俺にとって夢とは儚いものであり、叶わない「もしも」を見せてくるものであり、忘れたい苦しみを思い出させてくるものだ。……泥のように眠れたら、と思う夜に限っていつも悪夢を見た。世の中そんなものだと言ってしまえばただそれだけの話なのだが。
 だけど今夜は違っていた。反射的に夢だとわかるような、どこまでも白一色の空間に放り出されたのに、寒さも暑さも感じない。おまけに戦乱を経て研ぎ澄まされた、第六感とでも呼ぶべき何かがまったく反応しない。
「夢か」
 夢である。口に出すまでもなく、夢である。
 屋外か屋内かといえばおそらく中なのだろうが、あまりにも広く、調度品のひとつもありはしない。どこまでも広く、高く、ただただ白くなにもない。妙なことが立て続けに起こったとして何も不思議ではなかった。だってこれは夢なのだから。
「おっと」
 不意にくん、と左手が引かれた。見下ろすと、薬指に赤い糸が結ばれている。……ははあなるほどな、と誰が見ているわけでもないのにしたり顔をする。だとするとこの先に誰かがいるのだろうし、その誰かはひとりしかいない。
「わかったわかった、わかったってば」
 その誰かに手を引かれるかのように強引に引っ張られ、苦笑いしながら歩を進めた。
*
 赤い糸に引っ張られるままたどり着いた先には、予想した通りの誰かが待っていた。
「ベレスさん」
 呼びかけるとその人はやっと顔を上げた。ほぼ同時に手が止まる。
 何もない空間に揺れ椅子の茶色と、淡い桃色の部屋着を着たベレスさんの髪の緑。それと、俺の指に繋がったのと同じ赤。
「何してるんですか」
「見てわからない、編み物だよ」
 いやわかりますけど。編み物なんてできたんですねあんた。
 あの子に教わったんだよ。ところで君は私を何だと思ってるんだ。
 あの子、と言われて級友の顔が浮かんだ気がした。名前も含めてはっきり思い出せないのは、俺たち以外の誰かをここに介入させたくないという俺の心の狭さゆえだろうか。他愛無い言葉を投げ合いながらそんなことを考えた。
「ところで先生」
「なに」
「何か……こう、目的みたいなものはないんです」
「目的?」
「手袋とか羽織るものとか、普通そういうものの形になるでしょう」
 ベレスさんは俺を見つめていた目をふたつ、音もなく自分の手元にふたたび落とした。
 ベレスさんの足元に
カット
Latest / 36:15
カットモードOFF