マリオ、オリビア、ボム平がOEDOランドに到着した時の話
マリオさんが普通に喋るよごめんね
「ここがOEDOランド……。さぁ、思い切り遊びますわよ!」
入口―と言ってもほぼお城の門だ―を見上げ、オリビアが意気揚々と叫ぶ。モミジ谷から追ってきた青カミテープはここ、OEDOランドに向かって伸びていた。そこの遥か奥に見える天守閣のような建物に、ぐるぐると巻き付いている。
「…いや、もう、遊ぶって言ってるじゃないすか…」
いくらここがテーマパークだったとしても、勿論、遊びなんて二の次。一刻も早く青カミテープまで辿り着き、そして恐らくはそこにいるであろうオリーの手下(彼らに言わせれば、ブンボー軍団なのだそう)を倒さなければならないのだ。しかしオリビアは初めて見る、とある国のとある時代の城下町を模したテーマパークに最早わくわくが止まらない。何ならもう、急流下りの最中から楽しみにしていたくらいだ。はしゃぐオリビアにミハラシ山からカミテープを追う旅に同行しているボム平(…は、彼女の言い間違いで、本当はボムへいなのだがオリビアは何度訂正してもボム平さんと呼ぶ。彼ももう諦めた)がツッコミを入れた。
「ね、アニキ。アニキも、一刻も早く青カミテープを取っ払いに行くべきだと―……」
思うっすよね。そう言おうとしてボム平は閉口した。ん、何だ?と振り向いたマリオは既に券売機(だろう、多分)で入国手形を購入しているではないか。しかも高額の「お大名手形」の方を。何度でも入場可能な、年間パスポートのようなものだ。それを見た瞬間、ボム平は悟った。―嗚呼、この人も遊ぶ気満々じゃないか、と。
「ボム平。冒険は時に過酷で、辛いものだ。“思い出作り”も、楽しい事ばかりじゃないんだぞ」
「あ、ハイ。当然、邪魔してくる敵もいるっすよね。それは勿論心得て…」
「だからこそ、時に休息も大事だと、俺は思うんだ」
「つまり、ここで遊ぼうって魂胆っすよね」
お大名手形まで買ったのだ、最早「遊ぶ」以外の言葉など単なる言い訳にしか聞こえない。青カミテープ「だけ」が目的なら、入国手形だって「町人手形」の方でいいはずなのだ。…まぁもしかしたら、青カミテープ以外にも回収しなければならないものがあるのかも知れないけど?そんなものだって、あとから取りに来ればいいのだ。全てが終わり落ち着いた頃に「お大名手形」を買って、OEDOランドを満喫すればいい。ただそれだけ。
「早く、ボム平さん!OEDOランド……いえ、青カミテープがわたしたちを待っていますわよ~!」
「どんなアトラクションがあるか楽しみ…いや、どんな敵が待ち受けているのか…!」
「2人とも、最早隠す気なしっすね」
ちゃんと真面目に青カミテープへ続く道を探そうと言ったって、もう2人とも聞いてくれないに違いない。今の2人は、遊び8割、と言ったところか。
「……こんな事していていいのかなぁ、オレは…」
遊んでいる場合じゃない気がする。何となくだけれど、ボム平はそんな「不安」を抱いていた。何か、とっても大切な事を忘れている気がした。
「そんな~!OEDOランドを満喫できないなんて~!!」
「くそっ、やっぱり青カミテープが先決か!」
「いやいや、当たり前でしょ……」
青カミテープあるところに敵軍の侵略あり。OEDOランドの内部はそりゃもう酷い有様で、命からがら逃げ出した場内のスタッフから事情を聞いて、マリオたちは遊ぶより先にOEDOランドの修復と青カミテープの回収を余儀なくされた。あちこちスカスカ穴だらけで、そもそも数あるアトラクションの入口に入場する事すらできないのだ。OEDOランドを楽しもうとしていた2人は露骨にがっかりした様子で、OEDOランドを修復すべく場内を歩き回っていた。そもそもOEDOランドに立て籠る敵が、素直にマリオたちを歓迎してくれる訳がない。
