー、取りに行ってもらいたいのは魔法薬なの、しかも取り扱いが難しいものなんですよ」
母は笑顔で、そして有無を言わせないように言った。
「だから、ふたりで取りに行ってきてちょうだいね?」
「どうして私がこんな格好をして町まで行かねばならないのだ……」
「お前がイタズラしようとしてたからだろ」
「うるさいな」
「しかも失敗してる」
「うるさいな!」
ソーと、弟、もとい今は妹になっているロキは、ふたり仲良く並んで歩いている。
「おいソー、そんなに早く歩くな、こっちはドレスにヒールで歩きづらいんだ」
「そう言われてもな、そんなにノロノロ歩いてたら夜になるぞ」
「はぁ、ソーにエスコートされるレディには同情するよ、こんな思いやりの欠けらも無いガサツ男と並んで歩くなんて、しまいにはソーに引きずり回されるな」
「なんだと?」
仲が良さそうかは置いておいて、ふたりは並んで言い合いながら歩いている。
母からのお使いを頼まれたふたりは、比較的簡素な服装を身にまとい、目立たぬように町へとくり出した。お使いの行きがけに母から言われた、決して喧嘩をしないこと、という言いつけを守り、お互い軽口を言いながら歩みを進めている。
「それにしても」
「なんだ」
「なんでまたそんな姿になろうとしたんだ?」
「はぁ?さっき言ったろ」
「いや、どんなイタズラするつもりだったんだ?」
「私が言うと思うか?」
「どうだろうな、素直な弟なら教えてくれると思うが」
「残念だがここには素直な弟は居ないんだ、なにせここにはか弱い少女しか居ないからな」
「自分で言うか?」
笑いながら軽口を叩き合うふたりは、目的の魔法薬の店へとたどり着く。こじんまりとしたその店の中に入れば、壁一面には薬棚が並び、天井にも薬草のようなものが吊り下げられている。
店主らしき男がいるカウンターへとロキが向かい、その男に頼まれたものを引き取りに来たと話している間、手持ち無沙汰なソーは、なにとはなく棚や吊り下げられたり積み上げられている薬草を眺めていた。
「おい、下手に触るなよ、何か壊されたりしたらたまったもんじゃないからな」
「分かった分かった……」
ロキの小言を聞き流しながら、奇妙な植物にちょっかいをかけるソー。ちょいちょいと突くと、いくつかの植物の実がポトポトと落ちていったので慌ててその場を離れるソー。
ふと、店主とロキを見やれば、ちょうど店主が小さな小瓶をロキに手渡しているところであった。だけれどなんだか様子がおかしい。ロキに小瓶を持たせた店主は、なんだか熱心にロキの両手を握り、目をギラつかせて何かを話しかけているよう。そんな店主にロキは愛想笑いを浮かべつつ、その目は静かに怒っていた。
ソーはそっとロキの横に着くと、軽くロキの肩に腕を回し、店主をじっと睨んだ。
「それが頼まれてた薬とやらか?」
「え、ええ……」
「じゃあ帰るぞ」
「いやまだ……」
「なんだ?」
ソーの睨みに怯んだ店主を後目に、ソーはロキの肩を抱きながら店を出る。店から出るやいなや、ロキは肩に回ったソーの腕を乱暴に振り払った。
「離せ!」
「うわっ、なんだよロキ!」
「よくも、私を女扱いするな!」
「女扱いって、今は女だろ……」
「だからってあんな、あれくらい私ひとりで対処できる!」
「対処って、魔法か何かで痛めつけるつもりなんだろ、母上の使いの途中で騒ぎを起こすつもりか?」
「何も今やらなくたっていい、日を改めて、じっくり準備をして……!」
「あーはいはい」
きゃんきゃんと叫ぶロキの言葉を流しながら、ソーはロキの腰を掴んでは王宮への帰路を進む。
