今はお昼休み、真唯は今日はお仕事をで学校をお休み、紫陽花さんと紗月さんは購買へお昼を買いに行っている最中、つまり今教室の席にいるのはわたしと香穂ちゃんだけ。
「これ何かわかる?れなちん」
香穂ちゃんがおもむろに栄養ドリンクのような小瓶を見せながら聞いてきた。
「え?なんだろう。普通の栄養ドリンクじゃないの?」
「ふっふっふ、これね実は惚れ薬なんだよね」
「惚れ薬!?」本当にそんなもの実在してたんだ。漫画とかアニメの中だけのものだと思ってた。
「そんなものどこから見つけてきたの?」
「なんか怪しい露店で売ってた」なんとも怪しさ満点だ。
「香穂ちゃんはそれ誰かに飲んでもらうつもりなの?」
「いやー面白そうだなーって思って買ってみたはいいんだけど使い道はないなーって感じだから誰かにあげようかと思ってね。というわけでれなちん惚れ薬使ってみない?」
「いや~、わたしも使う相手とかいないかな。」
別に惚れて欲しい相手がいるわけじゃないし。友達になれる薬とかだったら少しは興味あったけど・・・
「まあそうだよねー」
「てっきり香穂ちゃんは王塚さんに使うのかと思ってたけど」
「マイマイに使ってみようと思ったんだけど、もしこれが本物の惚れ薬だったとしてもマイマイには効かなそうじゃん?」
「それは・・・そうだね」
王塚真唯ならば毒の一つや二つ耐性を持っいぇいてもおかしくはない。なぜなら王塚真唯だから。
「わたしちょっとトイレ行ってくるね」そう言いながら席を立つ。
「あたしも行くー」
香穂ちゃんは惚れ薬?を机に置き、紫陽花さんと紗月さんが戻ってくる前に二人でトイレに向かった。
**
トイレから戻ってくると紫陽花さんはメロンパンと牛乳、紗月さんはおにぎりと栄養ドリンクを買って戻ってきていた。
「二人とももう戻ってきてたんだ。」
「そういう甘織と香穂はどこ行ってたの?」
「ごめんちょっとお手洗いに」
「そう」そういうと紗月さんは空になった小瓶を見せてきた。
「あーごめんなさい香穂。これ取り間違えて飲んじゃったから、代わりに私の買ってきた栄養ドリンクあげるわ」紗月さんの手には特にラベルも張られてない小瓶。
『え!?』
香穂ちゃんと私の声が重なった。
「これ、何か大切な飲み物だった?なら代金を払うわ。」でもラベルとか張られてなかったから非売品のものだったかしらと紗月さんは心配している。
「だ、大丈夫だよサーちゃん!うん!全然問題ないから弁償もしなくていいよ!」
「それより紗月さん大丈夫?体何ともない?」
「え?ええ特に異常ははいけど・・・え?これそんなにヤバイ代物だったの?」
今度は別の心配を始める紗月さん。
「えっとそれは香穂ちゃんが買ってきたムグゥ・・・」
「それ市販品のサンプルだったから味とか心配だったんだよね!ねっ!れなちん!」
香穂ちゃんがわたしの口を押さえながら答える。というかさらっと私を巻き込んだな。
「・・・そう。あんまりおいしくはなかったけど変な感じはしなかったわよ」
この様子を見るにやはりジョークグッズか何かだったようで紗月さんが誰かに惚れたりする気配はなさそうだった。
**
「甘織今日は一緒に帰りましょう」
「うぇ!?」
放課後真唯がいないので今日は早々に解散となった後。紗月さんからこえをかけられた。どういう風の吹き回しだろうか。というかなんか予定とかしてましたっけ?