「…あ、釣り堀発見」
「アニキ。ヌシ釣りはあとにして下さいよ?」
どこかでヌシを釣るために時間を掛けていたらしい事はオリビアから聞いていた。そこに近付こうとしたマリオは、ちぇ、と残念そうに桟橋から離れる。
「ボム平、真面目だなぁ。ちょっとは肩の力抜けよ」
「……真面目とか、そういう事じゃないんすよ」
ぽつり、とボム平が足を止める。
「オレ、記憶喪失だって言ったっすよね」
「ああ、確かに」
でもこれからの思い出を冒険の中で作っていくんじゃなかったっけ?とマリオは首を傾げる。
「それはそうなんすけど。…だけどオレには、思い出さなきゃいけない事がある気がするんすよ。こんな事している場合じゃないって。オレにとって大切な事のはずなのに、思い出せない。何が大切だったのか、それすらも分からない」
「…ボム平」
茶化していい話では、決してない。だからこそマリオも黙り、次の言葉が見つからずにいた。
「……」
2人の間に沈黙が流れる。マリオが困っているのを見て、ボム平は素直に心情を吐露した事を後悔した。嗚呼、言わなきゃよかった。ただでさえ「記憶喪失」である時点でマリオたちに気を遣わせているのに、これでは余計に、敬遠される。2人はお互いに閉口したままだった。…2人?
「マリオさ~ん!ボム平さ~ん!」
向こうからオリビアが駆けてきた。今までどこに行っていたのだろう。ぼんやりと顔を上げたボム平の頭に何かがすっぽりと被せられる。
「え!?何すか、これ!?」
「何って、“おマゲ”ですわ~!さっきマリオさんが直した写真館にあったので、ボム平さんに似合うと思って持って来ちゃいました!」
「……って、持ってきちゃだめじゃないすか!」
返しに行くっすよ、とボム平はオリビアを引き摺って写真館へと赴く。その顔を見て、マリオは確信した。
「…何だかんだで、ボム平も楽しんでいるんじゃないか」
「楽しんだっていいのですわ、ボム平さんだって」
「…え?」
舞台上のマリオに声援を送りながら、ふと紡がれた言葉にボム平はそちら―オリビアの方を見た。
「記憶喪失、わたしにはどんなものか想像も尽きません。…きっと、わたしが思うより大変なんですよね。でも、大切な事はちゃんと思い出せるようになっているんです。ボム平さんもきっと、いつかは全部思い出せるはず」
だから今は思い切り楽しみましょうよ、とオリビアはボム平の丸いボディに触れた(手があったら、間違いなく握っていた)。
「……無理に思い出そうと焦らなくても、大丈夫です。ボム平さんなら絶対に、大丈夫です」
「…オリビアさん」
何の根拠もないのに、オリビアは力強く言ってくれた。彼女なりにボム平を励ましているという事は、すぐに分かった。あれから場内を駆け回って、永い時を3人で過ごしたのだ。もしかして彼女は「あの時」も、焦る自分を気遣ってあんな事を―……。
「ありがとうっす、オリビアさん」
礼を言って舞台の方へ向き直ったボム平の顔は、笑っていた。
「…これでもオレ、楽しんでるんすよ。アニキ、カッコいいなぁ」
「……そうですか」
それならよかったです、とオリビアも笑った。
これからもずっと、3人で旅をして。もしかしたら他にも、ともに歩む者が現れるかも知れない。カミテープはまだ2本目。黄も、紫も、緑もある。きっとこの先も、素敵な冒険の旅が待ち受けている。
―そう信じていたかった。OEDOランドの澄んだ空に花火が上がり、ボム平の目に上空で散る火花が映る。理想郷の崩壊まで、あと少し。
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