「ソーが邪魔をしなかったら今頃あいつをカエルにでもしていたのに」
「わかったわかった」
ぶつぶつとソーへの文句を言いながら、ロキは腰に回ったソーの手を払うことなく、ソーに寄り添うように歩いている。そんなロキを横目に、ちらりちらりと周囲を伺うソー。
行きは気が付かなかったが、先程の店主の態度を見てからというもの、受ける視線がいつもとは違うことに気がついた。特に、ロキへの視線が、いつもとは違うようで。
「どうした兄上?」
「いや……」
ソーもロキも、普段から人目を引くのだが、今日のロキへの視線は何かが違う。誰かがふたりとすれ違う度に、ロキを上から下まで値踏みするように見るのだ。ソーがその相手をじっと見れば、気まずそうに視線を逸らすが、通り過ぎたあとも後ろから視線を感じる。
このまま町の中をうろついていれば、何かトラブルに巻き込まれるやもしれない、ソーはそう思い、足早に王宮へ戻ろうと思ったのだが。
「あっ、町に来たんだからついでに寄りたい所がある、古書店に行くぞ兄上」
「お前な……」
ロキは自身の腰に回っているソーの腕を取ると、グイグイと王宮とは違う方向の道へと引っ張った。
「ほら、行こう兄上」
「駄目だ、このまま帰るぞ」
「どうして、少しくらい良いだろ」
「駄目だ」
ロキがソーの腕を引っ張るも、ソーは頑として動かない。そんなソーにロキは頬を膨らませ、ツンとそっぽを向いた。
「わかった、私ひとりで行くからソーは先に戻っていればいい」
「それも駄目だ、お前も早く帰るんだ」
「嫌だ!せっかく町まで来たんだぞ!」
嫌だ嫌だと駄々をこねるロキに、ソーはガシガシと頭をかきむしり、仕方がないなと息をついた。
「行くのは本屋だけだからな」
「わかってるって、早く行こう!」
「……こういう時だけ調子いいよな」
ウキウキでソーの腕を引くロキに引きずられるがまま、ソーは町の古書店までやってくる。ロキの行きつけだろうこの古書店もまた、こじんまりとしていて、店の中には人ひとり通れるくらいの幅しかなく、店の中も壁一面も、大小様々な本が詰められた棚ばかり。
ルンルンでその店に入っていくロキに向かって、ソーは外で待っていると告げるも、ロキがその言葉をちゃんと聞いているのかは定かではない。
「まったくロキときたら……」
店の外で腕を組みながらロキを待つソー、こんな時のロキは出てくるまでに時間がかかって、ソーも暇を持て余す。かといってソーも一緒に店に入れば、やれその本に触るなだの、やれ棚を倒すなだの小言ばかり言われてしまうし、ソーも読みたい本などないので店の外にいようが中にいようが、暇は持て余すのだ。
イライラとロキを待つソー、普段であれば、町娘のひとりやふたりから声をかけられるものだが、今日のソーは気が立っているせいか、誰もがソーをそっと避けている。そんなソーの耳に、なにやら言い争うような声が聞こえてくる。
そっと、その騒ぎの方へと近づいていけば、なんだか見覚えのあるもえぎ色のドレスと、数人の男たちが。
「おい!離せ!」
「痛った!?コイツ!ちょっと話しようって言っただけだろ!」
「やっ!この!」
古書店の中にいるはずのロキが、男たちに絡まれている。男たちに腕を捕まれ、それを振り払おうと必死にもがくも、今は華奢な少女であるロキは振り払えず、どこかへと引きずられそうになっている。
そんなロキを前に、ソーの中の苛立ちがピークに達した。
「ロキィ!!」
「ひゃっ!」
ソーの言葉にロキが思わず飛び上がる。
ずんずんと、足音荒くロキと男たちの方へと歩くソー。ロキの周りの男たちを突き飛ばしなぎ払い、ロキの細い腰を掴むと、ぐいと思い切り引き寄せる。