「嫌なの?」
「いやいや、滅相もございません」
なんだろう今の紗月さんはいつも以上に目付きが鋭い気がする。というか鋭すぎて怖いレベルなんだけど。
「そう、なら一緒に帰りましょう」
「はい」
余りにも鋭い目付きで見られるものだからわたしは蛇ににらまれたカエルのように知事困りながら返事をするしかなかった。
校門を抜けたあたりで不意に紗月さんに手を握られた。
「何事!?」
「別に繋ぎたいと思ったから繋いだだけなのだけれど?」
「いや、本当に何事!?」
どうしたのだろう。紗月さんがまるで真唯みたいなことを言い出して・・・
「あの紗月さんつかぬ事をお聞きしますが、今日のこの後のご予定は?」
「甘織と一緒に家に帰って・・・そうね甘織と結婚するわ」
「ヒィ!?」
惚れ薬の効果が出てる。というかなんでわたしに惚れてるんだ!
家に連れ込まれることに恐怖を覚え手を振り払おうとしたけどびくともしない。
え?なにこれわたしの手は石にでも挟まれてるの?
「甘織暴れないで頂戴」
「いやいやいや、ムリだから、結婚するとか言って言う人の家に行くのは流石にムリだから!」
元引き籠りが出せる最大限の力で抵抗するけど全く抜け出せない。それどころかより密着するように体を寄せられつつある。
「愛しているわ甘織」
「ヒィ!?」
「前からあなたと付き合うことで王塚真唯の悔しがる顔が見られるところに魅力を感じていたの」
「それは魅力じゃないだろ!」
わたしの魅力というより舞のウィークポイントというだけでは?というかいくら惚れる要素がないからってそんなところを魅力に感じないで欲しい。
紗月さんが余りにも力を込めて腕をつかんでいるおかげでわたしの腕が曲がっちゃいけない方向へ曲がりだしていた。
「紗月さん歪む!歪むから!」
「大丈夫よ甘織、例えあなたの愛が歪んでいたとしても私は甘織を愛していけるから」
「関節が歪むって話をしてんだよぉ!!というか愛が歪んでいるのは紗月さんの方でしょ!」
なんなの?芦ヶ谷高校の美女って恋愛をするとアホになる病気かなんかなの?
「別にそんな病気にはなっていないわ」
あ、惚れ薬飲んでも心は読めるんだ・・・
ハァ・・・とい紗月さんはため息を吐きながら拘束していた私の腕を解放した。
良かった関節がおかしくならずに済んだ。
「甘織」
「はい」
「甘織はもう少し自分の魅力に気づいた方がいいわ」
わ、わたしの魅力?なんだろう元陰キャでコミュ障のわたしに魅力的なところなんてあるのだろうか・・・
「思いつかなかったわ甘織、ごめんなさい」
「自分で言い出したんだから、せめてもう少し考えてよ!!」
そんな行間三行のうちに諦めないで欲しかった。
「大丈夫よ甘織、あなたは優しい子だわ」
「それ特筆することない小学生が通信簿に書かれるやつだからね!!」
「でも。優しいだけじゃ食べていけないのよ甘織」
「せめて褒めろよぉ!」
そんなこんなしているうちに紗月さんの住むアパートについてしまった。
紗月さんはアパートの『琴』と書かれた表札のついているドアを開けわたしを中へ招き入れた。
「ただいま」
「お、おじゃまします」
前回は恋人(仮)として来たのだけれど今回はどういう間柄できたことになるんだろう?友達?恋人?
というか前回紗月さんの家に来た時に色々なことがあったし今は二人っきりだし惚れ薬を飲んで多少おかしくなっていたとしても紗月さんは美人だしで妙に意識してしまう。
紗月さんに座布団を渡されちゃぶ台の前にちょこんと座った。
「さて、勉強するわよ甘織」
「え?この流れで?」結婚するとか言っておきながら?
