目を覚ました義勇は、まず自分がどこにいるのかを周りを見回すことで確認しなくてはならなかった。
 風柱邸の中庭に面した縁側で、ふかふかした座布団の上で、秋晴れの陽光を存分に浴びながら寝ていたのだと把握したが、寝た時は不死川の布団の中だったはず……と困惑した。
 ずがっと固いものが割れる音がして、耳が勝手にそっちを向く。それを追って首を回せば、稽古用の木偶を木刀で真っ二つにした男が次の一体をずたずたにするところだった。
 不死川が振るう技は、風というより嵐のようだ。荒々しいが、無駄が全くない。
 体格に恵まれていて、同年代の平均的な体躯の男よりも背丈と四肢の長さがあるぶん、そこに風の呼吸の技と柱としての擢んでた身体能力が上乗せされれば、日輪刀が届く範囲も通常より格段に広くなる。身軽に見えて、あの筋肉量だ。自重を自在に制御できるだけの膂力があるのだと、同じく柱である義勇にはわかる。
 吹き飛ばし、叩き割り、抉り削いで、切り刻む。そうやって木偶をすべて壊してしまうと、もくもくとそれを片付け、新しく木偶を持ってきて設置し、脳内で「次はこういう場面で」と想定しているらしく位置を修正すると、また木刀を構えて技を繰り出す、その繰り返し。
 新米だろうと柱だろうと、こういう基礎的な修練をしているのは変わらない。一般隊士と異なるのは、やっている量と集中度だ。
 鎌鼬のような、と称するには厚みのありすぎる斬撃で木偶が木っ端になる。とんでもなく荒々しい攻撃でありながら、不死川の体捌きと腕の振りには無理な力が入っておらず、力任せに暴れてすぐに疲れてへばるようなやりかたはしていなかった。
 呼吸術にも、相性がある。
 義勇の弟弟子は、本来なら水以外の呼吸が体に合っていたのではないか、と思わせるところがあった。甘露寺蜜璃は煉獄杏寿郎を師範と仰いで修業に励んだが、炎の呼吸ではなく恋の呼吸なるものを編み出してしまった。音も蛇も霞も蟲も、派生して成った呼吸である。
 凪を編み出した義勇は、幸いなことに水の呼吸が体に合っていた。
 独自の技を増やしたりはしていなくても、今の不死川を見ていれば彼も風の呼吸と相当に相性がよかったのだろうと思う。
 体に合った呼吸を鍛錬と実戦で叩き上げ、磨きぬいて、柱になるほど極めれば、こうも壮絶な美しさに仕上がるものなのか、と感服するほどだった。
 下弦の鬼を倒して柱になったばかりの不死川に、ひとりで斬ったわけじゃない、もうひとり同門の兄弟子だか友人だかが一緒にいて、ふたりで仕留めたのだからあいつは柱に相応しくない、と陰口を叩いた隊士がいたのを思い出す。
 あの隊士がまだ生きていて、今の不死川を見ても同じことを言えるとは思えない。不死川実弥は名実ともに風の柱だった。
(俺とは違う……)
 眩しいものを見る心地で見入っていたら、その視線に気がついたわけでもないのだろうが、不死川がふとこちらを見て義勇と視線が合った。
「おう、起きたか。腹ァ減ってるだろ。ちっと待ってなァ」
 打ち倒した木偶をぶん投げて片付けた男が、木刀を片手にどこかに行ってしまう。外から回りこんで厨房に行ったのか、と察しがついたが、稽古中なのに自分の世話をするために中断させてしまったのだと思うと、申し訳ない気持ちになった。
 ちょまっと行儀よく座布団の上に座ってじっとしていると、とすとすと床板を踏む足音がして何やら色々と抱えている不死川がやってきた。
「これなら食えそうかァ? 水はこっちに置いとくぜ」
 小皿に盛られているのは、米が原型を留めないほど念入りに潰された米を味噌汁でゆるゆるに溶いたもののようだ。猫になって嗅覚が鋭くなった義勇には、乳粥の匂いが生臭く感じられて口をつけられなかったのだが、出汁と味噌の香りはものすごくおいしそうに感じられて、ありがたくむちゃむちゃと食べ始めた。
 本物の猫ならば乳粥も食欲をそそる匂いに感じられたのだろうが、残念なことにこういう感覚は人間寄りなようで、せっかく作ってもらったのに、今朝のあれは無駄にさせてすまないことをした……と内心でしょんぼりする義勇である。
 体が小さいので、小皿によそわれた程度の量でも完食すると満腹になった。小鉢に入っている水もありがたく飲んだが、やはり舌で掬って飲むというのが難しくて自分の顔だけでなく廊下までびたびたに濡らしてしまった。
「くっはは……! おまえほんっとへたくそだなァ」
 可笑しげに笑って、不死川が顔と床を拭いてくれる。すまない、と言ったつもりで口を開くと、そこから出たのは「にぁ……」という高くて短い鳴き声だった。
「よォし、食って飲んだら、次は出すもん出さねェとなァ」
 ごとん、と置かれたのは文箱くらいの大きさの木の箱で、中に白い砂が敷かれていた。何をするのだろうかと首を傾げていると、不死川は持ってきておいて中身を飲もうとしていなかった湯呑の口に手拭いを当て、軽く傾けて水を含ませてから片手でひょいと義勇を持ち上げた。
 嫌な予感がしたが、義勇は動物を飼った経験がなかった。なので、箱の上で不死川に持ち上げられたまま濡れた手拭いで足の間をつつかれるという恥ずかしい目に遭って驚いたし、尿意はあるが別に切羽詰まっているほどでもなかったのに、水ではなくぬるま湯で湿った布で舐めるように触れられている刺激のせいで急に我慢ならなくなったかと思うと、ちょぼちょぼと小水が箱に敷かれた砂に降り落ちる音が聞こえてそのまま往生しそうになった。
 二十一にもなって、仔猫の姿になっているとはいえ、不死川に下の世話をされている。
 恥ずかしいどころの話ではなかった。本気で死にそうな心地になって、なんとも情けない声が出た。
 しかも、不死川は「よしよし、いい子だァ。こっちも頑張れよォ」と肛門まで刺激してくるのだから、義勇にしてみれば「鬼か貴様」と言いたくもなる。
おっと10分超過してしまったので、本日はこのへんで終わりにします。
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向き
仔にゃんが風柱の乳を吸う話2
初公開日: 2021年02月25日
最終更新日: 2021年02月26日
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