「な、なんだお前!」
「こいつの連れだ」
ギロリと男たちを睨みつけるソー、そんなソーの圧に、男たちも腰が引ける。
「お前たちこそ、こいつに何の用だ」
「いや、別に……」
「ならば去れ」
ソーの言葉に、男たちは散り散りになっていく。
そんな中ロキは腰に回されたソーの手を引き剥がそうと躍起になっていた。
「このっ!離せ!離せってば!」
「ロキィ!行くのは本屋だけって言ったよな、他に行きたいところがあったとして、どうして俺に言わなかった!」
「……」
ソーの言葉に、どこかきまりが悪そうにするロキ、そんなロキにソーの語調も荒くなる。
「俺から隠れて出ていって、それで直ぐに絡まれて、お前は危機感というものを持ってないのか!?」
「……いつもだったらあんな奴らに遅れなんて取らない!」
「今はいつもと違うだろう!!」
「だったらなんだよ!」
大声で言い合うふたり、お互い睨み合いながら、ふいとソーは視線を外す。
「帰るぞ」
「……」
ソーはロキの腕を取り、王宮への帰路をゆく。その道すがらのふたりはむっつりと口をつぐんだまま、足早に歩いている、そしてソーは少しだけ、ロキを気遣いながら。
王宮に帰ったふたりは、どこか気まずい空気のまま母の元へ行き、頼まれていた魔法薬を渡した。
「これが引き取ってきた魔法薬です」
「まあ、ありがとうふたりとも、大事はなかったかしら?」
「ええと、特には」
「つつがなく」
「そう、それなら良かったわ」
嬉しそうな母の表情に、ソーとロキは顔を見合せ、そして小さく笑った。
母の部屋を辞した後、ふたりは連れ立って回廊を歩いている。
「まったく、お前にはいつも肝を冷やされるよ、イタズラしてないと思えば、何かトラブルに巻き込まれてるんだから」
「好きでトラブルに巻き込まれてるわけじゃない」
「本当か?」
「トラブルに巻き込まれたがる奴なんている訳ないだろ」
「にしても、お前いつまでその格好なんだ?」
「えっ?」
ソーはちらりとロキを見る、帰ってきてからも、ロキは華奢な少女のままである。
「明日には元に戻ってるけど」
「そうか」
「なに?この姿が気に入らないの?」
ロキはくるりとソーの前に出ると、腰に手を当てて仁王立ちする。
「母上は可愛いって褒めてくれたけど?」
「いや、可愛いとか可愛くないとかじゃなくてな」
「じゃあなに?」
「なんと言うか、落ち着かないというか、慣れないというか」
ソーの言葉に首を傾げるロキ、そんなロキの首にそっと手を寄せるソー。
「首もこんなに細くて、腕も、腰も、なんだかいつものロキと違うから勝手がわからん」
「ふ、なにそれ」
ソーの言葉に、くしゃりと笑うロキ。そんなロキの頬にキスを落としながらソーが言う。
「俺はいつもの、弟のロキの方がいい」
ソーとロキのお使いから数週間後、王宮の中はにわかに賑やかになっていた。何を隠そう、今日はソーの誕生日だからだ。大広間では多くの来賓を招き、沢山の料理に酒に、盛大にソーの誕生日を祝っている。
そんな中主役たるソーは、今日のために新調された鎧を身にまとい、楽しそうに皿やグラスを空けている。
そんなソーも宴が進むにつれ、酔いが少し回ってきたのか、外の空気を吸おうとバルコニーへ向かう。外の涼しい空気を胸いっぱいに吸い込み、体の熱を少し発散する。
そんなソーに声がかかる。
「あの、ソー、さま」
「ん?」
声の方を向けば、そこには月の光に輝くような金髪に、深い海のような碧い瞳で、そしてとてもグラマラスな女性が、何かを手に立っている。