「私言ったわよね。私と付き合うなら学年で成績十位以内に履いてもらわないと困るって」
確かにそんなことを言われていたような気がする。
「つまり甘織の成績が悪いままだと私たちは付き合えないのよ。」
「いや、別に付き合わないけど」
「この前のテストでは点数が上がってたみたいだし、もっと頑張れば私と付き合えるわよ甘織」
「いや、別に付き合わないけど」
「成績が上がれば親御さんも喜ぶし一石二鳥ね甘織」
「このゴリ押しのされ方はなんか真唯っぽいなぁ」
紗月さんの表情が固まった。
「・・・・・・・・付き合うとか付き合わないとか間柄にこだわるのは良くないわね。」
真唯っぽいとかそういう意味合いの言葉は紗月さんにはよく効くらしい。覚えておこう。
「次あいつっぽいとか言ったら甘織の関節を外すわ」
覚えておいても次に使うことはなさそうだ。
「くだらないこと話してないで早く勉強を始めるわよ」
「はい」
カバンから教科書類を取り出し二人で勉強を始めた。
**
「あの、紗月さんこれ勉強しづらくない?」
「そう?私は気にならないけど」と紗月さんの声が私の後ろから聞こえた
現在なぜか紗月さんの前にわたしが座り後ろから抱きかかえるようにして紗月さんが座っている状況になっている。
二人羽織みたいな状態で勉強しているのは効率がいいとは言えない。というかこんなに密着していると色々意識しちゃって全然集中できないんだけど・・・
「甘織もう少し小さくなれない?頭が邪魔なんだけど」
「気にしないって言ったのに!?」
「私は後から勉強するから甘織が問題解いてわからないところあったら教えてあげるわ」
紗月さんは自分用の教科書を閉じわたしの頭の上に顎をのせてきた。ちょっと重たい。
「この体勢をやめるってことにはならないの?」
「ならないわ」
紗月さんって一度そうと決めたら絶対に譲らないところがある気がする。
結局紗月さんに顎を載せられ後ろから抱かれながら(いやらしい意味ではなく)というよくわからない体勢のまま勉強を続けることになった。
この体勢わからないところがあれば、すぐに教えてもらえるし直にみられているのでサボることもないのでいい勉強法なのかもしれない。頭重いし体密着しているせいで全然集中できないけど・・・
「・・・・・・今日は悪かったわね甘織」
「え?急にどうしたの?」
数学の問題を解いている途中で急に誤られてしまった。
「・・・あまりにも誘い方が強引だったから」
「それはまあそうでしたけど」
「どうにもお昼を食べたあたりから変なのよね」
「いや・・・それは・・・」
「何か知ってるの?甘織」
「いや・・・ええっと」
結局黙っていることに耐えきれなかったので事の顛末を正直に話した。
「はぁ・・・そういうことだったのね」
「すみません刑事さん」
「別に謝ることないわよ。結局間違えて飲んだ私が発端なわけだし」
「いや、でも黙ってたから」
「香穂に止められてたけど一応最初に教えてくれようとはしてたでしょ」
「あ、気づいてたんだ」
「無理やり口抑えてたんだから何か言おうとした事を止めたってすぐわかったわよ」
はぁーと紗月さんは溜息を吐いた。
「今日は色々あって疲れたし、これ以上惚れ薬のせいで何かしでかすのも嫌だから今日は解散にしましょう」
スマホを確認すると紗月さんの家に来てから結構時間が経っていた。
「そうだね。えっと今日は勉強を見てくれてありがと」
「誘ったのは私だし別にいいわよそれぐらい」
「じゃあ、また学校で」
「ええ」
荷物をまとめお邪魔しました~と紗月さんの家を後にした。
**
甘織が帰ったその日の夜布団の中で物思いにふけっていた。
甘織に感じていた感情が惚れ薬の所為だと知った時に妙にショックを受けてしまったのだけど、なにがショックだったのかイマイチわからなかった。
甘織の前で変な言動をしていたことによる恥ずかしさだろうか?
それとも甘織を巻き込んでしまったことへの罪悪感だろうか?
はたまたこんな状況に陥ってしまった情けない自分への嫌悪感だろうか?
どれもしっくりくる答えではない気がする。
なにかこう残念だったというかうまく表現できない不思議な感覚をかけたままその日は眠りについた。