「……逃げてもいいですかね?」
「その場合、僕は君を諦めるだけだけど、恐らく連れのプレイヤーは死んでしまう可能性は高いよ」
何も変わらない荒野の景色は、オレの心に何故か焦りを生んでいく。
そんな中、俺の頭は最大級に回転している。
セイバーさんから付け狙う宣言をされた俺には、現状2つの選択肢があると考えられる。
一つ、敵対。
これは非常に適正。
この話の流れであれば当然であるし、俺と点心さんだったらできないことはないとは思う。
点心さんが攻撃、俺が攻撃をいなす。
忠実にそれをやり続ければ、相手があのセイバーさんであろうといずれは倒せると思おう。
しかしそれは、セイバーさんがこれ以上不確定なパワーアップや隠し玉を持っていない場合。
未だに俺の【生への執着】は再起動が不可能であり、MPはマイナスである。
セイバーさんを本気で相手にする場合、【生への執着】スキルが2つあったとしても足りないくらい。
俺はワンミスすれば死ぬ。
フルコンボチャレンジというわけ。
それに、セイバーさんはまだ見せていない生得スキルがある。
一つはあのバフ的なスキルであるのは分かっているのだが、それ以外の最低2つ以上あるスキルが分からない。
それに、会得スキルの構成も知らない以上、分が悪すぎる。
俺はパリィに特化しすぎて、現在それ以外の隠し玉がない。
それに気付かれないように何かを狙う素振りくらいはできるが、それが不利だと気づかれる前に倒すことはできるか。
「でも、ネームタグもフェイスマスクも健在な今、わかりますかね?」
「分からなくても良い。
君は可能性でも失いたくないんじゃないか? 相方を」
優しい顔して考えることがえげつない。
セイバーさんの言うことは非常に正しい。
現在敵わないなら逃げろ精神は、できる。
というかそれが俺に残された2つ目の道。
しかし、それをしたあとにセイバーさんの目を盗んで合流なんて難しいに決まっている。
ただでさえ最初から合うのが難しくて、わざわざハンドサインまで決めたのに、またそれをやったり、今度は出会えない可能性もある。
それを防ぐために声がけしようものなら、セイバーさんにも同等の情報は伝わる。
現在のイベントではチャット機能や念話機能は一部封印なのだ。
「さぁ、君が迷っているなら、こちらからいかせてもらう……よっ!」
思考がまとまらない。
天秤に乗せてもどちらが重いのかすらわからないため、判断に悩む。
その考えを待たないと言わんばかりのセイバーさんの突撃。
俺の視界にはセイバーさんの攻撃が既に見えている。
躱すことは容易だが、これ以上戦闘が続くと、セイバーさんも痺れを切らす可能性はある。
「タンマ!」
「待たない!」
仲良ければこれで多少は待ってくれるのだが、セイバーさんとは初対面。
そんな虚仮威しは通じない。
セイバーさんの大剣は、先程見えたラインを忠実に守って攻撃してくる。
俺は、悩んだ末、
「パリィ!」
『セイバーの攻撃、ダンのパリィ、【パリィ】スキル発動、【パリィ】スキル発動、パリィ成功』
敵対を選択した。
俺の攻撃は、おおよそ弾くことはできないであろう大剣を軽々と弾き、セイバーさんの体勢を崩す。
「やはり君は何らかのスキルで……っ」
「さぁ、やりましょうか」
セイバーさんへの絶好の攻撃チャンス。
俺はそれに対して、何もしない。
本当に何もしない。
ただ突っ立って、セイバーさんの体勢が崩れるのを見ている。
「なめているのかっ?!」
「別に舐めてはいません」
何もしない。
その選択をしたのは、何も敵対したいから、ということではない。
俺は現状敵対を選択しているが、別にこっから逃げることも考えている。
それこそ、今は結果として敵対行動を取っているように見えるが、別に倒す必要はない。
相手は先程のシステムコール的にも、3時間しか生きれない。
それに俺の能力を見極めてから、仲間に合流して復活しよう、なんて言っている。
セイバーさんにとってどれくらいが余裕なラインなのかは分からない。
1時間、もしくは2時間、もしくは2時間半経過しないとここからいなくならないのかもしれない。
それを待っていることの一巻でもあるし、それに単純に俺が考える時間を作るだけ、ってのもある。
「はぁっ!」
『セイバーの攻撃、ダンのパリィ、【パリィ】スキル発動、【パリィ】スキル発動、パリィ成功』
「やあぁっ!」
『セイバーの攻撃、ダンのパリィ、【パリィ】スキル発動、【パリィ】スキル発動、パリィ成功』
ただ突っ立って、余地攻撃の光る部分に対してパリィを決めるのに、外す余地は殆どない。
それこそ、まだイベントが始まって少ししか経っていない。
集中力も続いている。
数回打ち合いで、俺はすべての攻撃をパリィした。
……まぁ、当たると死ぬんだけど。
ちなみに、この間に点心さんはセイバーさんに攻撃をしていない。
恐らくは何らかの理由や目論見があるのだと思う。
俺にはまだ思い付けていないが、何か考えているのだろう。
俺のことを見捨てるなんてないはずだ(願望)
「……手強いんですね」
「別に、手強いわけじゃなくて、たまたまパリィが決まっているだけですよ」
「それがもし確率論だとしたら、どれだけ今のあなたは幸運なんでしょうかねぇ」
「さぁ?」
俺は首をかしげる。
ぶっちゃけ、パリィもしっかり決めたつもりが何かを間違っていて失敗することは結構ある。
初期の頃は結構そういうことも多かった。
今でもないから、この発言は嘘ではない。
「……引きましょう」
「へ?」
「いやいや、これ以上君に付き合って一生パリィされるのも、能力を見極めるという点では大事かもしれませんが、能力の見当は付いたし、これ以上やって足止めを食らっても仕方がありません。
僕はここで御暇させてもらいます」
俺は面食らった表情をする。
さっきまでの発言はなんのその。
俺と数合打ち合っただけで俺の能力を理解したらしい。
俺的にはありがたいのだが、本当にそれで良いのだろうか。
「それでは、また」
「あ、はい」
景色の変わらない荒野。
俺の目の前にいたイケメンは、姿を消した。
……え、なんで?
連載している小説(なろう)の更新分を書きます。
チャットにはなるべく反応できるようにします。
ゲームにイベントにて、死者蘇生イベントの最中、トップなプレイヤーから狙われた主人公。なんだかこちらにヘイトが向かっていてどうしようという感じ。