「どうかしたか?」
「えっと、お誕生日のお祝いに、これを……」
そうしてその女性がソーに渡したのは、青い石が嵌め込まれたシンプルなバングルである。
ソーはそのバングルを受け取りながらも、渡してきた女性をまじまじと見て、そして言った。
「お前、ロキか?」
「えっ?」
「ああ、ロキか」
「ふふ、ご冗談を……」
笑いながら否定する女性に、ソーは首にそっと手を当て、女性のこめかみに素早く軽くキスを落せば、驚いたような声が上がる。
「ひゃっ!」
「はは、やっぱりロキか!」
「何を言って」
「この目、お前の元の目に戻ってるぞ」
「え、そんなハズが……」
ソーの言葉に、顔に手を当て困惑したような顔をする女性に、ソーはにんまりと笑った。
「嘘だ、何も変わってないぞ、ロキ」
「……カマをかけたな」
「カマをかけようがなにしようが、もうバレてたけどな」
「ソーの癖に、やるじゃないか」
「バレておいて偉そうだな?」
軽口を言い合いながら、お互い顔を見合わせれば笑い出すふたり。
「どうして私だってわかった?」
「あー、なんと言うか、空気?」
「空気?」
「匂いというか」
「匂い?そんなので分かるのか?野生動物みたいだな……」
「おい」
「はは、冗談だって」
じろりと睨むソーの肩を叩きながら笑うロキに、ソーも肩をすくめる。
「それにしても、これどうしたんだ?」
「バングルだよ、私がまじないを込めた」
「そうじゃなくて、こんなのいつ用意してたんだよ」
「この前、一緒に町に行ったろ、その時」
「この前って、あのお前が女に化けてた時?」
「なんか嫌な言い方だけど、まあその時」
「あの時にこんなの買う暇なんて、あー」
数週間前のお使いを思い出すソー、そしてロキが男たちに絡まれていたことも思い出す。
「これを買おうとして絡まれたのか……」
「なんだよ」
むくれたような顔をするロキに、ソーも呆れてため息が出る。過ぎたことはしょうがないとはいえ、ソーが気がつくのがもう少し遅ければどうなっていた事か。
「俺に何か一言でも言えばよかったのに」
「ソーのプレゼント買いたいから待っててって?」
「いやまあ言い方はあるだろうが……」
小さな頬を膨らませて拗ねるロキに、その頬を突いてぷひゅうと空気を抜くソー。
「なにひゅる!」
キッと見上げるロキの、その瞳はいつもとは違い、碧く、その声もいつもよりも高い。
「なあ」
「なんだよ!」
「なんでそんな姿で、俺に渡してきたんだ? 」
ソーの言葉に、ロキはぐっと言いよどみ、ちらちらと視線をさまよわせ、そして小さな声で話し出す。
「こういう姿の方が、ソーが喜ぶと思って」
「ええっ?」
「ソーだって、可愛げのない弟より、可憐な少女とか、美女とかからもらった方が嬉しいだろ」
どこか不貞腐れたように言うロキに、ソーは深い深いため息をついてしまう。
「なんだよ!」
「ロキィ、今日もすぐには元の姿に戻れないのか?」
「ふん、馬鹿にするなよ、練習したから簡単だ」
ロキはそう言うなり何かを唱えると、しゅるしゅるといつもの弟の姿に戻っていく。
金色だった髪も烏の濡れ羽色に、碧い瞳も煌めく翠の瞳に、そしてその目線が、ソーと変わらない高さにまで戻っていく。
「ほら、どうだ!」
「おー、すごいすごい」
「……欠片も心がこもってない」
「はは」
やる気のないソーの言葉に、眉根を寄せるロキ。そんなロキの首に、ソーは手を当て引き寄せ、可愛くない弟の頬にキスを落としては言うのだ。
「知らない誰かからより、可愛くない弟から貰った誕生日プレゼントの方が、遥かに嬉しいって、なんで分からないんだ?」