ロビン編
 パチパチ、火の爆ぜる音だけが響く。深い森の中、それ以外の音は一切聞こえず、自分以外の者は皆眠りについている。喋る相手がいなく、何もすることがないので口が寂しくなって懐に手を伸ばした。煙草の箱を取り出して一本、火をつけた。煙が薄く立ち上って漆黒に消えていく。ふう、と息を吐き出して背後に立つ人に一本の煙草を差し出した。
「黙って見てねぇでそちらさんもどうです?」
「あら、ばれてました?それじゃお言葉に甘えて一本頂きますわ。」
 へらりと笑うスーツ姿のサーヴァントが自分の手から煙草を受け取って少し離れた場所に腰掛けた。つい先日、マスターに新参者だと紹介された名を脳内から引っ張り出す。斎藤一。マスターの出身地、日本ではかなりの名が知れている組織に所属していた者。新選組の中で比較的名が知れている隊士のひとりであり、激動の時代を駆け抜けた者。先に召喚されていた土方歳三、沖田総司とかつて肩を並べて戦っていた者。
(…いや、あの人たちと肩を並べて戦ってた、ってそれだけでも十分凄いですわ)
 焚き火越しに彼の顔を覗き見る。特徴的な羽織を身に着けていない今の彼は“新選組の一隊士”として動いていた時代の姿よりももう少し後の姿らしい。日本の歴史はもちろん、新選組に関しても殆ど知らないので詳しいことは分からないが”新選組が終わった後の姿”だと誰かが言っていた。「その姿知らなかったのでとても新鮮です」とその誰かは笑っていたような気さえする。
「…なにか、付いてます?」
 酷い隈の残る目元を細めて彼が薄く笑う。おっと、どうやら見すぎてしまったようだ。本当に詳しいことは知らないのだが彼はあの新選組の中で間者のような働きをすることが多々あったとマスターから聞かされていたことから疑われている、と薄々と察した。ここに召喚されてからまだ日の浅い彼は周りを伺いながら日々を送っていることが安易に想像できた。自分も召喚されたばかりの時は周りを見て様子を伺いながら過ごしていたことを思い出す。更に自分の時と今ではサーヴァントの数があまりにも違いすぎて戸惑うのも無理はない。当時は人理修復中だったこともあってまだ気楽というかこんなピリピリした空気ではなかった。
(マスターもあんな下手くそな作り笑いじゃなかったですしね)
激動の時代を駆け抜けて平和になったその先をただ一人で見た者。寂しくも悲しくもあるその生き方を俺は羨ましいとさえ思う。だってそれは俺がかつて求めてやまなかったものだから。
「羨ましい、と思いました?」
 ひやりと心を冷やされた。焚き火に当たっていた身体はじんわりと暖かいのに心だけが凍てついた。心を見透かす術を持つのはあの可憐な司書さんだけで十分だというのに。
「何のことです?」
「や、別に変な意味じゃないですよ。ただ、僕はあなたという英霊のことをよく知りません。ただマスターから聞いた話、図書室にあった“ロビンフッド”の伝承、知っているのはそれだけです。」
「…ロビンフッドの伝承、ですか。確かに俺は世間的には悪者というか正義の側には位置付けられていない英霊ですよ。あなたとは違って。」
 一瞬、彼は目を丸くした。そして苦笑交じりに呟いた。
「いや、僕もあなたと同じですよ。新選組は幕末というあの時代において新政府の敵に回った。その時点で僕らは悪者になったんです。会津での戦いが終わって新選組が無くなってもそれは変わらなかった。」
 変わったのは僕ら新選組の生き残りがよぼよぼの爺さんになって死ぬ少し前になってからだと彼は言った。俺からしたらそれだけでも十分だと思う、との言葉は喉の奥に押し込んだ。彼の瞳がとても悲しそうな色をしていたから。言葉を選ぶ。あなたとの違いを、明確に。
「でも俺は変わりませんでしたよ。“ロビンフッド”は義賊であり正義の人間ではない。しかもあなたは“新選組の三番隊隊長、斎藤一”として名が知れている側の人だ。それに引き換え俺は“数多くのロビンフッドの一人”でオリジナルじゃない。」
 “ロビンフッド”という英霊は召喚される度に僅かに性質が異なる。数多くいるロビンフッドのうちの一人が選ばれて表に顔を出すからだ。新選組の隊士も数多くいる。生き残りだって彼一人ではなかったはずだ。しかし彼は斎藤一としてその存在を確立されている。自分自身の誠を、たとえ慕っていた上司と決別しても組織が消えても決して折れずに貫き通して生き残った。ロビンフッドという存在には出来なかったこと、そしてこれからも出来ないこと。
(____その生き方を、酷く羨ましく思うのだ。)
「ま、難しいことアレコレ言っちまいましたが。俺という不完全な存在だってここに召喚された英霊達は皆気にしやしないんだ。だからアンタももうちょい気楽にやっていきましょうや。」
「……はは、そんな肩に力が入ってるように見えました?まいっちゃうなあ。」
 再び彼が隈の濃い目元を細めた。胡散臭い笑い方は変わらなかったが身に纏う空気がほんの少しだけ変わったように感じられてほっと一息ついた。全くマスターも無茶苦茶な注文を付けるもんだ。新人の肩の力を抜かせてやってくれ、だなんて。俺を信頼してくれるのは嬉しいがちと気を許しすぎてませんかね?まあ、俺は昔のまま、影からそっと見守るだけですわ。
シェヘラザード編
「死んでしまうのは…困ります…!」
 図書室という静かな空間に困ったような声が響いた。その声に言葉を返す者は誰もおらず、もう一度同じ言葉が繰り返された。不意打ちだった先程とは打って変わってはっきりと音の出処が分かり、そちらに目を向けた。自分から数席離れた席に座っていた露出度の高い女性がこちらを伺いながら先程の言葉をもう一度口にした。
「え、僕です?」
「はい、無意識でしょうか、先程呟いておられました。“マスターちゃんが怪我するのを止めないなら自分が壁になるべきか”と…マスターもどうかと思いますが、あなたが壁になってしまうのも駄目です…死んでしまいます…。」
 おどおどしながらもはっきりと口に出したその女性。宝具タイプが同じで時々共に周回編成に組み込まれたことがあった気がする。名前は確かシェヘラザードさん。「千夜一夜物語」の語り手として名高い英霊。ただこんなに死に対して敏感な方だとは思わず少し驚いた。自分で言うのも変な話だが、僕は元々生きることに執着している訳ではない。生きてりゃいいとは思うけれど、それだけだ。生前のアレソレは結果的にそうなっただけというだけで。悪運が強かったとも言い換えられるのではないかと思う。会津と心中したって良かった筈なんだ。
 閑話休題。自分は「結果的に生き残っただけの男」だが、彼女はそうじゃなかったはずだ。死にたくない、その一心で物語を紡ぎ、一日一日命を必死に繋いで生き延びた女性。それが語り手として英霊に昇華された存在。それが目の前の彼女だと、太古の女王が言っていたことを思い出す。自分の命を惜しみ、それだけでなくその他の命もを惜しむ人。それが今このカルデアで貴重な存在だということは重々理解している。マスターも彼女と近い感性を持った人であることも。分かっているが生前の生き方はそう簡単には変えられないのが英霊。生前の行いを後悔して改めようと思う英霊の方が数が少ないのが現実である。特に古い時代の英霊は特に英雄として崇められた人物が多い。英雄とは「自ら、もしくは他人のためにその命を投げうった者」であり、カルデアに来てからも英雄で在ろうとする。トロイア戦争で若くして散った英雄、アキレウスあたりが最もな例ではないだろうか。
(他人の心配をするのはいいことだけど、ここだと心が擦り減らないだろうか。)
そう思えてしまうほどに、彼女のソレは妄信的に思えた。英霊はその人の過去の生き方をなぞったモノ。それが形を成したもの。それは分かっているが。
「斎藤一様、あなた様の生き方は知っております。生き残ることを上々としながらも自らはそのつもりがないことも。…ええ、確かに私達サーヴァントにとってはマスターを生き残らせることが最も重要なことは確かです。ですが私達が死ぬことで、エーテルに還ることで悲しむ者がいる事もどうか、お忘れなきよう。」
 確かなその忠告に首を縦に振る。あの心優しいマスターは自分たちサーヴァントが傷つくことを嫌がる。それは酷く甘い、とかつて数多の戦場を駆けた自分が嗤う。それと同時にその甘さが心地良いと笑う自分がいることも確かで。
「心配しなくても簡単には死にやしませんよ。なんせはじめちゃんはあの時代で七十になるまで生きた男ですから。」
「…ええ、信じております。それでも死んでしまうようなことがあれば、その時はマスター共々私の語る物語で守りましょう。私が死にたくないのは当然のことですが、マスターが死んでしまうのはとてもとても…。」
 顔を伏せた。ソレはサーヴァント全員が思うこと。マスターが死んでしまうことはこの世界の終わりに直結する。個人の感情として嫌なのは当然だが大前提としてマスターの死は世界の終わり、自分たちの二度目の死。で、あるならば。
(何としてでも生きて、マスターを生かして。そのために僕は刀を振るう。あなたは物語を織る。そうして生き残っていく。)
 やることは過去も今も変わらない。対象が変わっただけで、行動原理は何一つ変わっていないこの世界で死にたくないと願うものを救ける。それが”斎藤一の誠”。今世でも最後まで折れずに貫き通してみせる。そこでシェヘラザードさんは大きく胸を上下させた。どうやら納得頂けたらしい。
「というか、その忠告は僕よりもマスターちゃんにするべきでは?昨日のレイシフトでも怪我しましたしね。…本当、目を離したらすぐ死んでしまいそう。」
「………確かに。では私マスターに注意して参ります。死んでしまうのは…駄目です!」
 失礼いたしました。と礼儀正しく頭を下げて彼女が図書室を後にする。先程まで読んでいた本に目線を落とす。
(それにしても、死ぬのは駄目だなんて。言われたのは何時ぶりだっただろう。)
彼女の甘さも、胸に染み渡って溶けていく。斎藤は生き残る、と信頼されるのもいいけれど、こうして心配されるのも悪くないな、と思えてしまった。
おしまいです。見てくださってありがとうございます!!!!
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ろあ
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ななし@6fc07c
お疲れ様です🍵
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ろあ
ありがとうございます…(*ノωノ)
102:49
ななし@6fc07c
お疲れ様でした🍵🍡!!
103:12
ろあ
ずっと見てくださってありがとうございました!
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向き
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「星見盤と道標」原稿作業② ロビン編+シェヘラザード編
初公開日: 2021年01月30日
最終更新日: 2021年01月30日
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コメント
ロビン編とシェヘラザード編 二つ書きます
有言実行頑張りますので監視してもらえると嬉しいです